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第4章 国主編
第72話 領主なき国(2) ~風車の導入と間接統治~
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族長の屋敷に着くと、応接室らしき部屋に通された。
そこに族長と思しき男と先ほどの少女がやってきた。
フリードリヒはさすがに失礼かと思ってマスクを外していたのだが、少女はマスクを外したフリードリヒの顔を見て目を見張っている。
「わしが族長のゲラルト・ザカだ。貴殿が娘を助けてくれた冒険者か?」
「ええ。そうです」
「何かお礼がしたい。望みのものを何でも言ってくれ」
「いえ。クエストとして受けた訳ではないですから。謝礼は結構です。
ただ、この辺りには良い宿屋がなさそうなので、しばらくこの屋敷に逗留させていただけるとありがたい」
「なに。そんなことでよいのか。貴殿は欲がないのだな」
「さあ。それはどうでしょうか?」
微妙な答えぶりに族長は怪訝な顔をした。
「リア。おまえからもちゃんとお礼を言いなさい」
「はい。この度は危ないところを助けていただき、ありがとうございました。
あのう…。お名前をうかがってもよろしいですか?」
「フリードリヒといいます」
「フリードリヒ様ですね。もう覚えました」
そこでヴェロニアがローザに小声で耳打ちした。
「やべえぜ。あれはもう惚れちまってる」
「ああ。そうだな」
ヴェロニアとローザは鋭い目でリアを見つめているが、舞い上がっているリアは全くそのことに気づいていない。
「ここに逗留していかがする?」
「クエストがあればもちろん受けますが、近くに冒険者ギルドはありますか?」
「そのようなものはない。あえて言えばわしが冒険者ギルドのマスターを兼ねている」
──これは相当な田舎だな…
「何か我々が受けられそうなクエストはありますか?」
「実はこの近くの大きな水路にリンドドレイクが住み着いて住民を襲っているので困っているのだ。退治できるか?」
──リンドドレイクとは懐かしい。
「できます」
「やつは水中に住んでいるのだぞ」
「問題ありません」
何の気負いもなく答えるフリードリヒにゲラルトは何か不思議なものを感じた。長年の勘がこの者はただ者ではないと告げている。
「そうか。ならばお願いする」
「了解した」
◆
リンドドレイクの住み着いた水路への案内はリアが行うことになった。
「主様。リンドドレイクとは懐かしいですね」
ネライダが言った。
「ああ。そうだな」
「また釣り上げるのですか」
「それがいいだろう」
前回リンドドレイクを釣り上げた鎖はタンバヤ鉄工所の倉庫に眠っていたものを物体取り寄せで取り寄せた。
案の定さび付いていたので金属魔法で修復し、今はマジックバッグの中にある。
「ところでリア嬢。牡牛を一頭調達したいのだが、なんとかならないか」
「わかりました。近所の知り合いの農家に頼んでみます」
ちょうど年老いて食用にされる寸前の牡牛がいるので、それを分けてもらった。
リアが質問してきた。
「牡牛で何をするのですか?」
「釣りさ」
「釣り?」
リアは納得しかねる顔をしている。
しばしの間歩くとリアが言った。
「この辺りがリンドドレイクの住み着いた水路です」
川岸から川の中を千里眼で透視しながらリンドドレイクの影がないか探っていく。
しばらく行くと深い淵の底にそれらしき影をフリードリヒは見つけた。
「あの淵にいるな。リア嬢は危ないから離れていてくれ」
「わかりました」
鎖を牡牛の体に絡ませると金属魔法で固定する。
牡牛を川の方に向かせると、尻に弱いファイアーボールを放った。
牡牛は驚いて叫びながら川へ突進し、川へはまってしまった。
牡牛は懸命に水路を泳いでいる。
そこへ期待どおりリンドドレイクが食いついてきた。すぐには鎖を引かず、リンドドレイクが十分に飲み込むのを待つ。
リンドドレイクは異変を感じ、川底へと逃走を図る。鎖がどんどんと川へ引き込まれていく。
