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本編
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婚約者なんて誰でもよかった。
お母様やお父様に認めてもらうことだけを考えながら生きてた。
毎日の講義に、剣術、乗馬、ダンス・・・
覚えることが多すぎた。
余裕なんてあるわけがなかった。
それでも頑張っていたのはお母様やお父様に褒めてもらう為。
国務に勤しむ父や母が褒めてくれることはほとんどなかったけれど、時々話をするだけで嬉しかった。
ある日、公爵家の夫人が変わったお菓子を持ってきたと話題になった。
お母様は一口で気に入り、その作ったものに会いたいと望んでいた。
夫人が言うには、料理人ではなく娘の侍女だと言う。
侍女なら、うちに雇い入れたらいい。
そしたらその侍女はきっと喜ぶだろう。
何せ、王家に仕える事は侍女や召使いにとって名誉な事だから。
お母様も同じ考えらしく、是非、うちにと言うが、夫人は首を縦に振ることはなかった。
その娘や息子が、侍女に懐いており癇癪も減って、とても良い子に育っているからと。
なんだそれ。
王家に侍女をやる事で公爵家は王家に恩を売れる、それ以上の価値がその侍女にはあるってことか?
気になるな。
そんなことを考えていたら、お母様や夫人はその娘の話に変わった。
「最近は、教師からも太鼓判を戴くぐらい頑張っているみたいですの」
「まあ、もう、そんな高度なダンスまで?」
「ええ、娘がいうには、エルゼ・・・その侍女の作るこういったお菓子は太りやすいので、頑張って消費しないといけないんだそうですの」
「え・・・こ、この料理は太るんですか?」
「うふふ。わたくしがこうして持ってくるからには確認してましてよ。今日召し上がった程度でしたら、普段のお菓子と変わらないそうですわ」
「まあ、よかった」
「それに、笑顔が増えましたわ。いつも、わたくしを見ては切なげに瞳を揺らすあの子を見て心の中で謝りながら、ずっと一緒にはいられませんでしたもの」
「そうよね・・・」
お母様も夫人も悲しげな顔でため息をつき、僕を見る。
なんだろう?と首をかしげると
「貴方も、同じよね」
と、お母様は僕を撫でてギュッと抱きしめてくださった。
あまり体験のない抱擁に、胸の奥がぎゅっと締まるような、そんなよくわからない感情が湧いて、僕は、気づいたら涙を流していた。
それからしばらくして、僕と公爵家の長女 マリアとの婚約が決まったと両親から言われ、顔合わせをすることになった。
お茶菓子は件の侍女が作るとのことで、内心、婚約者である彼女よりもそっちの方に気を取られていた。
会ってすぐは、はっきり言って、件の侍女にしか興味がなかった。それ故にマリアと顔を合わせ、話をする前から侍女の話をして彼女を怒らせた。しかし、彼女は侍女の話をするとき、本当に大切なものを思い出すかのように微笑んで——それは昔見た絵画の天使のような慈悲に溢れた微笑みのようで——はっきり言って見惚れた。
その後、彼女の家に行くことが決まり、その日を待ち遠しく思う自分がいた。
公爵家の食事は本当に変わったものばかりだが、美しく美味しかった。
その後、侍女は姿を消したのでチョロチョロと辺りを見渡すと
「本当にルーク様は私の侍女に興味がおありですのね」
失態だった。会いに来た本人をほっといて背景である使用人を探すなど、失礼なことをしてしまった。
「ふぅ・・・でも、私の侍女は渡しませんわよ。彼女は私にとって大切な大切な家族なんですもの」
「は?」
「ふふ。たかが使用人に家族なんてとお思いでしょうね。でも、彼女は私にとって特別ですの」
「・・・何故?」
「私、彼女と会うまでは何を貰っても、何を学んでも、何もかもが虚しくて、空しくて、胸にぽっかり穴が空いているようでしたわ。でも、それにも気付かず、イライラして周りに当たり散らすような子どもでしたの」
マリアは侍女との思い出を宝物のように語りはじめた。
マナー教室で初めてできたことを褒められ、ご褒美とクッキーを貰ったこと。
小さな事でも自分と同じぐらい喜んでくれる侍女が空いていたはずの穴を塞いでいってくれたこと。
侍女が、自分の親である公爵や夫人にもっと自分の子を構えと訴えたこと。
それにより、以前よりもずっと家族の絆らしきものが出来たこと。
そんな話をとても嬉しそうに、懐かしそうに話してくれた。
「ふぅーん・・・」
僕はそんな侍女に出会えたマリアが羨ましいのか、マリアにそんな表情をさせるその侍女が妬ましいのか、わからない、そんな感情が湧いた。
その後、マリアの弟であるクラウスと意気投合してマリアとその侍女の関係をもっと知ろうと何度も公爵家に通った。
そのうちに、マリアの優しさや慎ましい雰囲気に惹かれ始める自分がいた。
その頃には、侍女・・・エルゼはマリアについてくるおまけのようなそんな存在になっていた。
だが、マリアの1番の想い人はいつまでもエルゼなので、ある意味ライバル・・・なのかもしれない。
結婚したら、マリアはきっとエルゼを連れてくるだろうし、そうなったらそうなったで楽しい日々が送れる気がする。
マリアが拾ったという、クリスティーヌもいつのまにかマリアに魅了されているようだし・・・
うちの婚約者はたらしの才能があるのかもしれない。
それでも、決して手を離したりしないけれども・・・
お母様やお父様に認めてもらうことだけを考えながら生きてた。
毎日の講義に、剣術、乗馬、ダンス・・・
覚えることが多すぎた。
余裕なんてあるわけがなかった。
それでも頑張っていたのはお母様やお父様に褒めてもらう為。
国務に勤しむ父や母が褒めてくれることはほとんどなかったけれど、時々話をするだけで嬉しかった。
ある日、公爵家の夫人が変わったお菓子を持ってきたと話題になった。
お母様は一口で気に入り、その作ったものに会いたいと望んでいた。
夫人が言うには、料理人ではなく娘の侍女だと言う。
侍女なら、うちに雇い入れたらいい。
そしたらその侍女はきっと喜ぶだろう。
何せ、王家に仕える事は侍女や召使いにとって名誉な事だから。
お母様も同じ考えらしく、是非、うちにと言うが、夫人は首を縦に振ることはなかった。
その娘や息子が、侍女に懐いており癇癪も減って、とても良い子に育っているからと。
なんだそれ。
王家に侍女をやる事で公爵家は王家に恩を売れる、それ以上の価値がその侍女にはあるってことか?
