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本編

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エルゼ。子爵家の三女だが、親が能無しの為に子売りにも近い形で奉公に来た少女。
パッとしない顔立ちではあるが、中々活発そうな子だったのと、年がマリア様にも程よく近いためアヌーレに教育させ将来はマリア様付きの侍女として仕えさせようと、見習いとして付かせたはずだった。

彼女が来てから半年ほどの年月が経ったが、これまで大した変化がなかったはずの侯爵家がどんどん変わっているように感じるのは私だけではあるまい。
業務を終わらせ、窓を見ると楽し気なマリア様とクラウス様の姿があった。
今までのお2人は、どちらかと言うと癇癪持ちのわがままな方々だった。
何度、使用人たちが配置換えを頼んできただろうか?
それがこうしてお茶会を開くようになってからはどの使用人も楽し気にしている。
マリア様もクラウス様も、笑顔が増え、素直に様々なことを覚え始めている。
エルゼが関わっている者すべてが、良い方向へと進んでいるようだ。
職人気質なマークも、エルゼの作る菓子作りに興味を持ち、その料理過程でさらに味が向上している。
アヌーレもまた、マリア様の癇癪に悩まされていたが最近がエリゼのおかげです。とほほ笑むようになった。

契約があるからこそ、侯爵家にとって不利益はないと判断し様子を見ているが・・・
エルゼの働きは、傍仕え見習いのそれではない。
先日の話し合いでも、エルゼはマリア様とクラウス様の教育について物申してきた。
今のままではだめだと。
エリゼが言った内容も理解できるものであった。
特にダンスやマナー教育は別々よりも共にする方が教師の時間も増える。
そして、お2人の時間が増えることで向上心があがるというのも、私自身経験してきたことだからわかる。
そう、私が筆頭執事になるべく2人のライバルと共に向上していったように。

しかし、なぜ、たかが子爵家の12歳の少女が王家の調理人であったマークですら知らない料理法を、お菓子をしっているのか。
なぜ、マリア様やクラウス様の為にそこまで心を砕けるのか・・・
私にはわからない。
だが、彼女の目を見ていると、昔、祖母が話してくれた話を思い出す。

あの話の少女もまた、不思議な知識の持ち主だった。
その少女はある令嬢だったが、父の視察について行った際に畑で野菜が育たないのは栄養が足りないからだと言い、森の土を畑に混ぜるように言ったという。疑問に思いながらも農民がそうすると、その年は例年の収穫をはるかに超えたという。そこから少女は様々な助言をし、それを守った畑は豊作に。しかし、逆に彼女の助言を無視した畑からは何も育つことはなかった・・・その少女は大地の女神の御使いとしてあがめられたという。

祖母はその少女にあったことがあったという。幼い子どもなのに、どこか凛としてまるで自分と同じぐらいの人と話をしているようだったと言っていた。
もしかしたら、エルゼもまた、何かの女神の御使いなのかもしれない。
彼女もまた、年齢には似つかわしくない知識、そして考えを持っている。
そうだとしたら、彼女の言っている事を無視するのはよくないかもしれない。
ご当主様とお方様にお2人の頑張りを褒めてもらう・・・
この家ではそんな光景は見たことない。
いや、むしろ、家族として顔を合わすことも、会話をすることもごく稀なのだ。
しかし、それが必要なことだというのであれば今夜、ご当主様が帰ってきたら相談してみよう。
もしかしたら、今見ているこの光景に、ご当主様やお方様も加わるかもしれない。
そうなれば、それはなんて、なんてすばらしい光景になるのだろう?

今後も、エルゼの動向を探らねばなるまい。
そして、御使いであるならば、どうにかこの家に縛り付けることは出来まいか・・・
考える必要がありそうだ。
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