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アルファたちとの謁見 1
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中央の椅子にセナを導いたラシードは、左側の椅子に腰を下ろしたハリルにちらりと目を向ける。
「ハリルの勘違いを正しておいてやるが、王宮を出立したときから神馬の儀は始められている。私が不在だからといって、貴様は王宮に戻るまでは指一本、セナに触れられない掟だ。それを忘れるな」
目を見開いたハリルは、がたりと椅子から立ち上がった。
「はあ⁉ なんだよ、それ。そんな掟ありか⁉」
「奉納の儀と同じだ。神馬の儀においての神の末裔は、イルハーム神の代理人である。儀式の遂行を見届ける役目を負い、神の贄に触れることは許されない。私を出し抜こうというつもりだったのだろうが、そうはいかぬ」
ハリルが階段下のファルゼフに目を向けると、彼は頷きを返した。
「陛下の仰るとおりでございます。ハリル殿にはセナ様の護衛と、儀式の監視者という大切なお役目がございますゆえ、どうぞよろしくお願いいたします」
「……一気に力が抜けたな。まあ、いいけどよ。二週間の我慢だ……」
どかりと椅子に座って頭を掻いたハリルに、微苦笑を零す。
儀式の掟により、ハリルは二週間ほどセナに触れられないそうだけれど、ここは選抜されたアルファたちに華を持たせてあげるべきだろう。
一同が揃ったところで、名簿を手にしたファルゼフが告げた。
「それでは、神馬の儀に参加するアルファたちとの謁見を始めます。ほぼ騎士団員ですので、皆様の見知った人物ばかりだと思われますが、この謁見も儀式のうちですので彼らの挨拶をお受けください」
「うむ。始めよ」
ラシードが頷くと、ファルゼフは扉の前に待機した召使いに手を掲げた。召使いが重厚な扉を開けば、セナもよく知る人物が堂々とした足取りで登場する。
中央にセナ、そして両脇にラシードとハリル、さらに階段下にはファルゼフと大神官が見据えている謁見の間で、膝を突いた彼は朗々とした声を上げた。
「騎士団副団長、バハラームでございます! 今回の儀式にも選んでいただきまして、大変感激しております。身に余る栄誉に恥じぬよう、下半身共々、懸命にセナ様にお仕えいたします!」
きらきらした双眸でセナを見つめるバハラームの口上に、セナは引き攣った笑みで応える。
奉納の儀では一番乗りにセナを抱いたバハラームだが、年長者らしいねっとりとした愛撫や言葉責めは何度思い出しても赤面してしまう。
前回はアルファの地位により、挿入する順番はあらかじめ決められていたので、また順番があるとすれば今回もバハラームが一番乗りと思われる。
「よろしくお願いします……副団長さん」
あなたを抱きますと元気よく宣言されるのは、なんとも恥ずかしくて気まずいものである。
けれど恥ずかしがっているのはセナだけのようで、ラシードやハリルは真剣な表情を浮かべていた。その後も、ひとりずつ登場して挨拶を述べるアルファたちを、彼らは入念に吟味している。
アルファたちはいずれも騎士団員か、奉納の儀に参加したアルファたちなので、セナが知らない者はひとりもいない。皆は堂々と挨拶すると、謁見の間の後方に控えた。
二十人目……五十人目……八十人目と何事もなく通過し、やがて選抜された百名が近づいてくる。
「次の者が、九十九人目のアルファです」
ファルゼフの紹介により、扉から現れたアルファには見覚えがあった。いつも騎士団で自信なさげに俯いていて、剣の試合でもすぐに負けてしまう男だ。
「騎士団員の下位のほうの……イフサーンと申します。一応、アルファです。よ、よろしくお願いします」
おどおどとしてそう告げると、イフサーンは床に平伏した。
彼はイフサーンという名だと、セナは初めて知ることができた。イフサーンは奉納の儀で、最後にセナを抱いたアルファなのだ。目立たない優男だが、特殊な性癖の持ち主でもある……
「イフサーンはいつも率先して試合の後片付けをしてくれていますよね。とても気の利く方だなと思っていました。こちらこそ、よろしくお願いします」
セナが応えると、顔を真っ赤にしたイフサーンは逃げるように後方へ走り去ってしまった。
これでアルファたちの挨拶は終了かと思ったが、セナはふと首を捻る。
そういえば、儀式に参加するアルファは百人ではなかっただろうか。今回もイフサーンが最後を飾るのかと思ったが、そうではないらしい。ファルゼフは先程九十九人目と告げたので、もうひとりいるのだ。
「それでは、次の者が最後の百人目です」
ファルゼフの宣言に、どんな人だろうと思ったセナは扉に目を向けた。
そして、音もなく現れた人物に瞠目する。
謁見の間に控えていた九十九人のアルファたちの間から、ざわめきが零れる。
黒衣のその男は、慇懃に膝を突いた。
「……シャンドラです」
紫色の双眸は、射貫くようにセナを見据える。
なんと、シャンドラが百人目の男らしい。
