【完結】悪役令嬢になんてさせません。

夜船 紡

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本編

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※エルゼの前世の生涯。毒親やイジメの話が出ます。



目がさめると、私はだった。

手をぐーぱーとして感覚を確認する。
間違いなく幼い時のだ。


あの地獄の日々をーーー

誰からも必要とされずーーー

誰にも頼れなかったあの時のーーー



ちらりとカレンダーをみると、今日は学校の日だった。
急いで支度をして自分は食べられない朝食を作る。
朝ごはんなんて作りはするけど、自分では食べたことがなかった。つまみ食いですらしたら怒られる。

「意地汚い食い意地のはった子」といわれ、手垢がついたものは食べられないとゴミ箱に捨てられ作り直しをいわれるの。そして、作り終わったら、家族が起きる前に出て行かないといけないルール。
朝ごはんなんて独り立ちするまで食べたことがなかった。


学校に着くと上靴を探す。
大抵が使っていない靴入れに入れられているからすぐ見つかる。
でも、いっぱい落書きされて白い靴が真っ黒に染まっている。
そっと中を覗く。
前に靴があったことに安心して履いたら画鋲が入っていたのだ。
よかった、今日はない。
履いたら、外靴を靴入れではなく鞄の中に入れる。
外靴はなくなったらあの人達にバレる。
あの人達に怒られるから絶対に靴入れには入れれない。

朝は誰もいなくて、静かな教室。
ゆっくり自分の机に来る。
わたしの机。
中を覗くとゴミの山が詰まっていた。
取り除いて、椅子と机の上にある針やカッターの刃がないか見る。
これはたまに気づかずにいると痛い思いをする。
全て取り外したら、最初の人が来る前に誰も来ない屋上の階段に行く。
勿論、荷物は全て持っていく。
そして、予鈴が鳴るまで、ジッと動かず待つ。
鳴ったら急いで教室に入る。
教室に入ると、今までの騒めきがピタリと止んで、そしてすぐにまた騒めきだす。
自分の机に向かうと、画鋲が椅子の上にあった。
ご丁寧にノリでつけられていて、手では取れない。
困っていると先生が来た。

「×××、早く座りなさい」

そう言われてさらに焦っていると、クラスメイトがわたしの身体を押す。

「とっとと座れよ」
「迷惑かけるなよ」

そんな言葉が行き交う。
諦めて、椅子の画鋲を避けながら座ろうとすると

「もっとしっかり座れよ!」

と、明らかにわかってて言ってくる。
先生に椅子を見せてわかってもらおうとすると・・・先生は目線をそらして

「早くと座りなさい」

そう言った。


太ももに針が刺さり、激痛がはしる。
後ろの席の子が椅子を蹴る。
針が動いて広がり、余計に痛くて涙が出る。

「あれ?×××泣いてやんの」
「えーやだーこれから授業なのにー」
「×××、授業の邪魔になるから廊下に出てなさい」

自分は悪くないのに廊下に出される。
歩くたびに太ももの傷が痛む。
教室から出て、ゆっくりと保健室に向かう。
保健の先生は眉をひそめながらも怪我を見てくれる。
小声でボソリと言った。

「今日。市の役員さんが来るの・・・あなたの事、報告するわよ。ちゃんと逃げなさい」

それは、からしたら初めての優しさだった。
そして放課後残るよう言われ、女性の人に傷を1つ1つ見られる。
緊急の一時保護施設に保護される事となった。

そこからは怒涛のように日々が過ぎた。
緊急から、児童養護施設に行った。
学校も転校になり、新しい友人が出来た。
沢山の家族が出来た。
でも、の胸にはぽっかりと穴が空いたままだった。
本当の家族は来なかったから。
施設に行ってから死ぬまで結局会わなかったなぁ・・・。
そんな穴を埋めるようには勉強して保育の学校に行った。
普通の子になりたかった。
なるためにはどんなこと経験を積んだらいいのかを知りたかった。

でも、そこでは虐待を再度認識してしまった。
吐き気がした。気持ち悪かった。
それでも頑張って、頑張って、頑張って・・・保育士になれた。
はお世話になった施設にスタッフとして舞い戻った。

「ただいま」

今まで一緒にいた子が喜んでくれた。
また、新しい家族や、別れを繰り返した。
仕事が家族で、家族が仕事。
そんな生活だったから、出会いもなくなんの楽しみもなかった。
そんなある日、ある担当の子がこれ面白いの!と勧めてくれたのが本だった。
読んで、とても面白かった。
そこからは、その子とあれもこれもと本を読んでは評価しあった。
「華は可憐に咲き誇る」もそのうちの1つだった。


そんな日々は突然奪われた。
暴走した車にはねられ死んだのだ。


前世を鮮明に思い出し、は、私はああ、だからほっておけなかったのか。と納得した。
マリア様も、クラウス様も、形こそ違えど、前世のと同じく、家族を思い出す存在だったのだ。
だからこそ、彼らに笑っていて欲しかったのだと、気づいたのだ。

目の前にいるクリスティーヌ様を見つめる。
どこか、本を勧めてきた子に似ている気がする。

「私の名前は、エルゼです。過去の名前なんてありません。ただ・・・夢の中では真美と呼ばれてました」
「みー・・・先生?」
「え?」
「やっぱり、みー先生だ。あのお菓子の味、みー先生のだもの!やっぱり、やっぱり、会えた!」
「その呼び方は、楓ちゃん・・・」

本を勧めた女の子は、警戒心が強い子だった。それでもしばらくしたら慣れてきてくれて、話しかけてくれて、自分だけの呼び方!!とあだ名で呼び始めた。
その時のあだ名だ。

「そうだよ!嬉しい」

がばっと抱きつき、泣き出したクリスティーヌ様を慰めながら、よければと自室に案内する。
積もる話もあるかも・・・と。
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