「よし。もういいだろう。皆も手伝ってくれ」
フリードリヒはもうすぐ17歳。まだ12歳前だった前回とは強さが段違いに違う。
「今だ。思いきり鎖を引っ張れ!」
フリードリヒは気による身体強化に加え神力も総動員して鎖を引いた。
リンドドレイクがあっという間に引き寄せられてくる。
やがてリンドドレイクの姿が見え、体の半分が川から出ると、リンドドレイクも覚悟を決めたらしく、フリードリヒたちに襲い掛かってきた。
リンドドレイクはフリードリヒたちを威嚇しようと口を大きく開けて咆哮した。
──バカなやつ…
次の瞬間、プドリスが極大のファイアーボールをリンドドレイクの口をめがけて放った。
リンドドレイクは気管と肺を焼かれ呼吸困難状態になり一気に弱っている。
フリードリヒはその機を逃さず、すばやくリンドドレイクの背中に駆け上がり、両手で思いきり1本の剣を延髄に突きさす。剣は、そのままズブリと根元までめり込んだ。
リンドドレイクは悲鳴を上げる間もなく絶命し、倒れた。
その様子を見ていたリアは感嘆し、思わず呟いた。
「す、すごい。なんて強さ…」
その目はフリードリヒの姿に釘付けとなっていた。
その日。リンドドレイクの討伐をゲラルトに報告すると「もう討伐したのか!」と驚いていた。
◆
その後。ちまちまとしたクエストをこなしながら、フリードリヒたちはフリスラントの状況を見て回った。
頼みもしないのにリアは付いて来る。
フリードリヒはあちこちに水浸しとなった農地があることに気づいた。
「あれは?」
「あれは、農地が地盤沈下してしまって排水ができないのです」
リアが説明した。
──なるほど…
フリスラントは現在でいうオランダにある。
オランダ名物と言えば風車だ。
風車はもちろん水車と同様に粉ひきなどにも使えるが、オランダの風車の最大の目的は低地の水を排水することにある。
オランダに風車が伝わるのはちょうど13世紀ごろなのだが、フリスラントにはまだ伝わっていないのだろう。
フリードリヒはゲラルトの屋敷に戻ると早速風車の話をした。
「そのようなものがあるのか。ならばぜひ試してみたい」
「わかりました。大工は集められますか?」
「いや。専門の大工はいないから、手に覚えのある者を集めよう」
「わかりました」
風車の原理は単純だから作るのはそれほど難しくない。
フリードリヒは集められた者たちと協力して数週間がかりで風車を完成させた。
ゲラルトを呼び。早速動かしてみる。
折よくちょうどよい風が吹いており、見事に風車は回った。
それによってどんどんと農地に溜まった水が排水されていく。
ゲラルトは感激して言った。
「おお凄い。これを何基も作れば水浸しの農地が復活できる。
フリードリヒ殿。貴殿には心から感謝する」
──そろそろ潮時かな…
フリードリヒはゲラルトに内密な話があると申し入れた。
その夜。ゲラルトの私室を訪れる。
「内密な話とは何ですかな?」
「実は族長に隠していることがありました。実は私はロートリンゲン大公の密偵も兼ねているのです」
「ただ者ではないとは思っていたがそういうことか。その密偵殿が内密な話とはなんだね?」
「大公閣下は自らが後見となってフリスラントの自治を促すお考えです」
「今でも自治といえば自治をしているつもりだが」
「それも間違いではありませんが、フリスラントには課題が山積みです。
風車建設もそうですし、堤防の維持・拡充も必要です。それに他国とつなぐ道路も整備して産業を発達させることも急務です」
「私は今の自給自足的な生活でも十分満足しているのだが…」
「それではフリスラントの発展が立ち遅れ、いずれは他国の食い物にされてしまします。フリスラントは他国に対抗できるだけの力を身に付けねばなりません」
「しかし自治といってもいったいどうすればいいというのだ。私には見当もつかん」
「まずは領主が必要です。私はゲラルト殿を推薦し、貴族に叙したうえで領主となってもらうつもりです」
