転生ジーニアス ~最強の天才は歴史を変えられるか~

普門院 ひかる

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第1章 冒険者編

閑話14 森の暴れ者 ~ケンタウロス~

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 コンコン。フリードリヒの部屋がノックされる。
「お兄様。髪のお手入れをして欲しいのですけれど」
 3つ下の妹のルイーゼのようだ。
「わかった。お前の部屋へ行こう。」

 部屋に着くと「自分で手入れをしてもなかなか上手くできなくて…」と言い訳された。

「そう言って、本当は冒険の話が聞きたいのだろう」
「えへへ。バレてましたか」

 フリードリヒはくし椿油つばきあぶらを少量付けると、ほつれた髪を傷めないように慎重に解しながら、やさしく髪をくしけずっていく。

 並行して、先日にリンドドレイクとワイバーンを討伐した話をする。
 ルイーゼは「すごいですわ」とか「それからどうなりましたの」とか相槌を打ちながら興奮して聞いている。

 手入れをしにくいからおとなしくしていて欲しいのだが、まだ7歳の少女にそれをいうのは酷だろう。

 髪をとかし終わると、いつもどおりバレないようにそっと手の甲で触れて感触を確かめてみる。
 柔らかくさらさらでとても心地よい。パーフェクトだ。

「よし。終わったぞ」
「ありがとうございます。お兄様。お話もとっても面白かったですわ。またお願いしますね」

 ルイーゼは文学好きで暇があれば本を読んでいる。
 文章を書く方も好きらしく、フリードリヒから聞いた話も何やら紙に書き留めているようだ。だが、誰かに見せてはいないようなのでそのままにしている。

    ◆

 フランツィスカは黒の森に住むケンタウロス族の族長の娘である。

 神の血を引くとも言われるケンタウロスは、人間の上半身と馬の下半身を持つ亜人種である。好色で酒好きの暴れ者といわれており、弓矢や槍、棍棒を使う。

 フランツィスカは12歳。人族でいうと成人になる年頃だ。
 特に弓と槍が得意で、ケンタウロス族の女の中ではナンバーワンの腕前である。男にも引けを取らない自信があった。

 2歳下の弟のアントンがいて、フランツィスカ自身は次期族長の座は弟にと考えていたが、強い者を好むケンタウロス族の中にはフランツィスカを推す声もかなり大きかった。しかし、アントンもまだ成長期だし、この段階で比較するのもアントンに酷というものだろう。

 そんな訳で、族長の父ヘリベルトと母ゼルマは、アントンの実力が測れるまではフィリーネを外に嫁にやる訳にはいかないと考えていた。

 当のフランツィスカは狭い部族の中での閉鎖的な生活に辟易していた。だが、外の世界を支配しているのは人族である。エルフやドワーフならともかく、下半身が馬のケンタウロスが人族の世界に行ったら目立って何をされるかわかったものではない。

 ケンタウロス族は人族の一人の力は弱くとも、優秀な武器を使いこなす知恵を持ち、また集団での戦闘も得意で、あなどることは危険な存在であることも承知していた。

 そんなフランツィスカは英雄譚えいゆうたんにあこがれるようになり、長老たちに話をせがむことが度々だった。
 彼女は英雄になりたいのかというとそうではない。英雄の妻になり、強い者の子をなすことに憧れたのだ。

 だが、英雄譚えいゆうたんでは英雄が美女と結ばれるところまでは語られても、妻が子をなし、その子が育つところは語ってくれない。そこがフランツィスカにはとても不満だった。

 ──強者の種をもらった子はさぞかし強いだろう。

 日々その思いを募らせていくフランツィスカだった。

「おい。狩場に侵入者だ。みんな来てくれ!」

 見張りの者が大急ぎでやってきて召集をかける。
 おそらく、またもの知らずの人族が迷い込んだのだろう。いつもどおり軽くおどしてやれば逃げていくに違いない。
 そんな軽い気持ちで召集に応じるフランツィスカであった。

    ◆

「じゃじゃーん。ピクシーちゃん参上」
 フリードリヒ一行が黒の森を行くとピクシーが唐突に現れた。
「お前。いつも気まぐれに現れるな」
「いいじゃない。僕、お兄さんが好きなんだ」
 こんなちみっこに好かれても困る。愛玩動物とまでいってしまったら失礼だが、それに近いものを感じる。

「今日はいい狩場を教えてあげようと思って」
「いたずらじゃないだろうな」
「人食い虎のときは役に立ったじゃない」
 とりあえず今日は信じてやろうということになり、ピクシーに案内してもらう。確かに今まで来たことのない場所だ。

