春 愛する人へ

mao

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ソメイヨシノ

私の破壊

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気が付くとベッドの上にいた。
おそらく保健室であろう。
隣を見るとユキネが私のそばで泣いていた。

「…ユキネ…」
「ハルカぁああ!!!」
声をかけるといきなり抱きついてきた。
苦しいくらいに腕に力を込めている。
「ユ、ユキネ…くるし…」
「ごめんね!!私ってば朝からずっと一緒にいたのに…全然気が付かなかった!!!ごめんね!!ごめんねぇえええハルカぁぁああ!!!」
少々行き過ぎなくらいに大泣きなユキネの背中をゆっくりなでていると、ユキネの声を聞いた先生がカーテンを開けてこちらに来た。
「唐木さん、どうしたの…て、宮田さん。よかった、あなたもう4時間以上目を覚まさなかったのよ。体はどう?」
「えっ、4時間…と…とりあえずは…」
「心配したよぉおおお!!!」

「唐木さんねぇ、帰りのHRが終わってから直ぐにここ来たから、1時間近くはいるのよ。」
「言わないでよ先生ぇ~」
さっきよりもだいぶ落ち着いたユキネが言う。
「そうだ、宮田さん、ちょっといい?」
少し難しそうな顔をして先生が私を呼ぶ。
「あ、ごめん、唐木さんは外いてもらってもいい?」
その言葉に不安を煽られた。
ユキネは最初は不満そうな顔をしたが、すぐに「わかりました」と言い保健室をあとにした。

「ハルカ、私外で待ってるからね!」
「あ、ありがとう。ごめんね。」
「でも盗み聞きはしないからゆっくり話してね!」
「う、うん。」

本当に優しいなぁ。

私なんかがこんなにも優しい人を独占していいんだろうか。

「宮田さん、お母さんとは仲いい?」
先生が急にしてきた質問に拍子抜けして少し首を傾げる。
「…それなり、に?」
「そう?」
心配そうな顔をして聞き返してくる。

…少し心当たりはあるけども。

「実は、宮田さんが倒れた直後にお母さんに電話したんだけどね、」
「お母さんはそんなのよくあるし、宮田さんのそれは少し放置しとけばなんとかなるって、」
「それで一方的に切られちゃったのよ。」
「あぁ…」
私の母親は私の事を良くは思ってない。
まぁ気持ちは分からんでもない。
母親からしたら変なことを小さい頃から言っているせいで周りからは白い目で見られていたのだろう。
特に取り柄も無いような、むしろ敗者の私は、完璧主義の母に愛されることはなかった。
病弱な私は母からは甘えているようにしか見えなかったのだろう。
「まぁ、休めば治りましたので…」
「本当?…でも、とりあえず親御さんにも言って念の為病院に行くようにね。」
多分無理です先生。

「何かあったら言ってね?」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って保健室から出た。
「ハルカ!」
ユキネが嬉しそうに寄ってくる。
「ごめん、遅くなった。」
「大丈夫?」
「うん、ありがとう。」
ユキネが少し言い出しにくそうに、口を開いた。
「…ねぇ、辛いことあるなら言って欲しいの。」

あぁ、

この子にはバレてるのか。

「ハルカは気付いてないかもしれないけど、」

この子は、

「ハルカ、保健室いた時、凄いうなされてたんだよ。」

人をよく見てる。

「そんなんで辛いことが無いなんて、考えられないの。」

私はこの子に嘘はつけないのか。

「それにハルカ、ずっと私の手を握ってた。」

私の今まで積み上げたものを、

「ハルカ、私に隠し事しないで。」

彼女が全て溶かしていく。

「私、そんなに頼りないの?」

私の中心が、

「ハルカ、」

ゆっくり、

「ゆっくりでいいから。」

溶け出していく。

......................................................

涙なんて、いつぶりだろうか。
ユキネの声で私の中の何が壊れて、溶け出していく感覚があった。
気が付くと、必死にユキネにしがみついて泣いていた。
ユキネはそんな私をゆっくり撫でてくれていた。

まるであの花達のように、必死に泣いていた。

私が思っていたよりも、私はあの花達のように生きる希望を捨てられないでいたようだ。
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