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計画の全容 1
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シャンドラの脅しにおののいた側近たちは、倒れたアポロニオスの姿をちらりと見てから、武器を捨てて地面に這いつくばった。降伏するという証である。
アルファたちから歓声が上がる。
助かったのだ。処刑を免れ、ベルーシャ軍からリガラ城砦を取り戻すことができた。
安堵したセナの体から力が抜ける。
頽れそうな体を、ファルゼフが抱き留めてくれた。
「まったく、なんということをしてくれるのですか。わたくしがアポロニオスの注意を引き、シャンドラがそこを仕留めるのは予定内であったのに、まさかセナ様がわたくしを庇ってくださるとは……。あのようなことをしてはいけません。万が一でも、あなた様が怪我などしたらわたくしの心臓が潰れます」
ぎゅうっと抱きしめられ、セナの頭は疑問符でいっぱいである。
ファルゼフを守りたいと思ったのは、やはり彼への想いゆえだ。
だけど、ファルゼフは果たしてどちらの国の味方なのか、彼が何を考えているのか、さっぱりわからない。
何やら、セナの知らないところでいろいろと計画が進行していたような気配があるのだが……
怒ったハリルがファルゼフの腕からセナを奪い返す。
「セナを返せ、この裏切り者め! おまえはなんなんだ? 巨人王を背負って、さっさとベルーシャへ帰れよ」
そうだそうだと、アルファたちから野次が飛ぶ。
援軍の騎士たちは視線を逸らして、倒れた兵士たちを淡々と捕縛し、地下から運び出していた。指揮を執っているのはラシードだ。彼は裏切ったファルゼフとシャンドラのことは、まるで眼中にないようである。
納得のいく説明を聞かない限り許せないといった威圧を滲ませて、アルファたちはファルゼフに詰め寄る。シャンドラはといえば、放ったクナイを無言で回収している。
取り囲まれたファルゼフは、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。
「皆様への説明が遅れましたね。実は今回の一連の流れは、すべてわたくしの想定の範囲内でした。皆様のご協力のおかげをもちまして、プランオメガは実行に移されました。ご苦労様です」
皆は目を瞬かせる。
ファルゼフの説明はセナにもよくわからない。
「どういうことですか? もう少し詳しくお願いします」
「つまりですね、神馬の儀を行うにあたり、最大の難点はベルーシャ国の存在です。アポロニオス王は大変好戦的かつ好色家という情報に基づき、今回の計画を練ったわけです。何も起こらなければ問題ありませんが、実際にベルーシャ国が仕掛けてきましたので、プランオメガを発動させたわけです。複数あった計画のうちのひとつですけれどね。それは損害を出さないためにセナ様を人質として差し出して時間を稼ぎ、わたくしとシャンドラは事前の仕込みどおりにベルーシャ王族の復位を望む仲間と信じ込ませて自由に行動し、援軍を呼び込むといった計画です。これにてすべての作戦は消化されました」
「え……つまり、ファルゼフが裏切ったのは計画のうちで、アポロニオス王を信頼させるためということですか?」
「そうですが? ちなみにラシード様はすべてご存じです。数々の計画及び作戦は無論わたくしの一存ではなく、ラシード様のお考えも重視しております。我々兄弟がベルーシャ国の上級王族を望むという案も、ぜひ活用すべきだと推してくださいました。シャンドラはわたくしの右腕ですので、彼も作戦はすべて把握しております」
「……でも、ファルゼフは一度もラシードさまを『我が王』と呼ばないから、王とは思っていないだとか話していましたけど……」
「わたくしとしましては、呼び名にこだわりはございません。あれは強いて言えば、今回の作戦においてセナ様に裏切りを信じ込ませるための仕込みですね」
「……ええと、それは、僕を騙すため……ではなく、つまり僕のためであり、みんなのためということですよね?」
「そのとおりでございます」
ファルゼフは慇懃な礼をした。
彼は裏切ったふりをしていたのだ。ファルゼフの心はラシードを主君と崇め、翻ることはなかったのである。『我が王』と呼ぶかどうかという話を聞かされたので、すっかり裏切られたと思い込んでしまった。
だが彼は密かにリガラ城砦を奪還するため、シャンドラをセナのもとに遣わしつつ、援軍を呼んでくれたのである。
計画の全容を聞いたアルファたちは唖然としていたが、ハリルは不満を漏らしてファルゼフに詰め寄る。
「なんで俺たちには、ひとこともなかったんだ⁉ 本当に処刑されるかと思ったぞ!」
「敵を欺くにはまず味方から、という格言がございまして。セナ様や騎士団の皆様が作戦を知っていたら、悲壮感に欠けるではありませんか。助けが来るとわかっていれば余裕が滲み出て、ベルーシャ軍に悟られてしまうでしょう。そうなれば作戦の失敗につながります」
さらりと述べるファルゼフに、セナは「なるほど」と頷く。