「なんとわしをか? わしはそのような器量は持っておらぬ」
「何を言います。これまでも立派にフリスラントとまとめてきたではありませんか。
それにゲラルト殿が領主をするに当たっては、それを手助けする人材を大公が派遣してくださいます。それでも踏ん切りがつきませんか?」
「う~む…」
ゲラルトは考え込んでしまった。
これは尻を蹴飛ばしてやる必要があるな
「実はホラント伯はフリスラントを武力制圧するよう大公閣下に求めておいでです。もしゲラルト殿に自治を受け入れてもらえないとなると大公閣下も武力制圧に踏み切らざるを得ません。その際は暗黒騎士団をもって一気にということになるでしょう」
「なんとあの暗黒騎士団がか…」
フリスラントはホルシュタイン伯国からも近い。
先の対デンマーク戦争の様子なども伝わっているのだろう。
「わかった。大公閣下の提案を受けよう」
「ありがとうございます。
これまでの行きがかり上、形式的にはホラント伯とユトレヒト司教に臣従する形となり、幾ばくかの税を払うことにはなると思いますが、理不尽な搾取は大公閣下がお許しになりません。そこはお任せください」
「わかった。よろしく頼む」
これでようやく自治の話に決着がついた。
ちょっと時間がかかってしまったからナンツィヒには早々に戻らないと残してきた妻たち、愛妾たちの機嫌をとるのが難しくなる。
◆
翌日。
フリードリヒ一行はナンツィヒに戻ることにした。
見送りをするゲラルトとリアに別れの挨拶をする。
「長い間お世話になりました。それでは失礼いたします」
後ろを振り向き立ち去ろうとするフリードリヒ。
その矢先、リアはその背中に駆け寄り、しがみつくと涙ながらに懇願した。
「フリードリヒ様。私も連れていってください。冒険の役には立たないかもしれないけれど、雑用でも何でもいたします。ですから…」
──あちゃー。やっぱりこうなったか…
パーティーの女子メンバーは顔を見合わせると苦笑いした。
ゲラルトは感銘を受けたらしくこう言った。
「フリードリヒ殿。リアもこう申しているのだ。連れていってくださらんか?」
「しかし、私にはもう既に複数の妻や愛妾が…」
「それならば今更一人増えたところで問題あるまい。それともリアに何か不満がおありなのかな?」
──これは昨日の意趣返しか?
「いえ。そういう訳では…」
「ならば決まりだな。
リア。急いで支度をしてきなさい」
結局、ナンツィヒにはリアを伴っていくことになってしまった。
◆
リアはフリードリヒとともにナンツィヒに到着した。
──ここがナンツィヒかあ。立派な町だな…
フリードリヒは何だか立派なお城の中にずんずん入っていく。
──フリードリヒ様って密偵じゃなかったっけ。こんなに目立って大丈夫なのかな…
すれ違う人たちは皆一様に深々と頭を下げている。
──えっ。密偵ってそんなに偉いの?
すると立派な恰好をした貴族然とした人物が声をかけてきた。
「閣下。その女人はどうされました?」
「ああ。ハグマイヤー内務卿か。行きがかり上、側室にすることになった。準備をよろしく頼む」
「承知いたしました」
──いまフリードリヒ様のこと「閣下」って言ったよね…
リアの頬を冷や汗が伝った。
「あのう…フリードリヒ様。今の人『閣下』って言いましたよね?」
「ああそうか。そういえばもう今更だな。私がロートリンゲン大公のフリードリヒ・エルデ・フォン・ザクセン本人だ」
「ひえーっ!」とリアは思わず叫んだ。
と同時に、フリードリヒに向かって土下座し、必死に謝った。
「知らぬこととはいえ、これまでの無礼の数々。心からお詫び申し上げます。覚悟はできておりますので、もう死刑にでもなんでもしてください!」
周りの人たちは何ごとかと2人に注目している。
「おい。止めろ。頭を上げるんだ。君はもう私の側室になることが確定している。堂々としていればいいんだ」
「そう…なのですか?」
「ああ」
「もう。私本当に死刑になっちゃうかと思いました」
「いくらなんでもそれは大袈裟だな。はっはっはっ」
