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6章 王宮へ出張
36.埃まみれの鶴
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天井近くにある窓から光が差し込み、埃がキラキラ光って舞っている。
倉庫には、確かに書物が積まれている。孤児院に寄贈される本とはこれだろう。
だとしても、なんで扉を閉めて鍵をかける必要があるんだ?
「どうなってるんですか!」
神官長は動揺もなく、ベルベット張りの椅子に腰掛け、テーブルに乗った本を手に取り検閲している。
「くだらんが、嫌がらせに閉じ込められたんだ」
「んなことは分かってます! なんで宰相の息子に嫌がらせをされるんですか。あの神域に入った事がそこまでの大事件だったんですか?」
「……おまえは知らないか」
「はい……?」
本から顔を上げた神官長には疲れた表情が浮かんでいた。
「あれは私の義弟だ。そして私は嫌われている」
「………………」
頭の中の神官長の家系図パズルがパチパチとはまった。
義母に嫌われて聖堂へ追い払われ、神官見習いになったウォーレン。
宰相の息子がウォーレンの義弟。
つまり、ウォーレンも宰相の息子?
宰相であるクロフォード公爵の前妻との子供がウォーレン、後妻との子供がグレンと騎士隊副長ということか。
……めちゃくちゃ身分の高い貴族様だったわけだ。
でも、ウォーレンの姓はクロフォードではなくアルメストだ。表向きには相続放棄して実家との繋がりを断ち切っているんだろう。
ただ、裏向きには神官長の身の振り方に実家の思惑が絡んだりしているし、完全には切れてなさそうだな。
今回の神域に関するアレコレの嫌がらせも、クロフォード家との確執が絡んで下級官吏が増長しているのかもしれない。
色々わかってスッキリしたような、神官長の難しい立ち位置に身悶えするような、複雑な気分だ……。
思えば、神官長もグレンも似たタイプのイケメンかもしれない。
なんなら騎士隊副長もみんなイケメン……イケメン男子が生まれやすい血筋なのか? 最強血統じゃないか?
「なるほど、把握しました。でも、ずっと倉庫にいるわけにもいかないですよね」
埃っぽい倉庫の中にいても、埃っぽいベルベット椅子に座っていても、神官長は優雅で美しさがある。掃き溜めに鶴、埃まみれの倉庫に神官長か。
不意に、神官長と2人きりで閉じ込められているという状況を思い出した。
身のうちの獣がソワソワしだすじゃないか。
「そうだな、こんなところにずっといては危険だな」
神官長が手の中の本を閉じて横に置くと、何か意味深な目つきで俺を見上げてきた。
その目に背筋がゾクリとする。
「そうですね、早めに出ないと暑さで脱水症状に――」
「いや、おまえに襲われそうって意味だ」
「はっ?!」
「こういう部屋で、さっきのお茶汲みメイドみたいなのと逢い引きしていたんだろう?」
す、するどい!! 心臓が飛び出すかと思った!
あのメイドと接触したのは神官長の背後でのことだから、気づいていないと思ったのに!
「ははは……なにか誤解がありそうですね。俺はそんなことちっとも考えていませんよ。悲しいですね。女と俺が同じ部屋にいるだけで、全部そっちの想像をされるんですか?」
「色眼鏡で見ているつもりはないが。おまえを見るメイドの目にはあきらかに含みがあったし、おまえも酷く動揺していたな。そして、おまえの下半身がゆるいことを私は身をもって知っている」
夜の洞窟でお互いの下半身を高めあったあの日。
目の前にいる神官長の禁欲的な姿と重なるように脳裏によみがえり、呼吸が早くなる。
「……あの夜のことは記憶から抹消するルールかと思ってました」
「まだ抹消していなかったな。でもそうすべきだ」
俺をじっと見上げる神官長の目が何か言いたげだ。それは……つまり……?
俺は興奮した犬より素早く神官長の前に跪いてその目を覗きこんだ。
「抹消する前に、もう一つの思い出を作りましょう」
目の前にいる神官長から微かにシラキスの香りがする。
それはきっと昨日のマッサージオイルの匂いだ。
少し微笑む神官長の顔は妖艶で、俺を誘っている。
神官長が首を傾げると、艶のある髪が肩から流れ落ち、神官長自身とシラキスの混じった匂いを嗅ぎ取った。
その髪に手を差しこんで耳を撫でると、神官長が目を細めた。
「神官長……」
耳に触れる手が興奮で痺れる。
昼間の冷たい禁欲的で厳粛な神官長が、俺の手に身を委ねているのか。
そのまま後頭部へ手を回し、神官長に顔を近づけた。
高い鼻に触れそうで。
神官長の息が甘く香る――――――
「って、イタタァーーーッ!!!」
耳に激痛が走った!
