一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~

沖田弥子

文字の大きさ
21 / 56

二十一話

しおりを挟む
「お。紗英は自炊派なのか。なにを作るの?」
 自炊はするけれど、料理を自慢できるほどの腕前ではない。
 ポテトをかじりながら、紗英はぼそぼそと呟く。
「肉じゃがとか、野菜炒めとか、カレーとか……ふつうです」
「へえ、すごいな。紗英の作った肉じゃが、食べたいな」
「……機会がありましたら、披露します」
 会話していると相手の様々な部分を知ってしまい、未来のいろんな約束事ができてしまう。
 約束してもいいのだろうか。
 悠司とは、かりそめの恋人という覚束ない関係なのに。
 悩んでいる紗英が無心にポテトをかじっていると、ちらりと悠司がこちらに目を向けた。
「ところで、俺もそのポテトが欲しいな」
「えっ」
「ほら、運転中だからさ。紗英が食べさせてよ」
「あっ、失礼しました。今、悠司さんの分を出しますね」
「いや、紗英の食べかけでいいんだ」
「え……そういうわけには……いきませんよ」
 細いポテトの残りをつるりと食べた紗英は、もうひとつの袋を開けた。そこには温かいハンバーガーとポテトが入っている。とりあえず別の袋に入っていた冷たいコーラのドリンクカップを、ふたりの間にあるドリンクホルダーに入れる。
 一本のポテトを摘まんだ紗英は、運転する悠司の口元に持っていった。
「どうぞ」
「いただきます」
 もぐもぐとポテトを頬張った悠司は、頬を綻ばせる。
「コーラも飲みたいな。よろしく」
「はい」
 ドリンクホルダーにあるので、片手で取れるかと思うが、悠司は甘えているのだろう。
 紗英はドリンクカップを手にすると、ストローを悠司の口元に咥えさせた。
「うまい。次はハンバーガーを頼むよ。ソースが垂れたら、紗英が舐め取ってくれよな」
「ええ……?」
 ということは悠司の口元にソースがついたら、舌で舐め取らなければならない。運転中なので危険だし、恥ずかしいので、それだけは避けたい。
 紗英は慎重に包み袋を剥くと、悠司の口元に近づけた。彼は前方に目線を注ぎながら、器用にハンバーガーを食べていく。
 ――ほらね。悠司さんは私に甘えてる。だから私が勝負に負けることはないんだ。
 今までの恋愛と同じ展開にはならないかもしれないけれど、悠司をクズ男にしないよう気をつけないと。
 そう心に刻みながらも、紗英は彼の面倒を見るのが楽しかった。

 ドライブしたふたりは、のどかな海辺に寄ると、浜を散策した。
 夕食は悠司のおすすめだという鮨屋で、新鮮な雲丹やマグロなどの海の幸に舌鼓を打つ。
 食後のお茶を飲んだ紗英は、ほうと息をついた。
「とっても美味しかった……。こんなに素敵なデートができて、本当に嬉しかったです」
 今日一日、悠司と行動をともにしたわけだが、とても楽しくて、心が安らいだ。
 きっと悠司のリードが上手だからだろう。
 もう陽は沈んでいるので、あとは帰るだけだが、なんだか名残惜しい気もする。
 ところが悠司は片目を瞑って、カウンターに並んで座っている紗英に言った。
「まだデートは終わってないよ。もう少しだけ、俺に付き合ってほしい」
「わかりました」
 小首をかしげた紗英だったが、快く了承する。
 紗英自身も、もう少し悠司と一緒にいたいと思っていたから。
 でも、どこへ行くのだろう。
 鮨屋を出たふたりは、再び車に乗り込む。
 海沿いの道路から逸れて、車は小高い山のほうへ向かっていった。
 ややあって、山の頂上へ辿り着く。
 そこは夜景の見える公園だった。
「わあ……綺麗……」
 車を降りてみると、眼下に広がる街の明かりが煌めいていた。
 誰もいない公園には、静寂しかない。輝く街の明かりが、キラキラと音を奏でるようだ。
 空を見上げると、大粒の星々が瞬いている。
 光り輝く星の海と大地の明かりに包まれているみたいだった。
 ふわりと紗英の肩を包んだ悠司は、静かに呟く。
「この景色を、見せたかった」
「素敵ですね……。心が洗われるみたいです」
 ふたりはしばし無言で、煌めく夜景を眺めていた。
 夜風が吹いてきて、紗英の長い髪をかき上げる。
「寒くない?」
「平気です」
 紗英の顔を覗き込んだ悠司の双眸は、優しく細められていた。
 チュ、と唇にくちづけられる。
 驚いた紗英が目を瞬かせると、すぐに悠司の唇は離れていった。
「あ……悠司さん……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...