珍しくフリードリヒは声を上げて笑った。
◆
数日後。
ゲラルトの受爵の日がやってきた。
居並ぶ貴族たちの目を意識しながらゲラルトは謁見の間を緊張の趣で進む。
ゲラルドが拝謁の姿勢をとると、宮中伯が口上を述べる。
「ゲラルド・ザカ。こちらへ」
「はっ」
ゲラルドは宮中伯のところへ歩み寄る。
「この度、ゲラルド・ザカに帝国子爵の位を授けるとともにフリスラントの統治を一任することとする」
「謹んでお受けいたします」
続いて皇帝フリードリヒⅡ世からの言葉があった。
「この度の件。ロートリンゲン大公のたっての推薦ゆえ実現したものである。大公の顔に泥を塗らぬよう精進するように」
「ははっ」
ゲラルドが謁見の間を退出して、ホッと一息つくと話しかけている者がいる。
「ザカ卿。無事受爵が住んで一安心ですね」
「まったく。こんなに緊張したのは生まれて初めてだわい」
ふと顔をみると冒険者のフリードリヒではないか。
「貴殿。なんでこんなところに?」
「今まで騙していてすみませんが、私はフリードリヒ・エルデ・フォン・ザクセン。ロートリンゲン大公本人なのです」
ゲラルドは口をアングリと開けて驚嘆している。
「開いた口が塞がらない」という諺を地でいっている。
しばらくして、ゲラルドは正気に戻ると言った。
「これまでの無礼の数々。平にご容赦ください。
閣下にかけていただいた言葉の数々。胸に刻み身命を賭して精進してまいります」
「まあ、最初から気合を入れすぎると後が持たないからマイペースでやるといいさ。
前にも言ったようにロートリンゲンからは人を派遣するからせいぜいこき使ってやって欲しい」
「ははっ。感謝の念に絶えませぬ」
◆
これで受爵も無事終わった。
あとはリアとの結婚式だ。
これは所縁の深いユトレヒト司教の教会で行った。
アメーリエに続き2回目だったので、もう慣れたものだ。
妻たちや愛妾たちは機嫌が悪かったのは事実だが、もうあきらめの境地にあるような気もする。
リアは元々庶民なのでタラサなどと気が合うようで、良くつるんでいる。それなりになじんでいるようで安心した。
そこに族長と思しき男と先ほどの少女がやってきた。
フリードリヒはさすがに失礼かと思ってマスクを外していたのだが、少女はマスクを外したフリードリヒの顔を見て目を見張っている。
「わしが族長のゲラルト・ザカだ。貴殿が娘を助けてくれた冒険者か?」
「ええ。そうです」
「何かお礼がしたい。望みのものを何でも言ってくれ」
「いえ。クエストとして受けた訳ではないですから。謝礼は結構です。
ただ、この辺りには良い宿屋がなさそうなので、しばらくこの屋敷に逗留させていただけるとありがたい」
「なに。そんなことでよいのか。貴殿は欲がないのだな」
「さあ。それはどうでしょうか?」
微妙な答えぶりに族長は怪訝な顔をした。
「リア。おまえからもちゃんとお礼を言いなさい」
「はい。この度は危ないところを助けていただき、ありがとうございました。
あのう…。お名前をうかがってもよろしいですか?」
「フリードリヒといいます」
「フリードリヒ様ですね。もう覚えました」
そこでヴェロニアがローザに小声で耳打ちした。
「やべえぜ。あれはもう惚れちまってる」
「ああ。そうだな」
ヴェロニアとローザは鋭い目でリアを見つめているが、舞い上がっているリアは全くそのことに気づいていない。
「ここに逗留していかがする?」
「クエストがあればもちろん受けますが、近くに冒険者ギルドはありますか?」
「そのようなものはない。あえて言えばわしが冒険者ギルドのマスターを兼ねている」
──これは相当な田舎だな…
「何か我々が受けられそうなクエストはありますか?」
「実はこの近くの大きな水路にリンドドレイクが住み着いて住民を襲っているので困っているのだ。退治できるか?」
──リンドドレイクとは懐かしい。
「できます」
「やつは水中に住んでいるのだぞ」
「問題ありません」
何の気負いもなく答えるフリードリヒにゲラルトは何か不思議なものを感じた。長年の勘がこの者はただ者ではないと告げている。