彼は王族のアルファなので、資格としては充分だ。
後戯と称してシャンドラに抱かれたことを思い出したセナは、かぁっと頬を赤らめた。
「ハリルの勘違いを正しておいてやるが、王宮を出立したときから神馬の儀は始められている。私が不在だからといって、貴様は王宮に戻るまでは指一本、セナに触れられない掟だ。それを忘れるな」
目を見開いたハリルは、がたりと椅子から立ち上がった。
「はあ⁉ なんだよ、それ。そんな掟ありか⁉」
「奉納の儀と同じだ。神馬の儀においての神の末裔は、イルハーム神の代理人である。儀式の遂行を見届ける役目を負い、神の贄に触れることは許されない。私を出し抜こうというつもりだったのだろうが、そうはいかぬ」
ハリルが階段下のファルゼフに目を向けると、彼は頷きを返した。
「陛下の仰るとおりでございます。ハリル殿にはセナ様の護衛と、儀式の監視者という大切なお役目がございますゆえ、どうぞよろしくお願いいたします」
「……一気に力が抜けたな。まあ、いいけどよ。二週間の我慢だ……」
どかりと椅子に座って頭を掻いたハリルに、微苦笑を零す。
儀式の掟により、ハリルは二週間ほどセナに触れられないそうだけれど、ここは選抜されたアルファたちに華を持たせてあげるべきだろう。
一同が揃ったところで、名簿を手にしたファルゼフが告げた。
「それでは、神馬の儀に参加するアルファたちとの謁見を始めます。ほぼ騎士団員ですので、皆様の見知った人物ばかりだと思われますが、この謁見も儀式のうちですので彼らの挨拶をお受けください」
「うむ。始めよ」
ラシードが頷くと、ファルゼフは扉の前に待機した召使いに手を掲げた。召使いが重厚な扉を開けば、セナもよく知る人物が堂々とした足取りで登場する。
中央にセナ、そして両脇にラシードとハリル、さらに階段下にはファルゼフと大神官が見据えている謁見の間で、膝を突いた彼は朗々とした声を上げた。
「騎士団副団長、バハラームでございます! 今回の儀式にも選んでいただきまして、大変感激しております。身に余る栄誉に恥じぬよう、下半身共々、懸命にセナ様にお仕えいたします!」
きらきらした双眸でセナを見つめるバハラームの口上に、セナは引き攣った笑みで応える。
奉納の儀では一番乗りにセナを抱いたバハラームだが、年長者らしいねっとりとした愛撫や言葉責めは何度思い出しても赤面してしまう。
前回はアルファの地位により、挿入する順番はあらかじめ決められていたので、また順番があるとすれば今回もバハラームが一番乗りと思われる。
「よろしくお願いします……副団長さん」
あなたを抱きますと元気よく宣言されるのは、なんとも恥ずかしくて気まずいものである。
けれど恥ずかしがっているのはセナだけのようで、ラシードやハリルは真剣な表情を浮かべていた。その後も、ひとりずつ登場して挨拶を述べるアルファたちを、彼らは入念に吟味している。
アルファたちはいずれも騎士団員か、奉納の儀に参加したアルファたちなので、セナが知らない者はひとりもいない。皆は堂々と挨拶すると、謁見の間の後方に控えた。
二十人目……五十人目……八十人目と何事もなく通過し、やがて選抜された百名が近づいてくる。
「次の者が、九十九人目のアルファです」
ファルゼフの紹介により、扉から現れたアルファには見覚えがあった。いつも騎士団で自信なさげに俯いていて、剣の試合でもすぐに負けてしまう男だ。
「騎士団員の下位のほうの……イフサーンと申します。一応、アルファです。よ、よろしくお願いします」
おどおどとしてそう告げると、イフサーンは床に平伏した。
彼はイフサーンという名だと、セナは初めて知ることができた。イフサーンは奉納の儀で、最後にセナを抱いたアルファなのだ。目立たない優男だが、特殊な性癖の持ち主でもある……
「イフサーンはいつも率先して試合の後片付けをしてくれていますよね。とても気の利く方だなと思っていました。こちらこそ、よろしくお願いします」
セナが応えると、顔を真っ赤にしたイフサーンは逃げるように後方へ走り去ってしまった。
これでアルファたちの挨拶は終了かと思ったが、セナはふと首を捻る。
そういえば、儀式に参加するアルファは百人ではなかっただろうか。今回もイフサーンが最後を飾るのかと思ったが、そうではないらしい。ファルゼフは先程九十九人目と告げたので、もうひとりいるのだ。
「それでは、次の者が最後の百人目です」
ファルゼフの宣言に、どんな人だろうと思ったセナは扉に目を向けた。
そして、音もなく現れた人物に瞠目する。
謁見の間に控えていた九十九人のアルファたちの間から、ざわめきが零れる。
黒衣のその男は、慇懃に膝を突いた。
「……シャンドラです」
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なんと、シャンドラが百人目の男らしい。
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