淫神の孕み贄

沖田弥子

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巨人王の淫戯 1

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 セナの口元に布が宛がわれた。

「……う」

 くらりと目眩がして、猛烈な眠気に襲われる。倒れ込んだ体が、ファルゼフの腕の中に囚われた。
 どうして……?
 セナの脳裏を疑問が通り過ぎる。それきり意識は、深淵の底に沈んだ。



 ふいに、魂と体が合致する感覚がよみがえる。
 睫毛を震わせたセナは、ゆっくりと瞼を開けた。

「う……ん……」

 視界に入った景色は、どこかの寝室のようだった。いつの間にか寝台に横たえられていたのだ。堅牢な石壁には見覚えがないが、ここは、どの屋敷だったか…… 
 曇っていた脳が明瞭になり、鮮明にこれまでの出来事を思い出させる。

「はっ……! みんなはどこに……あの戦いはどうなって……」

 もう少しでリガラ城砦に辿り着くというところで、ベルーシャ軍に囲まれ、危ない目に遭っていたのだった。確か、馬車を出ようとしたところでファルゼフに薬のようなものを嗅がされ、意識を失ったのだ。
 ファルゼフはどうして、あんなことをしたのだろう。
 それよりも、戦況はどうなったのだろうか。セナが寝台で寝ているということは、皆は無事なのか。
 寝台を下りたセナは扉へ向かった。
 まだ薬が残っているのか少々ふらついたが、懸命に足に力を入れる。
 扉の把手に手をかけるが、押しても引いても重厚な扉は動かない。外側から鍵がかけられているようだ。セナは扉を叩いて大声を出した。

「すみません! 誰かいませんか? ここを開けてください!」

 扉の向こうで人の気配がした。
 ややあって扉が開いたので、ほっとしたセナは部屋から出ようとした。
 だが、出口を塞ぐように立っていた人物に瞠目する。

「あ……」
「やあ、お目覚めかな? トルキアの神の贄」

 巨躯の男から、低い声音がセナに向けて紡がれる。
 褐色の髪に紫色の瞳の男は、先程バトルアックスを操っていたベルーシャ国の巨人王アポロニオスだった。 
 頭を下げて戸口をくぐったアポロニオスの背後で、兵士の手により扉が閉められる。ちらりと目にした兵士は、ベルーシャ国の軍人だった。
 ふたりきりになった部屋で、セナはおそるおそる巨人王を見上げる。

「あの……あなたはベルーシャ国王でしょうか……?」
「いかにも。アポロニオスと呼んでくれ」
「僕の名は、セナといいます。アポロニオスさまは、どうしてトルキア国の領内で戦を仕掛けるようなことを行ったのですか?」

 じっくりとセナに目線を注いでいたアポロニオスは破顔した。
 おかしくて仕方ないというふうに喉を鳴らし、目尻に皺を刻んだ笑顔を見せる。
 屈託のない笑みは、先程戦斧を振るっていた残酷さとはかけ離れていた。

「君は面白いことを聞くね。どうして戦を仕掛けるかというと、奪うのが雄の性だからとしか答えられないな」

 具体的な理由などないらしい。セナは男だけれど雄とは言い難いので、奪いたいという衝動については全くわからなかった。

「アポロニオスさまの奪いたいものとは……リガラ城砦でしょうか?」

 かつて金鉱山を奪った巨人王の末裔が、次に欲しいものはリガラ城砦しかない。もしかしたら、ここはリガラ城砦の内部だろうか。
 室内を見回すセナを追い詰めるかのように、アポロニオスはその巨体を近づけた。
 恐れたセナは胸に手を当てて、後退る。

「それもあるけれどね。ここはリガラ城砦だよ。君が気絶したから、ここへ運んだのだ」
「そ、そうだったのですね。ありがとうございました」
「……私が怖いかな? もうバトルアックスは持っていないよ」

 アポロニオスは両手を広げて見せた。
 とても大きな掌は肉厚で、硬そうだ。彼が戦斧の熟練者だとわかる。見た目よりは優しげなアポロニオスだが、この手で叩かれたらセナの頭なんて吹き飛んでしまうだろう。

「あの、騎士団のみなさんはどうしているのでしょうか?」

 もっとも気になる疑問に、アポロニオスは困ったように笑った。

「ああ、彼らか。なかなかの精鋭だったようだね。我が戦斧部隊でひとりも殺せなかったのは初めてだ。君を人質に取ったら呆気なく降伏したので、全員を地下牢に閉じ込めてあるよ」

 セナが気絶したせいで、皆は降伏を余儀なくされてしまったらしい。
 申し訳ないと思う一方、全員の命が無事だったことにセナは安堵した。

「そうなのですね。では、みなさんを解放してください」
「なぜだい?」
「……え。なぜ、とは……」
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