淫神の孕み贄

沖田弥子

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地下牢の攻防 3

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 セナたちの間に絶望の色が広がった。
 シャンドラはどうしたのだろうか。階上で見張っていてくれたのではないのか。彼の姿はどこにも見えない。
 アポロニオスは鷹揚に顎をしゃくる。

「神の贄にはお仕置きをしなければならないな。まずはどうやって寝室と地下牢の鍵を開けたのか、その体にたっぷりと聞いてやろう」
「ぼ、僕は……絶対に喋りません!」

 震えながらも声を絞り出す。
 ふと、階段下にうずくまっている人影が目の端に映った。
 最後の五段ほどは牢側の壁が切れているので、ここに屈んでいれば下りてくる人の視界には入らない。
 下段に立っているセナからしか見えない位置だ。もちろんアルファたちからは見えているだろうが、誰もそちらには目を向けない。アルファたちは悔しそうにアポロニオス王を睨みつけていた。

「まあよい。啼かせてやればすぐに口を割るだろう。連れてこい」
「ま……待ってください!」

 階段下に陣取っているのはイフサーンだとわかった。
 彼は比較的小柄な身を屈めて、状況を窺っていた。刀身が松明の明かりに反射しないよう、腋の下に刃を潜ませている。
 短剣の最後の一本に勝機が秘められている。
 時間を稼がなければ。
 セナは声高に訴えた。

「お願いです、アポロニオスさま! アルファたちの命だけはお助けください。僕はどうなってもかまいません。そうだ、鍵の秘密と引き替えにするというのはどうでしょうか」
「まだそんなことを言っているのか。君に交渉の余地などないのだが……まあ、そうだな。私も悪魔ではない。考えてやらなくもない。もし、君が……」

 アポロニオスがセナに気を取られていた、そのとき。
 一閃がひらめく。
 うぐぁっ、と悲鳴を上げた兵士の足首から血が噴き出した。
 セナを拘束していた兵士はバトルアックスを放り出して、階段を滑り落ちる。
 兵士たちの間に動揺が走った。
 生じた隙に、アルファたちは素早く対応する。彼らは先ほど投げ捨てた九本の短剣を拾い上げる。

「セナ!」

 人質になっていたセナが自由を取り戻し、その身をハリルが引き寄せた。
 強靱で熱い腕に抱き込まれ、セナはようやく息をつく。

「ハ、ハリルさま……」

 殺されるかもしれないという恐怖と戦うのは並大抵のことではなかったが、解放された今頃になって鼓動が激しく脈打つ。
 血に染まった刃を掲げたイフサーンは、得意気な顔を見せた。

「へへ、ざまぁみろ。足の腱を切られたら、巨人だって立っていられないよな」

 階段下に身を潜めていたイフサーンが助けてくれたのだ。彼は敵に見つかって武器を捨てろと命じられたときにはすでにアルファたちの後方に隠れ、こっそり階段下に移動して身を潜めていた。
 してやられたアポロニオスは憤怒に顔を真っ赤に染める。

「この……蟻どもめ! 殺せ! 神の贄以外は皆殺しだ!」

 号砲を轟かせた兵士たちが階段下へ向かって殺到する。
 だが、狭い通路に巨躯が詰め込まれた状態で動くことができず、押し合いになる。
 アルファたちは手にした短剣で、階段下に到着した兵士をひとりずつ突いていった。兵士も戦斧で応戦しようとするが、狭い場所でしかも味方がひしめき合っているので、戦斧を振り上げることができない。

「こんな狭いところで戦斧が振れるもんか。そら、転べ!」

 意気揚々と短剣を振るイフサーンは、兵士の足元を狙う。
 逃げ場がない兵士たちは膝や足首を切られ、次々に尻餅をついていく。
 戦況が不利と見たアポロニオスは苦渋に塗れた怒号を上げた。

「くそっ、狭すぎる! おまえたち、階段から出ろ! ええい、邪魔だ。下りてくるな!」

 階段が狭く長いため、指示が全体に伝わらない。
 巨躯の兵士たちは下りるのか下りないのか、命令がわからず戸惑っている。
 そのとき、階上から悲鳴が上がった。
 ドドド……と地鳴りのような音が地下に響く。
 咄嗟にハリルは剣を引き、セナの体を引き寄せる。

「引け! 階段を上がるな!」

 階段を上りかけていたアルファたちはハリルの命令に従い、身を翻す。
 その途端、階上から雪崩のごとく巨躯が転がってきた。

「うわああぁ……!」
「なんだ⁉ どうしたのだ、報告しろ!」

 アポロニオスはなだれ込んできた兵士を踏みつけて声を張り上げる。
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