乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第二章 マリアの涙を盗め

刑事たちの訪問 2

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「平気です」

 病み上がりだから気を遣ってのことだと思うが、御婦人扱いしてほしくない。女だとバレたのではと憶測して心の奥が波立ってしまう。バレていなくても、今後も誰の手を取ることもないのだと改めて思い知り、勝手に落ち込んでしまう。

「少し話したいことがある。具合が悪くなればすぐに室内に戻ろう」

 俯いているノエルに気遣わしげな声が掛けられる。
 アランが先ほどの仮説に納得しているとは到底思えない。相談か、あるいは詰問が待っているのだろう。
 脳裏を昨夜のできごとが駆け巡る。
 月明かりの下で凶悪に光るダークグリーンの眸。
 強く握り返された掌は夜明けまで跡が残っていた。
 普段は強引だがあくまでも紳士的なアランの、男として、警察としての凄みを垣間見た。

「お話しとは何でしょう?」

 負けられない。
 乙女怪盗の矜持を守ることが、ライバルとしてのアランに対する礼儀だ。
 若干硬い声音を出したノエルと並んで薔薇の小径を歩きながら、アランはゆるりと口を開いた。

「乙女怪盗は何故宝石を盗むんだろうな」
「……はい?」

 突然の問いかけにノエルは首を捻る。
 警察がそういった疑問を持つとは意外だった。ノエルにとって宝石を盗む理由は明確なのだが、話すわけにもいかない。

「金のためじゃない。盗まれた宝石は闇市場にも、どこのルートにも乗ってこない。かといってコレクションでもない。共犯者と共有するコレクションなど有り得ないからな」
「そうでしょうか。有り得ないということはないでしょう」
「では、ノエルの狂気人形は誰かと共有しているか?」
「いいえ。誰にも狂気人形の素晴らしさは理解されませんね」
「そういうものだ。コレクターとは孤独なものなんだ。まして金にもならない盗みに手を貸す輩はいないだろう。つまり、乙女怪盗が宝石を盗むのは一味しか知らない特別な理由がある」

 ノエルは肝を冷やした。
 徐々に核心に近づいている気がする。というより、もはや掠めている。
 狂気人形の中に宝石が入っていると、アランが繋げて考えないよう祈りながら方向転換を図った。

「有名になりたいのでは? あの格好をしていることこそ不思議ですよ。新聞記事には、乙女怪盗は引退後に女優になるために名を売っていると書いてありました」
「名声か。印象付けたいのは確かだろうな。だが宝石を盗む理由とは別だろう。それならば絵画でも金塊でも良いはずだ」
「宝石は軽いから持ち運びが楽なんですよ」

 金塊なんて担がせられてはかなわない。小さいので盗みやすいのは事実だ。
 アランはゆるく首を振って、咲き乱れる薔薇に目をむけた。

「すべて後付けだ。俺は今まで様々な泥棒や詐欺師を見てきたが、乙女怪盗はそのどれにも当てはまらない。こんなに手こずるのは初めてだ。警察としての自信を失いそうだ」

 彼が弱気になるなんて意外すぎて目を瞠る。
 なんとか元気を出してほしかった。
 その自信喪失の原因を作っているのは他ならぬノエルなのだが。
 どんな励ましの言葉も上滑りしてしまいそうで、あれこれと考えながら薔薇のアーチを潜る。新緑から零れ落ちる木漏れ日が優しい。

「アランはどうして警察になったんですか? 御父上はお医者さまなんですよね」
「よく知ってるな」
「小耳に挟みました」

 もちろん、詳しく調査済みである。ロランヌ地方出身で医者の息子。学業成績は優秀だが問題行動の多い不良生徒。警察に入隊してからは数々の実績を作り、エリートコースまっしぐら。
 以上が調査から得た情報で一見すると優等生のようだが、学生時代の問題行動という点が気になった。
 授業をサボったりしたのかな。男の子同士で、やってられっかーパン食いにいこうぜーみたいな。そういうの憧れる。

「俺は田舎の生れでな」
「ロランヌ地方ですよね」
「そうだ。リュゼルという村だ」
「水車の名産地ですよね」

 アランは、ぷっと吹き出した。表情が綻ぶと意外にも少年のような若々しさが溢れる。

「行ったことないだろ。紙から得た情報ばかりだな」

 あ、バレた。
 ノエルは首都から出たことがない。地方の特色などは地理学から得た知識だけだ。

「引きこもりですから」
「その分だと水車も見たことがなさそうだな。大きいものは家の丈を超えるんだぞ。まあ、村には水車もあるんだが、夕陽や星が綺麗なんだ」
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