確かにセナの場合は、ついうっかり『ラシードさまが助けに来てくださいます』などと口を滑らせてしまうかもしれない。何も知らなかったので絶望し、恐慌に陥り、自害すら頭をよぎったので、それがアポロニオスに勝利を確信させる結果となったわけだ。
アルファたちから歓声が上がる。
助かったのだ。処刑を免れ、ベルーシャ軍からリガラ城砦を取り戻すことができた。
安堵したセナの体から力が抜ける。
頽れそうな体を、ファルゼフが抱き留めてくれた。
「まったく、なんということをしてくれるのですか。わたくしがアポロニオスの注意を引き、シャンドラがそこを仕留めるのは予定内であったのに、まさかセナ様がわたくしを庇ってくださるとは……。あのようなことをしてはいけません。万が一でも、あなた様が怪我などしたらわたくしの心臓が潰れます」
ぎゅうっと抱きしめられ、セナの頭は疑問符でいっぱいである。
ファルゼフを守りたいと思ったのは、やはり彼への想いゆえだ。
だけど、ファルゼフは果たしてどちらの国の味方なのか、彼が何を考えているのか、さっぱりわからない。
何やら、セナの知らないところでいろいろと計画が進行していたような気配があるのだが……
怒ったハリルがファルゼフの腕からセナを奪い返す。
「セナを返せ、この裏切り者め! おまえはなんなんだ? 巨人王を背負って、さっさとベルーシャへ帰れよ」
そうだそうだと、アルファたちから野次が飛ぶ。
援軍の騎士たちは視線を逸らして、倒れた兵士たちを淡々と捕縛し、地下から運び出していた。指揮を執っているのはラシードだ。彼は裏切ったファルゼフとシャンドラのことは、まるで眼中にないようである。
納得のいく説明を聞かない限り許せないといった威圧を滲ませて、アルファたちはファルゼフに詰め寄る。シャンドラはといえば、放ったクナイを無言で回収している。
取り囲まれたファルゼフは、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。
「皆様への説明が遅れましたね。実は今回の一連の流れは、すべてわたくしの想定の範囲内でした。皆様のご協力のおかげをもちまして、プランオメガは実行に移されました。ご苦労様です」
皆は目を瞬かせる。
ファルゼフの説明はセナにもよくわからない。
「どういうことですか? もう少し詳しくお願いします」
「つまりですね、神馬の儀を行うにあたり、最大の難点はベルーシャ国の存在です。アポロニオス王は大変好戦的かつ好色家という情報に基づき、今回の計画を練ったわけです。何も起こらなければ問題ありませんが、実際にベルーシャ国が仕掛けてきましたので、プランオメガを発動させたわけです。複数あった計画のうちのひとつですけれどね。それは損害を出さないためにセナ様を人質として差し出して時間を稼ぎ、わたくしとシャンドラは事前の仕込みどおりにベルーシャ王族の復位を望む仲間と信じ込ませて自由に行動し、援軍を呼び込むといった計画です。これにてすべての作戦は消化されました」
「え……つまり、ファルゼフが裏切ったのは計画のうちで、アポロニオス王を信頼させるためということですか?」
「そうですが? ちなみにラシード様はすべてご存じです。数々の計画及び作戦は無論わたくしの一存ではなく、ラシード様のお考えも重視しております。我々兄弟がベルーシャ国の上級王族を望むという案も、ぜひ活用すべきだと推してくださいました。シャンドラはわたくしの右腕ですので、彼も作戦はすべて把握しております」
「……でも、ファルゼフは一度もラシードさまを『我が王』と呼ばないから、王とは思っていないだとか話していましたけど……」
「わたくしとしましては、呼び名にこだわりはございません。あれは強いて言えば、今回の作戦においてセナ様に裏切りを信じ込ませるための仕込みですね」
「……ええと、それは、僕を騙すため……ではなく、つまり僕のためであり、みんなのためということですよね?」
「そのとおりでございます」
ファルゼフは慇懃な礼をした。
彼は裏切ったふりをしていたのだ。ファルゼフの心はラシードを主君と崇め、翻ることはなかったのである。『我が王』と呼ぶかどうかという話を聞かされたので、すっかり裏切られたと思い込んでしまった。
だが彼は密かにリガラ城砦を奪還するため、シャンドラをセナのもとに遣わしつつ、援軍を呼んでくれたのである。
計画の全容を聞いたアルファたちは唖然としていたが、ハリルは不満を漏らしてファルゼフに詰め寄る。
「なんで俺たちには、ひとこともなかったんだ⁉ 本当に処刑されるかと思ったぞ!」
「敵を欺くにはまず味方から、という格言がございまして。セナ様や騎士団の皆様が作戦を知っていたら、悲壮感に欠けるではありませんか。助けが来るとわかっていれば余裕が滲み出て、ベルーシャ軍に悟られてしまうでしょう。そうなれば作戦の失敗につながります」
さらりと述べるファルゼフに、セナは「なるほど」と頷く。
確かにセナの場合は、ついうっかり『ラシードさまが助けに来てくださいます』などと口を滑らせてしまうかもしれない。何も知らなかったので絶望し、恐慌に陥り、自害すら頭をよぎったので、それがアポロニオスに勝利を確信させる結果となったわけだ。
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