「そうか。ならばお願いする」
「了解した」
◆
リンドドレイクの住み着いた水路への案内はリアが行うことになった。
「主様。リンドドレイクとは懐かしいですね」
ネライダが言った。
「ああ。そうだな」
「また釣り上げるのですか」
「それがいいだろう」
前回リンドドレイクを釣り上げた鎖はタンバヤ鉄工所の倉庫に眠っていたものを物体取り寄せで取り寄せた。
案の定さび付いていたので金属魔法で修復し、今はマジックバッグの中にある。
「ところでリア嬢。牡牛を一頭調達したいのだが、なんとかならないか」
「わかりました。近所の知り合いの農家に頼んでみます」
ちょうど年老いて食用にされる寸前の牡牛がいるので、それを分けてもらった。
リアが質問してきた。
「牡牛で何をするのですか?」
「釣りさ」
「釣り?」
リアは納得しかねる顔をしている。
しばしの間歩くとリアが言った。
「この辺りがリンドドレイクの住み着いた水路です」
川岸から川の中を千里眼で透視しながらリンドドレイクの影がないか探っていく。
しばらく行くと深い淵の底にそれらしき影をフリードリヒは見つけた。
「あの淵にいるな。リア嬢は危ないから離れていてくれ」
「わかりました」
鎖を牡牛の体に絡ませると金属魔法で固定する。
牡牛を川の方に向かせると、尻に弱いファイアーボールを放った。
牡牛は驚いて叫びながら川へ突進し、川へはまってしまった。
牡牛は懸命に水路を泳いでいる。
そこへ期待どおりリンドドレイクが食いついてきた。すぐには鎖を引かず、リンドドレイクが十分に飲み込むのを待つ。
リンドドレイクは異変を感じ、川底へと逃走を図る。鎖がどんどんと川へ引き込まれていく。
「よし。もういいだろう。皆も手伝ってくれ」
フリードリヒはもうすぐ17歳。まだ12歳前だった前回とは強さが段違いに違う。
「今だ。思いきり鎖を引っ張れ!」
フリードリヒは気による身体強化に加え神力も総動員して鎖を引いた。
リンドドレイクがあっという間に引き寄せられてくる。
やがてリンドドレイクの姿が見え、体の半分が川から出ると、リンドドレイクも覚悟を決めたらしく、フリードリヒたちに襲い掛かってきた。
リンドドレイクはフリードリヒたちを威嚇しようと口を大きく開けて咆哮した。
──バカなやつ…
次の瞬間、プドリスが極大のファイアーボールをリンドドレイクの口をめがけて放った。
リンドドレイクは気管と肺を焼かれ呼吸困難状態になり一気に弱っている。
フリードリヒはその機を逃さず、すばやくリンドドレイクの背中に駆け上がり、両手で思いきり1本の剣を延髄に突きさす。剣は、そのままズブリと根元までめり込んだ。
リンドドレイクは悲鳴を上げる間もなく絶命し、倒れた。
その様子を見ていたリアは感嘆し、思わず呟いた。
「す、すごい。なんて強さ…」
その目はフリードリヒの姿に釘付けとなっていた。
その日。リンドドレイクの討伐をゲラルトに報告すると「もう討伐したのか!」と驚いていた。
◆
その後。ちまちまとしたクエストをこなしながら、フリードリヒたちはフリスラントの状況を見て回った。
頼みもしないのにリアは付いて来る。
フリードリヒはあちこちに水浸しとなった農地があることに気づいた。
「あれは?」
「あれは、農地が地盤沈下してしまって排水ができないのです」
リアが説明した。
──なるほど…
フリスラントは現在でいうオランダにある。
オランダ名物と言えば風車だ。
風車はもちろん水車と同様に粉ひきなどにも使えるが、オランダの風車の最大の目的は低地の水を排水することにある。
オランダに風車が伝わるのはちょうど13世紀ごろなのだが、フリスラントにはまだ伝わっていないのだろう。
フリードリヒはゲラルトの屋敷に戻ると早速風車の話をした。
「そのようなものがあるのか。ならばぜひ試してみたい」
「わかりました。大工は集められますか?」
「いや。専門の大工はいないから、手に覚えのある者を集めよう」
