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十七話
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すると悠司は、チュッと紗英の唇にキスを落としたのだった。
彼のキスは、どこまでも甘い。
戸惑う紗英は愚問を口にする。
「あの……どうしてキスするんですか? しかも唇に……」
「きみが可愛いからだよ。なにか困ることがある?」
「……その、悠司さんが困るのではないかと。誰かに見られたら、私たちの仲を誤解されてしまいますよね」
あくまでも、勝負がつくまでの仮の恋人である。
本当に付き合っているわけではない。
すると、悠司は小首を傾げた。
「俺は誰に見られてもまったくかまわない。自分の行動に後ろめたいことはない」
「……社内では秘密にしてくださいね。あくまでも仮の恋人なんですから」
「わかってるよ。でも、今はいいだろう?」
とろりとした笑みを見せた悠司は、また唇にキスをした。
ああ、どうしよう……。
またクズ男を作り上げてしまいそうな気がする。
悠司の甘いキスを受けながら、紗英は困惑していた。
次の休日――。
ついにデートの日がやってきた。
悠司は約束通り、様々なデートコースの提案を、メッセージで送ってきた。
遊園地なら、ここがおすすめ、水族館はここ。さらに現在上映されている映画の一覧、近隣のカフェのメニューに至るまで、綺麗にまとめられていた。
しかも見やすく、かつ押しつけがましくない。
なんて理想の彼氏なの……と思いかけて、自らの心を抑える。
ときめいては、いけない。
自分はクズ男を製造する女なのだ。悠司をクズ男にしないためにも、彼を好きになってはならない。
スマホを握りしめた紗英は、ひとまず三つ提示されたデートコースのうちのどれかを選択することにした。
一番のデートコースは、遊園地がメイン。二番は水族館。三番は映画、もしくはプラネタリウム。それらにもれなく食事とカフェがつく。
考えた結果、三番と答える。
遊園地と水族館は滞在時間が長くなるわけなので、敷居が高いと思ったのだ。
デートするのは初めてなので、まずは映画などアクティビティの低いものにしたい。
それに、プラネタリウムに興味があった。一度も見たことがないし、クズ男のおかげですっかり心が荒んでいるので、星空でも見て癒やされたい。
返信すると、悠司から『オーケー。デート、楽しみだね』というメッセージが返ってきた。それから、『おはよう』『おやすみ』など、しつこくなく、かといって放っておくでもないメッセージをくれる。
もちろん会社では私的な会話をしないけれど、その分、メッセージでやり取りできるので、安心感が生まれた。
なんだか本物の恋人同士のようで心が浮き立つ。
だから今日のデートは楽しみだった。
自室の鏡の前で、紗英はデート用に購入した服を着てチェックした。
さすがにジャージで行くほど女子力は失っていない。だけどデートに着ていけるような服を持っていなかったので、新しく購入した。
ピンクのロングスカートは裾がふわりと広がったマーメイドスタイルで、白のトップスはクシュクシュの袖口がアクセントになっている。春らしい、おしゃれな格好ではないだろうか。
今のトレンドがよくわからなかったので、マネキンが着ている服一式をそのまま購入しただけなのだが……。
どこにも糸くずや髪の毛が服についていないことを確認すると、紗英は斜めがけの小ぶりのバッグを手にした。アパートの戸締まりをし、ヒールで慎重に階段を下りる。
少し不安な気持ちもないわけではないが、悠司とのデートは楽しみだ。
うきうきして、心がふわふわする。
紗英は待ち合わせの駅前まで早足で向かった。
時計を確認しつつ、所定の場所まで辿り着く。
さりげなく辺りを見回したが、悠司はまだ来ていないようだ。
そのとき、プッと軽いクラクションの音が鳴ったのを耳にして、ふとそちらを向く。
駅のロータリーに、純白の高級車が停車していた。
ウインドウが下がり、悠司が顔を出して手を振る。
「紗英、こっち」
「悠司さん!」
紗英が駆け寄ると、悠司はわざわざ運転席を降りて回り込み、助手席側のドアを開けた。
「さあ、どうぞ」
「車なんですね……。お邪魔します」
てっきり電車で移動すると思っていたので、彼が高級車に乗って現れたから驚いた。
助手席に座ると、革張りのシートがふわりと心地よく体を包み込む。特別仕様の車らしく、シートも純白だった。
運転席に乗った悠司は、シートベルトを締めながら、隣の紗英に微笑みかける。
