淫神の孕み贄

沖田弥子

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宰相の本心 2

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「では、わたくしの精を受け止めて、子を孕んでくださいますね」
「……えっ? ここで?」

 意外なことを言われて、セナは目を瞬かせる。
 もはや神馬の儀は遂行され、発情を頂点に押し上げることができた。これ以上、ファルゼフがセナを抱く理由はないはずなのだが。
 ファルゼフは苦笑を零す。

「そんなに期待してもらえるとは嬉しい限りですが、王宮へ戻ってからにいたしましょうか。受胎の儀として、正式にセナ様を抱くために」
「え……正式にって……ファルゼフは僕を発情させるために、愛していると言ったのですよね? あなたの計画はまだ続くのでしょうか」

 驚いたように目を見張ったファルゼフだが、額に手を当てて双眸を眇めた。
 また何か、彼を滅入らせる失言をしてしまったようである……

「なんと……わたくしの愛が計画のうちだと思われているとは……いえ、それも仕方のないことですね。わたくしが秘密裏に事を行ったゆえに、セナ様の疑心を招いたのですから」
「えっと……すみません。ということは……」

 セナとしてはファルゼフのことが好きなのだが、彼が聡明なあまり、どこに本音があるのか理解しがたいのである。どこまでが計画なのか、線引きがわからない。
 ファルゼフは真摯な双眸をセナに向けた。

「あなた様を愛しています。心から」
「え……」
「懐妊指導を行ったときは、計画のことを伏せておく必要がありましたので明確にお答えできませんでしたが、今なら言えます。セナ様を愛してしまった。わたくしは今回の功績をラシード様より認められ、受胎の儀に参加する資格を頂戴いたしました」
「……それじゃあ、その、ファルゼフと……?」

 セナの頬が朱に染まる。
 ファルゼフは本気でセナを愛していたのだ。
 彼の気持ちを知ることができて、嬉しさが胸に溢れる。それと同時に、彼の最後の策略も知り、今さらながら羞恥が込み上げた。
 ファルゼフは愛しげに目を細めて頷く。

「ええ。セナ様を抱いてわたくしの精を注ぎ、子を孕ませるというわけです。ふたりの神の末裔たちと同様に。セナ様がしたいと願っていた口淫も、ぜひ儀式の最中に取り入れてみましょうね」

 発情したセナの体は淫靡なことを聞かされて、より熱くなり、期待に胸が弾んでしまう。

「そ、そんなこと……覚えていてくれたんですね」
「もちろんです。セナ様は我々の男根をしゃぶりたいのでしょう?」

 ぎゅうっと、きつく抱きしめられながら、淫猥な台詞を耳元に囁かれる。
 王宮は、もうすぐそこに迫っている。
 セナは、こくりと頷いた。

「はい……。しゃぶらせて、ください」

 褒美のように、額にくちづけが降ってくる。
 ほう、と淡い息を吐いて、セナは優しいキスを受け止めた。



 王宮に到着したアルファたちは、彼らの帰還を待ちわびていた家族と再会を果たした。
 だが発情して歩くこともままならないセナは彼らに労をねぎらうこともできず、歓声を遠くに聞きながら、ラシードに横抱きにされて寝室へと運ばれる。

「すぐに受胎の儀を執り行う。セナの発情は頂点に達している。もはや一刻の猶予もない」

 王の通達を耳にした神官や召使いたちは、慌てて神殿への路を開いた。
 王宮の一角に建てられた壮麗な神殿の一室で、受胎の儀は執り行われる。それは神の末裔たちに交互に抱かれて、精を呑み、子を孕むための儀式。
 セナは熱に浮かされたように、ぐったりとラシードの腕に凭れた。
 今すぐに欲しい。
 雄々しい楔で貫かれたい。体の奥に濃厚な精を放ってほしい。
 発情したオメガの体は雄を欲して疼き、下腹に刻まれた淫紋がさらに欲情を煽り立てる。
 じんじんと痛いほどの肉欲が、体の奥深くで脈動している。
 小鳥のように体を震わせながら兄の腕に収まり、身を焦がす衝動にひたすら耐える。
 神殿に足を踏み入れたラシードの後ろを、ハリルが大股でついてくる。

「もちろん俺も参加するぞ。もう一ヶ月近くセナを抱いてない。俺の肉棒が限界だ」
「貴様という男には全くもって呆れるが、今回の騎士団の活躍を鑑み、多少の無礼は目を瞑ってやろう」
「礼は言わないぜ。そもそも俺たちは、ラシードとファルゼフの掌の上で踊らされてたわけだからな。ま、巨人王を撃退できたから文句はないが……ところで、この眼鏡も交ざるのか?」

 ハリルは後方へ向けて顎をしゃくる。
 そこには無言で付き従うファルゼフがいたからだ。
 最終的に神の贄に精を注いで孕ませるのは、神の末裔たちと決められている。そこにファルゼフも加わるということは、彼を神の末裔としてラシードが認めるということだ。
 ラシードは頷きを返す。
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