あっけなく神官長に耳を引っ張られて引き離された!
倉庫には、確かに書物が積まれている。孤児院に寄贈される本とはこれだろう。
だとしても、なんで扉を閉めて鍵をかける必要があるんだ?
「どうなってるんですか!」
神官長は動揺もなく、ベルベット張りの椅子に腰掛け、テーブルに乗った本を手に取り検閲している。
「くだらんが、嫌がらせに閉じ込められたんだ」
「んなことは分かってます! なんで宰相の息子に嫌がらせをされるんですか。あの神域に入った事がそこまでの大事件だったんですか?」
「……おまえは知らないか」
「はい……?」
本から顔を上げた神官長には疲れた表情が浮かんでいた。
「あれは私の義弟だ。そして私は嫌われている」
「………………」
頭の中の神官長の家系図パズルがパチパチとはまった。
義母に嫌われて聖堂へ追い払われ、神官見習いになったウォーレン。
宰相の息子がウォーレンの義弟。
つまり、ウォーレンも宰相の息子?
宰相であるクロフォード公爵の前妻との子供がウォーレン、後妻との子供がグレンと騎士隊副長ということか。
……めちゃくちゃ身分の高い貴族様だったわけだ。
でも、ウォーレンの姓はクロフォードではなくアルメストだ。表向きには相続放棄して実家との繋がりを断ち切っているんだろう。
ただ、裏向きには神官長の身の振り方に実家の思惑が絡んだりしているし、完全には切れてなさそうだな。
今回の神域に関するアレコレの嫌がらせも、クロフォード家との確執が絡んで下級官吏が増長しているのかもしれない。
色々わかってスッキリしたような、神官長の難しい立ち位置に身悶えするような、複雑な気分だ……。
思えば、神官長もグレンも似たタイプのイケメンかもしれない。
なんなら騎士隊副長もみんなイケメン……イケメン男子が生まれやすい血筋なのか? 最強血統じゃないか?
「なるほど、把握しました。でも、ずっと倉庫にいるわけにもいかないですよね」
埃っぽい倉庫の中にいても、埃っぽいベルベット椅子に座っていても、神官長は優雅で美しさがある。掃き溜めに鶴、埃まみれの倉庫に神官長か。
不意に、神官長と2人きりで閉じ込められているという状況を思い出した。
身のうちの獣がソワソワしだすじゃないか。
「そうだな、こんなところにずっといては危険だな」
神官長が手の中の本を閉じて横に置くと、何か意味深な目つきで俺を見上げてきた。
その目に背筋がゾクリとする。
「そうですね、早めに出ないと暑さで脱水症状に――」
「いや、おまえに襲われそうって意味だ」
「はっ?!」
「こういう部屋で、さっきのお茶汲みメイドみたいなのと逢い引きしていたんだろう?」
す、するどい!! 心臓が飛び出すかと思った!
あのメイドと接触したのは神官長の背後でのことだから、気づいていないと思ったのに!
「ははは……なにか誤解がありそうですね。俺はそんなことちっとも考えていませんよ。悲しいですね。女と俺が同じ部屋にいるだけで、全部そっちの想像をされるんですか?」
「色眼鏡で見ているつもりはないが。おまえを見るメイドの目にはあきらかに含みがあったし、おまえも酷く動揺していたな。そして、おまえの下半身がゆるいことを私は身をもって知っている」
夜の洞窟でお互いの下半身を高めあったあの日。
目の前にいる神官長の禁欲的な姿と重なるように脳裏によみがえり、呼吸が早くなる。
「……あの夜のことは記憶から抹消するルールかと思ってました」
「まだ抹消していなかったな。でもそうすべきだ」
俺をじっと見上げる神官長の目が何か言いたげだ。それは……つまり……?
俺は興奮した犬より素早く神官長の前に跪いてその目を覗きこんだ。
「抹消する前に、もう一つの思い出を作りましょう」
目の前にいる神官長から微かにシラキスの香りがする。
それはきっと昨日のマッサージオイルの匂いだ。
少し微笑む神官長の顔は妖艶で、俺を誘っている。
神官長が首を傾げると、艶のある髪が肩から流れ落ち、神官長自身とシラキスの混じった匂いを嗅ぎ取った。
その髪に手を差しこんで耳を撫でると、神官長が目を細めた。
「神官長……」
耳に触れる手が興奮で痺れる。
昼間の冷たい禁欲的で厳粛な神官長が、俺の手に身を委ねているのか。
そのまま後頭部へ手を回し、神官長に顔を近づけた。
高い鼻に触れそうで。
神官長の息が甘く香る――――――
「って、イタタァーーーッ!!!」
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