「わかりました」
風車の原理は単純だから作るのはそれほど難しくない。
フリードリヒは集められた者たちと協力して数週間がかりで風車を完成させた。
ゲラルトを呼び。早速動かしてみる。
折よくちょうどよい風が吹いており、見事に風車は回った。
それによってどんどんと農地に溜まった水が排水されていく。
ゲラルトは感激して言った。
「おお凄い。これを何基も作れば水浸しの農地が復活できる。
フリードリヒ殿。貴殿には心から感謝する」
──そろそろ潮時かな…
フリードリヒはゲラルトに内密な話があると申し入れた。
その夜。ゲラルトの私室を訪れる。
「内密な話とは何ですかな?」
「実は族長に隠していることがありました。実は私はロートリンゲン大公の密偵も兼ねているのです」
「ただ者ではないとは思っていたがそういうことか。その密偵殿が内密な話とはなんだね?」
「大公閣下は自らが後見となってフリスラントの自治を促すお考えです」
「今でも自治といえば自治をしているつもりだが」
「それも間違いではありませんが、フリスラントには課題が山積みです。
風車建設もそうですし、堤防の維持・拡充も必要です。それに他国とつなぐ道路も整備して産業を発達させることも急務です」
「私は今の自給自足的な生活でも十分満足しているのだが…」
「それではフリスラントの発展が立ち遅れ、いずれは他国の食い物にされてしまします。フリスラントは他国に対抗できるだけの力を身に付けねばなりません」
「しかし自治といってもいったいどうすればいいというのだ。私には見当もつかん」
「まずは領主が必要です。私はゲラルト殿を推薦し、貴族に叙したうえで領主となってもらうつもりです」
「なんとわしをか? わしはそのような器量は持っておらぬ」
「何を言います。これまでも立派にフリスラントとまとめてきたではありませんか。
それにゲラルト殿が領主をするに当たっては、それを手助けする人材を大公が派遣してくださいます。それでも踏ん切りがつきませんか?」
「う~む…」
ゲラルトは考え込んでしまった。
これは尻を蹴飛ばしてやる必要があるな
「実はホラント伯はフリスラントを武力制圧するよう大公閣下に求めておいでです。もしゲラルト殿に自治を受け入れてもらえないとなると大公閣下も武力制圧に踏み切らざるを得ません。その際は暗黒騎士団をもって一気にということになるでしょう」
「なんとあの暗黒騎士団がか…」
フリスラントはホルシュタイン伯国からも近い。
先の対デンマーク戦争の様子なども伝わっているのだろう。
「わかった。大公閣下の提案を受けよう」
「ありがとうございます。
これまでの行きがかり上、形式的にはホラント伯とユトレヒト司教に臣従する形となり、幾ばくかの税を払うことにはなると思いますが、理不尽な搾取は大公閣下がお許しになりません。そこはお任せください」
「わかった。よろしく頼む」
これでようやく自治の話に決着がついた。
ちょっと時間がかかってしまったからナンツィヒには早々に戻らないと残してきた妻たち、愛妾たちの機嫌をとるのが難しくなる。
◆
翌日。
フリードリヒ一行はナンツィヒに戻ることにした。
見送りをするゲラルトとリアに別れの挨拶をする。
「長い間お世話になりました。それでは失礼いたします」
後ろを振り向き立ち去ろうとするフリードリヒ。
その矢先、リアはその背中に駆け寄り、しがみつくと涙ながらに懇願した。
「フリードリヒ様。私も連れていってください。冒険の役には立たないかもしれないけれど、雑用でも何でもいたします。ですから…」
──あちゃー。やっぱりこうなったか…
パーティーの女子メンバーは顔を見合わせると苦笑いした。
ゲラルトは感銘を受けたらしくこう言った。
「フリードリヒ殿。リアもこう申しているのだ。連れていってくださらんか?」
「しかし、私にはもう既に複数の妻や愛妾が…」
「それならば今更一人増えたところで問題あるまい。それともリアに何か不満がおありなのかな?」
──これは昨日の意趣返しか?