気になるな。
そんなことを考えていたら、お母様や夫人はその娘の話に変わった。
「最近は、教師からも太鼓判を戴くぐらい頑張っているみたいですの」
「まあ、もう、そんな高度なダンスまで?」
「ええ、娘がいうには、エルゼ・・・その侍女の作るこういったお菓子は太りやすいので、頑張って消費しないといけないんだそうですの」
「え・・・こ、この料理は太るんですか?」
「うふふ。わたくしがこうして持ってくるからには確認してましてよ。今日召し上がった程度でしたら、普段のお菓子と変わらないそうですわ」
「まあ、よかった」
「それに、笑顔が増えましたわ。いつも、わたくしを見ては切なげに瞳を揺らすあの子を見て心の中で謝りながら、ずっと一緒にはいられませんでしたもの」
「そうよね・・・」
お母様も夫人も悲しげな顔でため息をつき、僕を見る。
なんだろう?と首をかしげると
「貴方も、同じよね」
と、お母様は僕を撫でてギュッと抱きしめてくださった。
あまり体験のない抱擁に、胸の奥がぎゅっと締まるような、そんなよくわからない感情が湧いて、僕は、気づいたら涙を流していた。
それからしばらくして、僕と公爵家の長女 マリアとの婚約が決まったと両親から言われ、顔合わせをすることになった。
お茶菓子は件の侍女が作るとのことで、内心、婚約者である彼女よりもそっちの方に気を取られていた。
会ってすぐは、はっきり言って、件の侍女にしか興味がなかった。それ故にマリアと顔を合わせ、話をする前から侍女の話をして彼女を怒らせた。しかし、彼女は侍女の話をするとき、本当に大切なものを思い出すかのように微笑んで——それは昔見た絵画の天使のような慈悲に溢れた微笑みのようで——はっきり言って見惚れた。
その後、彼女の家に行くことが決まり、その日を待ち遠しく思う自分がいた。
公爵家の食事は本当に変わったものばかりだが、美しく美味しかった。
その後、侍女は姿を消したのでチョロチョロと辺りを見渡すと
「本当にルーク様は私の侍女に興味がおありですのね」
失態だった。会いに来た本人をほっといて背景である使用人を探すなど、失礼なことをしてしまった。
「ふぅ・・・でも、私の侍女は渡しませんわよ。彼女は私にとって大切な大切な家族なんですもの」
「は?」
「ふふ。たかが使用人に家族なんてとお思いでしょうね。でも、彼女は私にとって特別ですの」
「・・・何故?」
「私、彼女と会うまでは何を貰っても、何を学んでも、何もかもが虚しくて、空しくて、胸にぽっかり穴が空いているようでしたわ。でも、それにも気付かず、イライラして周りに当たり散らすような子どもでしたの」
マリアは侍女との思い出を宝物のように語りはじめた。
マナー教室で初めてできたことを褒められ、ご褒美とクッキーを貰ったこと。
小さな事でも自分と同じぐらい喜んでくれる侍女が空いていたはずの穴を塞いでいってくれたこと。
侍女が、自分の親である公爵や夫人にもっと自分の子を構えと訴えたこと。
それにより、以前よりもずっと家族の絆らしきものが出来たこと。
そんな話をとても嬉しそうに、懐かしそうに話してくれた。
「ふぅーん・・・」
僕はそんな侍女に出会えたマリアが羨ましいのか、マリアにそんな表情をさせるその侍女が妬ましいのか、わからない、そんな感情が湧いた。
その後、マリアの弟であるクラウスと意気投合してマリアとその侍女の関係をもっと知ろうと何度も公爵家に通った。
そのうちに、マリアの優しさや慎ましい雰囲気に惹かれ始める自分がいた。
その頃には、侍女・・・エルゼはマリアについてくるおまけのようなそんな存在になっていた。
だが、マリアの1番の想い人はいつまでもエルゼなので、ある意味ライバル・・・なのかもしれない。
結婚したら、マリアはきっとエルゼを連れてくるだろうし、そうなったらそうなったで楽しい日々が送れる気がする。
マリアが拾ったという、クリスティーヌもいつのまにかマリアに魅了されているようだし・・・
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それでも、決して手を離したりしないけれども・・・
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