一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~

沖田弥子

文字の大きさ
8 / 56

八話

しおりを挟む
 こんな優しい人と恋愛できたら、すごく幸せなんだろうな……。
 そんな考えをちらりと抱いてしまう。
 でも実現するわけがない。彼は御曹司なのだから。
 想像したのがいけないことのように、紗英はかぶりを振る。
「私、男運がないんですよね。なぜか今まで付き合った人は、浮気したり、お金をたかってきたりっていう、いわゆるクズ男ばかりなんです。だからもう恋愛なんてしたくないです」
 男運がないと言いながらも、紗英はクズ男を掴んでしまう世のからくりに気がついていた。
 イケメンのいい男は、可愛い女と付き合っている。
 だから美人でも可愛くもない自分は、クズ男くらいにしか拾われないのである。
 別れたら寂しいからという理由で、好きでもないのにズルズルと付き合う自分も悪いのだろう。
 だから、これからは恋愛せずに、仕事だけに邁進したほうがいい。もう傷つくのはたくさんだった。
 ところが悠司は真摯な双眸をこちらに向けて力説する。
「今までの男たちは紗英の優しさに甘えていたんだ。つまり、きみが優しいという証拠だよ。これからは甘えさせてくれる男と恋愛すればいい」
「……もう恋愛はこりごりです。甘えさせてくれる人となんて、出会える気がしませんし、これからは仕事だけに――」
 チュ、と唇に柔らかなものが触れた。
 突然のことに瞠目した紗英は、悠司の顔がゆっくりと離れていくのを目にする。
 え……今、キス、された……?
 ぱちぱちと目を瞬かせていると、悠司は艶めいた微笑を浮かべた。
「それは困るな。きみを甘えさせる男は、すぐ目の前にいるよ」
「え……あの……」
「俺じゃ、だめかな?」
 なにが起こったのか脳内で処理できず、紗英は呆然とした。
 まさか、悠司は口説いているのだろうか。
 イケメン御曹司の彼が、凡庸な一介の社員である私を……?
 そんなことはありえない。
 都合のよい幻想か、もしくは悠司の冗談だろう。
 しかも彼は、紗英が恋愛を捨てることを阻止するかのように、キスした気がする。
「あの……今、キス……」
「したよ」
「え……なんで……」
「可愛いから、キスしたかった」
 悠司はなにを言っているのだろう。
 彼の言動が理解できず、紗英は眉をひそめる。
「からかうのは、やめてください」
「からかってないよ。俺は本気だ」
 悠司の目は真剣だった。
 顔を傾けた彼は、またキスしそうなほどに紗英に近づく。
 彼の吐息を感じて、慌てた紗英は身を引いたが、すぐにソファの背についてしまった。
「でも、私と付き合った人はみんなクズ男なんです。もし悠司さんが私と付き合うようなことになったら、あなたもクズ男に変貌してしまうかもしれません」
 イケメンで紳士的な悠司を、紗英と付き合うことにより、クズ男に変えてしまうことは避けたかった。
 悠司の言う通り、紗英の優しさに男たちは甘えてしまうのかもしれない。それにより、いっそう男がさらなるクズ男に変わっていくのだ。
 だから会社の御曹司である悠司を、紗英と付き合うことによって、クズ男に変えるなんてことがあってはならない。
 悠司の未来を、そして会社の未来を変えてしまうことになりかねないから。
 それを聞いた悠司は、おもしろいことを耳にしたかのように噴き出した。
 彼はひとしきりくつくつと笑うと、顔を上げた。挑戦的な目を紗英に向ける。
「なるほど、そうくるか。――いいじゃないか。俺をクズ男にしてみろ」
「そ、そんなのいけませんよ!」
「俺がクズ男になったら、俺の負け。きみのことは諦める。ただし、きみが俺に惚れて甘えられたら、俺の勝ち。俺の言うことを聞いてもらう。それでどうかな?」
 なぜか、クズ男になるかならないかという勝負に引き込まれてしまった。
 きっと悠司も酔っているので、自分がなにを言っているのか、彼自身わかっていないのかもしれない。
 お互いに酔っ払いなので、その場の勢いだ。
 そろそろこの話は終わりにしたいので、紗英は頷いた。
「わかりました。その勝負にのりましょう」
「よし。それじゃあ、場所を移動しようか」
「勝負のためにですか?」
「そう。勝負のために」
 腕相撲でもするのかな……と、紗英は酔った頭で考えた。
 悠司に手を取られて立ち上がる。
 堂々としてエスコートする彼の顔色は変わらず、足取りもしっかりしていた。まったく酔っているようには見えず、紗英は首をかしげた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...