「いえ。そういう訳では…」
「ならば決まりだな。
リア。急いで支度をしてきなさい」
結局、ナンツィヒにはリアを伴っていくことになってしまった。
◆
リアはフリードリヒとともにナンツィヒに到着した。
──ここがナンツィヒかあ。立派な町だな…
フリードリヒは何だか立派なお城の中にずんずん入っていく。
──フリードリヒ様って密偵じゃなかったっけ。こんなに目立って大丈夫なのかな…
すれ違う人たちは皆一様に深々と頭を下げている。
──えっ。密偵ってそんなに偉いの?
すると立派な恰好をした貴族然とした人物が声をかけてきた。
「閣下。その女人はどうされました?」
「ああ。ハグマイヤー内務卿か。行きがかり上、側室にすることになった。準備をよろしく頼む」
「承知いたしました」
──いまフリードリヒ様のこと「閣下」って言ったよね…
リアの頬を冷や汗が伝った。
「あのう…フリードリヒ様。今の人『閣下』って言いましたよね?」
「ああそうか。そういえばもう今更だな。私がロートリンゲン大公のフリードリヒ・エルデ・フォン・ザクセン本人だ」
「ひえーっ!」とリアは思わず叫んだ。
と同時に、フリードリヒに向かって土下座し、必死に謝った。
「知らぬこととはいえ、これまでの無礼の数々。心からお詫び申し上げます。覚悟はできておりますので、もう死刑にでもなんでもしてください!」
周りの人たちは何ごとかと2人に注目している。
「おい。止めろ。頭を上げるんだ。君はもう私の側室になることが確定している。堂々としていればいいんだ」
「そう…なのですか?」
「ああ」
「もう。私本当に死刑になっちゃうかと思いました」
「いくらなんでもそれは大袈裟だな。はっはっはっ」
珍しくフリードリヒは声を上げて笑った。
◆
数日後。
ゲラルトの受爵の日がやってきた。
居並ぶ貴族たちの目を意識しながらゲラルトは謁見の間を緊張の趣で進む。
ゲラルドが拝謁の姿勢をとると、宮中伯が口上を述べる。
「ゲラルド・ザカ。こちらへ」
「はっ」
ゲラルドは宮中伯のところへ歩み寄る。
「この度、ゲラルド・ザカに帝国子爵の位を授けるとともにフリスラントの統治を一任することとする」
「謹んでお受けいたします」
続いて皇帝フリードリヒⅡ世からの言葉があった。
「この度の件。ロートリンゲン大公のたっての推薦ゆえ実現したものである。大公の顔に泥を塗らぬよう精進するように」
「ははっ」
ゲラルドが謁見の間を退出して、ホッと一息つくと話しかけている者がいる。
「ザカ卿。無事受爵が住んで一安心ですね」
「まったく。こんなに緊張したのは生まれて初めてだわい」
ふと顔をみると冒険者のフリードリヒではないか。
「貴殿。なんでこんなところに?」
「今まで騙していてすみませんが、私はフリードリヒ・エルデ・フォン・ザクセン。ロートリンゲン大公本人なのです」
ゲラルドは口をアングリと開けて驚嘆している。
「開いた口が塞がらない」という諺を地でいっている。
しばらくして、ゲラルドは正気に戻ると言った。
「これまでの無礼の数々。平にご容赦ください。
閣下にかけていただいた言葉の数々。胸に刻み身命を賭して精進してまいります」
「まあ、最初から気合を入れすぎると後が持たないからマイペースでやるといいさ。
前にも言ったようにロートリンゲンからは人を派遣するからせいぜいこき使ってやって欲しい」
「ははっ。感謝の念に絶えませぬ」
◆
これで受爵も無事終わった。
あとはリアとの結婚式だ。
これは所縁の深いユトレヒト司教の教会で行った。
アメーリエに続き2回目だったので、もう慣れたものだ。
妻たちや愛妾たちは機嫌が悪かったのは事実だが、もうあきらめの境地にあるような気もする。
リアは元々庶民なのでタラサなどと気が合うようで、良くつるんでいる。それなりになじんでいるようで安心した。
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『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
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気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
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定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
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異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
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ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
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最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
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最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
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> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
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無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
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