 ──肉食の魔獣がほとんどいない。まるで誰かがあつらえた狩場のようだ。

 気になりながらも、パーティーメンバーとともに食用になりそうな魔獣や動物を次々と狩っていく。ギルドの報酬は望めそうにないので、数で勝負だ。

「強えものを狩るのもいいが、弱えものをたくさん狩って数を競うのもおもしれえな」とヴェロニアが釣り師のようなセリフを吐く。
 確かに釣りの入れ食いとまではいかないが獲物が濃いことは間違いない。

 そんなことを考えているとフリードリヒの頬を矢がかすった。
 見ると、ケンタウロス族の少女が放った矢のようだ。まだ距離はかなりあるのに大した技術だ。
 パーティーメンバーに緊張が走る。

「お前ら。うちの狩場で何しやがる!」
「すまない。君たちの狩場と知らずに踏み込んでしまった。獲物は返すから、許してくれないか」
「へんっ!こういうのは少し痛い目に合わせないとりないからな。お前ら。やっちまえ!」
 と少女は仲間に戦闘開始の指示を出した。

 ケンタウロス族は乱暴者とは聞いていたが、そんなに戦いたいのか。やむを得ずフリードリヒたちは応戦する。
「かすり傷程度はいいが、致命傷は負わせるな」
 フリードリヒはメンバーに指示を出す。
 メンバーも相当に成長しており、手加減も可能だと判断したからだ。

 またフリードリヒに矢が飛んできた。先ほどはわからなかったが、矢を風魔法で加速しているようだ。

 ──ネライダと同じ技だな。

 そうとわかれば見切るのは難しくない。矢を次々と避けるとダッシュして少女に迫り、槍による反撃の間もあたえず、剣の柄でみぞおち部分に一撃加える。
 急所への一撃に少女は一瞬顔を歪めると気を失って倒れた。

 残るは雑魚ざこだけのようだ。
 フリードリヒは的確に急所を攻め、次々と無力化していく。メンバーの奮闘ふんとうもあって間もなく制圧が終わった。
 気がつくとピクシーの姿はどこにもない。早々に逃げて行ったようだ。はたしていたずらだったかは定かではない。

「さて、お前らの代表と話がしたい。誰がいい」
「なら姐御あねごだな」
 姉御あねご? 見ると女性は先ほど矢を放った少女しかいない。そうか、やくざの「姐御《あねご》」みたいな意味か。

 フリードリヒは少女のところへ歩み寄り、ほほを軽く叩くと意識をとりもどした。
「ああ。あんたか。それにしても強いな。こんな強いやつは初めてだ。もしかして英雄ってやつか?」

 ──そんな恥ずかしいこと答えられるか。

「主様は、神託によると英雄となるべきお方なのです」とネライダが正直に答えてしまう。
「やっぱりな」となぜか少女は頬を染めている。

「あたいはフランツィスカだ。あんたの名前は?」
「アレックスだ」
 そこで話をつけることにする。
 フリードリヒは獲物を全部返す。そして2度とこのようなことはしないことを約束し、手打ちとなった。

「しかし、この量の獲物はどうするか…。よし。お前ら。今日は一族をあげて宴会だ!」とフランツィスカは宣言した。
 ケンタウロス族たちから歓声が上がる。酒好きという噂は本当なのだろう。

「お前らが狩った獲物なのだからつきあえよ」

 非はこちらにある。断れるわけがない。

 その夜。ケンタウロス族一族を挙げての大宴会となった。彼らにとってはサプライズだったはずだが、気にする様子はない。要は飲めれば口実は何でもいいということなのだろう。

 フランツィスカがやってきてお酌をしてくれる。
「お願いがある。仮面をとってみてくれないか?」
 ここには知らない人族はいないので、ためらいなく仮面を外す。

 フランツィスカはフリードリヒの美しさに我を忘れた。そして心が一気に高揚する感覚を覚えた。神々しいとはまさにこのことだ。
「この人は私がずっと待っていた英雄様に間違いない」とフランツィスカは確信した。

 しばらくして、フリードリヒはなぜかフランツィスカの両親に紹介された。
「そうか。貴殿きでんくだんの英雄殿か」
「フランツィスカをよろしく頼みますね」

 ──えっ。フランツィスカは両親に何を吹き込んだ?

 獲物の量が半端なかったので、宴会は大いに盛り上がった。
 ケンタウロス族の酒は軽く飲みやすい果実酒でフリードリヒは勧められるままにどんどん飲んでしまった。

 そこでドワーフ族に分けたウィスキーがまだ残っていたことを思い出した。これを差し入れるとケンタウロス族たちに大いにうけた。
 だが、これが失敗の元。酒精の強いウィスキーを進められ、これも断り切れずに飲んでいるとフリードリヒの意識はいつしか飛んでしまっていた。

 翌朝。頭がガンガンと痛い。完全な二日酔いだ。そういえば、現世では未成年ということもあって、この体で限界まで酒を飲んだ経験がなかった。それで前世の感覚で飲み過ぎてしまったようだ。
 頭をフランツィスカが優しくでてくれている。頭痛が少し和らぐようで気持ちがいい。

 それにしてもここはフランツィスカの部屋のようだ。

 ──昨夜は同衾どうきんしてしまったのか?

