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獣人王の祝宴 2
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舞台の端から足を踏み外した天は、その勢いで傍にあった卓に手を付いてしまう。衝撃で倒れた杯から酒の飛沫が強かに散る。
「無礼者、なにをする!」
激昂して立ち上がった獣人の袖は零れた酒で濡れていた。狼型なので、彼は高位の官吏に違いない。青ざめた天は咄嗟に膝を着く。音楽が掻き消え、舞手たちは動きを止めた。
「も、申し訳ございませんでした」
零れた酒は床に染みを作ってしまっている。宴の席で、なんという無礼を働いてしまったのだろう。天は散った酒の雫に膝を濡らしながら、必死に額ずいた。
獣人の怒りは凄まじく、豪勢な料理の乗せられていた皿を太い腕で薙ぎ払う。床に叩きつけられた皿の破壊音に戦慄が走った。
「俺の服が酒で汚れたではないか! 貴様のような愚図は追放だ。今すぐに王宮を出て行け!」
追放を宣告されてしまい、息を呑む。
家には帰れない。生涯を宮仕えに費やさなければならないのだ。
けれど口答えをすれば、処刑されてしまうかもしれない。天はどうして良いのか分からず、震えながら眦に涙を滲ませた。
床に額を擦りつけている天のすぐ傍で、散らばる皿の欠片を踏みしめる音が鳴る。
「まあ待て、バシリオ。謝っているのだから許してやれば良いではないか。この程度は余興のうちだ」
鷹揚な声音が鼓膜をくすぐる。おそるおそる顔を上げれば、青褐色の艶やかな毛並みをした狼型の獣人が口端を吊り上げていた。
彼は先ほど、天の踊りを熱心に見ていてくれたひとだ。
バシリオと呼ばれた獣人は不服そうに眉根を寄せたがなにも言わず、どかりと腰を下ろす。それを機に宮男が皿を片付け、楽団は再び音楽を奏で始めた。
助けてくれたのだ。お礼を申し上げても良いだろうか。
おずおずと身を起こすと、青褐色の獣人に掌を差し出された。
「立ちなさい。君も濡れてしまったな」
大きな掌に、自らの手を重ね合わせる。熱くて、心地良い体温がじわりと掌を通して伝わる。なぜか、とくりと胸が高鳴る。
初めて会ったひとなのに、遠い昔から知っていたような、不思議な既視感を覚えた。
「あ……あの、ありがとうございました」
「こちらへ。着替えを手伝おう」
手を取られたまま導かれて、広間に隣接した部屋に入る。客人が休むための控えの間は豪奢な調度品に囲まれており、室内の一角には牡丹が描かれた衝立が置かれている。
彼と共に衝立の内に収まると、宮男が盆を置いていく気配がした。ついと腕を伸ばした獣人は、煌びやかな紗布を手にする。まさか、彼が自ら着替えさせてくれるというのだろうか。
「あの、自分で着替えられますから」
彼は王の側近だろうか。狼型であることだし、とても地位が高いはずだ。大勢いる妃候補のひとりである舞手の天とは天地ほどの差があるのに、着替えを手伝わせてはいけない。
身を引いて困っていると、獣人は悪戯めいた笑みを浮かべた。
「私の名を訊ねなくても良いのか?」
「あ……失礼いたしました。僕は天といいます。あなたさまのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「私は、エドアルドだ。エドと呼んでくれ」
「はい……エド」
話しながらエドは天の前に跪き、濡れた紗布を手際良く剥ぎ取る。名乗り合っているうちに着替えさせられ、それ以上断れなくなってしまった。下衣も膝頭から脛にかけて、じっとりと酒に濡れている。エドは下衣を留めている腰紐に手をかけた。
下衣を引き下ろしてしまえば、素足が見えてしまう。
「脱がせるぞ」
どきりと鼓動が跳ねる。
エドの声音に淫靡な響きが含まれているような気がして、天は羞恥に頬を染めた。
下穿きは身につけている。着替えさせてもらうだけなのだから、彼になにも他意はない。天は胸元で両手を握りしめながら小さく頷いた。
するりと下衣が足許に落ちる。少し外気が冷たくて、ぶるりと足を震わせた。
巨躯のエドは屈んでも、尖った耳が天の胸くらいの位置にある。ふわふわの毛に覆われた耳が、ふと沈んだ。
「えっ……」
ぬるり、と濡れた感触が膝頭に伝わる。
目線を落とすと、長い舌を伸ばしたエドが晒された白い膝頭を舐め上げていた。
「酒を拭わなくてはな」
「あっ、そんな……」
熱い舌が膝頭を愛撫し、つうと脛へ下りていく。足首まで這わせるとまた膝へ戻り、左足も同じように舐め上げられた。