「俺の車を見せたくてね。助手席に乗せたのは紗英が初めてだから、安心してくれ」
彼のキスは、どこまでも甘い。
戸惑う紗英は愚問を口にする。
「あの……どうしてキスするんですか? しかも唇に……」
「きみが可愛いからだよ。なにか困ることがある?」
「……その、悠司さんが困るのではないかと。誰かに見られたら、私たちの仲を誤解されてしまいますよね」
あくまでも、勝負がつくまでの仮の恋人である。
本当に付き合っているわけではない。
すると、悠司は小首を傾げた。
「俺は誰に見られてもまったくかまわない。自分の行動に後ろめたいことはない」
「……社内では秘密にしてくださいね。あくまでも仮の恋人なんですから」
「わかってるよ。でも、今はいいだろう?」
とろりとした笑みを見せた悠司は、また唇にキスをした。
ああ、どうしよう……。
またクズ男を作り上げてしまいそうな気がする。
悠司の甘いキスを受けながら、紗英は困惑していた。
次の休日――。
ついにデートの日がやってきた。
悠司は約束通り、様々なデートコースの提案を、メッセージで送ってきた。
遊園地なら、ここがおすすめ、水族館はここ。さらに現在上映されている映画の一覧、近隣のカフェのメニューに至るまで、綺麗にまとめられていた。
しかも見やすく、かつ押しつけがましくない。
なんて理想の彼氏なの……と思いかけて、自らの心を抑える。
ときめいては、いけない。
自分はクズ男を製造する女なのだ。悠司をクズ男にしないためにも、彼を好きになってはならない。
スマホを握りしめた紗英は、ひとまず三つ提示されたデートコースのうちのどれかを選択することにした。
一番のデートコースは、遊園地がメイン。二番は水族館。三番は映画、もしくはプラネタリウム。それらにもれなく食事とカフェがつく。
考えた結果、三番と答える。
遊園地と水族館は滞在時間が長くなるわけなので、敷居が高いと思ったのだ。
デートするのは初めてなので、まずは映画などアクティビティの低いものにしたい。
それに、プラネタリウムに興味があった。一度も見たことがないし、クズ男のおかげですっかり心が荒んでいるので、星空でも見て癒やされたい。
返信すると、悠司から『オーケー。デート、楽しみだね』というメッセージが返ってきた。それから、『おはよう』『おやすみ』など、しつこくなく、かといって放っておくでもないメッセージをくれる。
もちろん会社では私的な会話をしないけれど、その分、メッセージでやり取りできるので、安心感が生まれた。
なんだか本物の恋人同士のようで心が浮き立つ。
だから今日のデートは楽しみだった。
自室の鏡の前で、紗英はデート用に購入した服を着てチェックした。
さすがにジャージで行くほど女子力は失っていない。だけどデートに着ていけるような服を持っていなかったので、新しく購入した。
ピンクのロングスカートは裾がふわりと広がったマーメイドスタイルで、白のトップスはクシュクシュの袖口がアクセントになっている。春らしい、おしゃれな格好ではないだろうか。
今のトレンドがよくわからなかったので、マネキンが着ている服一式をそのまま購入しただけなのだが……。
どこにも糸くずや髪の毛が服についていないことを確認すると、紗英は斜めがけの小ぶりのバッグを手にした。アパートの戸締まりをし、ヒールで慎重に階段を下りる。
少し不安な気持ちもないわけではないが、悠司とのデートは楽しみだ。
うきうきして、心がふわふわする。
紗英は待ち合わせの駅前まで早足で向かった。
時計を確認しつつ、所定の場所まで辿り着く。
さりげなく辺りを見回したが、悠司はまだ来ていないようだ。
そのとき、プッと軽いクラクションの音が鳴ったのを耳にして、ふとそちらを向く。
駅のロータリーに、純白の高級車が停車していた。
ウインドウが下がり、悠司が顔を出して手を振る。
「紗英、こっち」
「悠司さん!」
紗英が駆け寄ると、悠司はわざわざ運転席を降りて回り込み、助手席側のドアを開けた。
「さあ、どうぞ」
「車なんですね……。お邪魔します」
てっきり電車で移動すると思っていたので、彼が高級車に乗って現れたから驚いた。
助手席に座ると、革張りのシートがふわりと心地よく体を包み込む。特別仕様の車らしく、シートも純白だった。
運転席に乗った悠司は、シートベルトを締めながら、隣の紗英に微笑みかける。
「俺の車を見せたくてね。助手席に乗せたのは紗英が初めてだから、安心してくれ」
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