 目を覚ましたことにフランツィスカが気づき、恥ずかしそうに語りかけてきた。
「旦那様。昨夜はありがとう」

 ──旦那様?

「私はお礼をいわれるようなことを何かしたか?」
「だって………種をくれた」とフランツィスカが顔を真っ赤にしながら答えた。

 フリードリヒは衝撃を受けた。未成年だからグレーテル以外との行為は控えてきたのに、よりによってケンタウロスと?

 フリードリヒは必死に記憶を探るが思い出せない。酒で記憶が飛んでしまうなど、前世も含めて初めての経験だ。記憶を失っている間の自分に自信が持てない。

 ──それにしてもケンタウロスの××××ってどこに…………馬だからあっちの方か。

「私は、その……したのか?」
「あたい初めてだったからあんなに激しいなんて知らなくて…………なのに旦那様ったら何度も何度も………」

 ──あぁぁぁぁ。わかったからもう勘弁して!

「わ、わかった。責任はちゃんととるからな。」
 フランツィスカはそれを聞くとニコッと微笑んだ。責任の意味を理解したかは不明だ。

 外に出るとパーティーの女性陣に囲まれた。
「昨夜はお楽しみだったようね」とローザが皮肉を投げかけてきた。

 ──宴会のことかな?

「ああ楽しい宴会だった。酒も料理も美味かったな」ととぼけると皆よけいに不機嫌になった。
「「「「ふんっ!」」」」
 皆でそろってそっぽを向いている。何という団結力。あのおとなしいネライダまで…。

 その日はズルをしてテレポーテーションで城まで一気に戻ると、フリードリヒは部屋にこもった。二日酔いということもあるが、冷却期間を置かねば女子たちとの関係はどうにも修復しようがない。

    ◆

 部屋で休んでいるとルイーゼがやってきた。
 二日酔いと聞いてレモン水を持ってきてくれた。

 飲んでみたら五臓六腑に染み渡る感じがした。前世で二日酔いしたとき以来の感覚だ。

「お兄様。大丈夫ですの?」
「ああ。レモン水を飲んだらだいぶ楽になった」

「お兄様もまだ未成年ですのに二日酔いなんて…」
「ケンタウロス族の酒は飲みやすかったし、彼らがあまり勧めるものだから、ついな」

「でも、面白そうなお話ですね。教えてくださる?」

 フリードリヒはハッとした。
 ここは断るのも不自然だし、フランツィスカとの関係を察知されないように、微妙にメイキンングしながら話さなくては。

 幸い何とかうまくまとめて話をすることができた。フランツィスカとの関係は気づかれなかったようだ。

    ◆

 責任をとると言った手前。フランツィスカのところへは時折顔を出すようにした。もちろん1人でだ。

 不思議とその後は行為を求められることはなかった。

 半年ほど経って、フリードリヒは気づいた。
「フランツィスカ。少し太ったか?」
 フランツィスカは意味ありげな微笑を返すだけだった。

 そしてフリードリヒは12歳になり、アウクスブルグの学校へ行く前に、黒の森のエルフやドワーフに挨拶あいさつをしておこうと思い立った。
 ついでなので、フランツィスカのところにも顔を出す。

「旦那様。待っていたのよ。今日は会わせたい子がいるの。おいでー」
 ケンタウロスの幼体がぎこちない感じで歩いて来るとフランツィスカに頭を摺り寄せて甘えている。顔つきからして男の子のようだ。

「まさか!」
 フリードリヒに嫌な予感がよぎる。
「あなたの子よ。かわいいでしょ」
 確かにフリードリヒとフランツィスカを足して2で割ったような顔をしている。間違いはないだろう。

 ──よりによって、現世での初子がケンタウロスとは!これはトップシークレットにするしかない。

「この子はまだ名前がないの。付けてあげて」
「君の父の名を借りて『ヘリベルト』というのはどうだ? 人族ではよくあることだ」
「旦那様が決めたことなら従うわ」

「よし。じゃあ、お前は今日からヘリベルトⅡ世だ」と言うとフリードリヒは子供の頭をでてあげた。
 たとえケンタウロスでも、自分の子と思えば愛おしさが徐々に湧き上がってくる。

 その後、ヘリベルトⅡ世はケンタウロス族の英雄と呼ばれる益荒男ますらおに育っていくのだが、それはまた別のお話である。
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