エドの舌が肌を伝うたびに初めて知る淫靡な感覚に襲われて、腰奥に疼きが凝る。天はたまらなくなり、逞しい肩に縋りついた。
淫猥な舌は膝頭から、柔らかな腿へと這い上がる。
「無礼者、なにをする!」
激昂して立ち上がった獣人の袖は零れた酒で濡れていた。狼型なので、彼は高位の官吏に違いない。青ざめた天は咄嗟に膝を着く。音楽が掻き消え、舞手たちは動きを止めた。
「も、申し訳ございませんでした」
零れた酒は床に染みを作ってしまっている。宴の席で、なんという無礼を働いてしまったのだろう。天は散った酒の雫に膝を濡らしながら、必死に額ずいた。
獣人の怒りは凄まじく、豪勢な料理の乗せられていた皿を太い腕で薙ぎ払う。床に叩きつけられた皿の破壊音に戦慄が走った。
「俺の服が酒で汚れたではないか! 貴様のような愚図は追放だ。今すぐに王宮を出て行け!」
追放を宣告されてしまい、息を呑む。
家には帰れない。生涯を宮仕えに費やさなければならないのだ。
けれど口答えをすれば、処刑されてしまうかもしれない。天はどうして良いのか分からず、震えながら眦に涙を滲ませた。
床に額を擦りつけている天のすぐ傍で、散らばる皿の欠片を踏みしめる音が鳴る。
「まあ待て、バシリオ。謝っているのだから許してやれば良いではないか。この程度は余興のうちだ」
鷹揚な声音が鼓膜をくすぐる。おそるおそる顔を上げれば、青褐色の艶やかな毛並みをした狼型の獣人が口端を吊り上げていた。
彼は先ほど、天の踊りを熱心に見ていてくれたひとだ。
バシリオと呼ばれた獣人は不服そうに眉根を寄せたがなにも言わず、どかりと腰を下ろす。それを機に宮男が皿を片付け、楽団は再び音楽を奏で始めた。
助けてくれたのだ。お礼を申し上げても良いだろうか。
おずおずと身を起こすと、青褐色の獣人に掌を差し出された。
「立ちなさい。君も濡れてしまったな」
大きな掌に、自らの手を重ね合わせる。熱くて、心地良い体温がじわりと掌を通して伝わる。なぜか、とくりと胸が高鳴る。
初めて会ったひとなのに、遠い昔から知っていたような、不思議な既視感を覚えた。
「あ……あの、ありがとうございました」
「こちらへ。着替えを手伝おう」
手を取られたまま導かれて、広間に隣接した部屋に入る。客人が休むための控えの間は豪奢な調度品に囲まれており、室内の一角には牡丹が描かれた衝立が置かれている。
彼と共に衝立の内に収まると、宮男が盆を置いていく気配がした。ついと腕を伸ばした獣人は、煌びやかな紗布を手にする。まさか、彼が自ら着替えさせてくれるというのだろうか。
「あの、自分で着替えられますから」
彼は王の側近だろうか。狼型であることだし、とても地位が高いはずだ。大勢いる妃候補のひとりである舞手の天とは天地ほどの差があるのに、着替えを手伝わせてはいけない。
身を引いて困っていると、獣人は悪戯めいた笑みを浮かべた。
「私の名を訊ねなくても良いのか?」
「あ……失礼いたしました。僕は天といいます。あなたさまのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「私は、エドアルドだ。エドと呼んでくれ」
「はい……エド」
話しながらエドは天の前に跪き、濡れた紗布を手際良く剥ぎ取る。名乗り合っているうちに着替えさせられ、それ以上断れなくなってしまった。下衣も膝頭から脛にかけて、じっとりと酒に濡れている。エドは下衣を留めている腰紐に手をかけた。
下衣を引き下ろしてしまえば、素足が見えてしまう。
「脱がせるぞ」
どきりと鼓動が跳ねる。
エドの声音に淫靡な響きが含まれているような気がして、天は羞恥に頬を染めた。
下穿きは身につけている。着替えさせてもらうだけなのだから、彼になにも他意はない。天は胸元で両手を握りしめながら小さく頷いた。
するりと下衣が足許に落ちる。少し外気が冷たくて、ぶるりと足を震わせた。
巨躯のエドは屈んでも、尖った耳が天の胸くらいの位置にある。ふわふわの毛に覆われた耳が、ふと沈んだ。
「えっ……」
ぬるり、と濡れた感触が膝頭に伝わる。
目線を落とすと、長い舌を伸ばしたエドが晒された白い膝頭を舐め上げていた。
「酒を拭わなくてはな」
「あっ、そんな……」
熱い舌が膝頭を愛撫し、つうと脛へ下りていく。足首まで這わせるとまた膝へ戻り、左足も同じように舐め上げられた。
エドの舌が肌を伝うたびに初めて知る淫靡な感覚に襲われて、腰奥に疼きが凝る。天はたまらなくなり、逞しい肩に縋りついた。
淫猥な舌は膝頭から、柔らかな腿へと這い上がる。
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