【完結】覆面セクシーダンサーは昼職の上司に盲愛される

鳥見 ねこ

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7章 暗躍ランス

40.デカイ男を攻めるな

 いつものVIPルームの前に、黒服がガードマンのように立っていた。
 こいつはミーシャに抱き込まれているやつだ!

「ら、ランス!」

 慌てふためく黒服の襟を締め上げる。
 熊のような体格の黒服だけど、こっちだって昼間は騎士として鍛えてんだ。鍛え方が違う。
 釣り上げるように襟締めして扉に叩きつけて抑えこんだ。

「おい、中に誰がいる? ミーシャだろ!」

 冷静なつもりなのに、体の奥から怒りが込み上げてきて声が震えそうになる。

「う、う!」

 かすかにコクコクうなずく黒服を廊下に放り出し、勢いよく扉を開けた。

「ウォーレン!」

………………ベッドで仰向けに伸びているミーシャの横で、ウォーレンがびっくりした顔でこっちを見ている。
 入ってきたのが俺だと気づくと、安堵なのか肩から力が抜けた。

「ッ! ランスか」
「……何があった? 魔法で眠らせたのか?」

 ベッドの上のミーシャに近づいてよく見ると、ほぼ全裸のミーシャが口から涎をたらしながら寝ている。

「え? いや、私もよくわからないんだが、彼があなたのことで話があると部屋に入ってきたんだ。なのに服を脱いだり私に抱きついてきたりと錯乱していて、揉み合っているうちに肘が当たってしまった」

 サカって襲ったのに錯乱で片付けられてる。それも、魔法すら必要としないで昏倒させられてるし……。
 冷静になれば、細くて中性的なミーシャが、がっしり筋肉のついたウォーレンを無理矢理押し倒すのは体格差がありすぎる。

 無理すんなよミーシャ……。デカい男を攻めるのが好きなんだろうけどな……。哀れなやつよ。

「はぁ~~~~っ。焦っただろぉ……もぉ」
「私も焦ったよ、気絶させてしまって。彼は大丈夫だろうか」

 こっちが焦ったのはミーシャが寝てることに対してじゃなく、ウォーレンが襲われそうになったことに対して、なんだけど。
 他のキャストがウォーレンに手を出すのかと思ったとたん、怒りが湧いた。
 この気持は横取りされそうになったことに対する独占欲か?

「こいつは大丈夫だよ。しばらくしたら起きるだろ」
「そうか、顔色もいいしな」

 ミーシャに手を伸ばしたウォーレンの手を思わずつかんでいた。

「……? ランス?」

 とっさに出た手。その意味を考えるとジワジワ顔が熱くなる。
 子供っぽい感情じゃないか? 他のやつに構うなっていう独占欲は。

「ランス、どうした?」
「……ウォーレンは俺の客だ。それなら他のキャストには触るな」
「……?? あぁ、そういう店のルールなのか、すまない」

 取り消せない行動に観念して、こぼした本音がまた斜め上に解釈された。
 ルールなんて無機質なもんじゃない。
 もっとドロドロした執着だって話をどう解らせればいい?

「じゃ、なくてさぁ。金を出して俺を指名したならこの時間、俺はあんたのもの。そしてあんたは俺のもの。そこに他人が割り込んでくるのは嫌なんだよね」

 ウォーレンがギシッと固まった。ウォーレンが驚いた顔で俺の顔をマジマジと見てくる。

「この時間は……ランスが私のもの……だったのか?」
「だから、俺を指名すんなら他のキャストに浮気すんなよ」

 これが精一杯の牽制だ。これで伝わったか?
 掴んでいた手を外されて、ウォーレンの手に握られた。

「わかった、誓おう。今回の件も本意ではなかった。不問にしてくれるか?」

 ウォーレンに手のひらへキスされた。その誓うようなしぐさに心臓がギシギシきしむ。。
 恥ずかしい独占欲を見せた。それでも当然のように受け入れられるってのはくすぐったくてしかたない。

「ん……許す」

 ウォーレンのはにかんだ笑みを堪能する間も無く、抱きしめられてキスされた。
 頭を撫でられながら、じゃれあいのようなキスで何度も唇を押し付けされた。
 ずっとウォーレンのペースなのがじれったく、噛みつこうと口を開く。

 いや、ちょっと待て!

「ん……ば、まてまてっ」
「なんだ?」

 やっと我にかえった。キスに流されている場合じゃなかった!

「気づいてたか? 向かいのVIPルームにあんたの監視対象者が入ってんだ」
「あぁ、ショーの時にバルコニーにいるのが見えた。今はカーテンがかかっていて、よく見えないが」

 バルコニーから向かいをのぞくと、たしかにバルコニーに面する入り口にはカーテンがかかっていて、中が見えない。

「ショーの時にはひとりだったか?」
「あぁ、そうだ」
「それじゃ、後から取引相手がくるのかもな。いつもは下のホールにいることも多いだろう? 今日はあのVIPルームを取ってる。ってことは、そうとう見られたくない大物が来るのかも知れねぇ」
「それはそうだが……」

 戸惑い気味に口ごもるウォーレンにニヤリと笑った。
 ミーシャに抜け駆けされたときは頭に血が上ったけど、今はそれを逆手にとって状況を変えてやりたい。

「俺がミーシャの代わりにあの部屋に行ってくる。それでカーテンを開けてやる」
「なんだと?!」

 ウォーレンにグッと肩を掴まれた。

「ミーシャがあの部屋のキャストに指名されてるけど、不幸中の幸い、こいつはここで伸びてるわけだ。誰かがキャストにつくんだから、おまえがオーケーするなら黒服を言いくるめて、あの部屋のキャストについてやる」
「いや、しかし」

 言い淀むウォーレンの胸を拳でトントンと叩いた。

「最初に協力しろって言ったのはおまえだろ。今まで大したことができてないんだ。もうちょっと協力させろ」
「………………あなたは充分、協力している。だが……無理しない程度に、お願いできるだろうか」
「任せろ」

 ただ、ミーシャをこのままここに残していくのは不安が残る。タオルで腕を縛り上げてベッドに転がした。

「なぜ腕を?」
「目が覚めたらまたあんたを襲うかもしれねぇだろ!」

 ミーシャを置いて部屋の扉を開けると、ミーシャに抱き込まれている黒服が不安げな顔でこっちを見た。

「ミーシャはアクシデントで寝てる」
「なっ、ミーシャが寝てる?! 何したんだ!」
「何したってか、何するつもりだったんだってのは、こっちのセリフなんだけどなぁ?」
「うっ……」
「ちょっと寝てるだけだ。でも、向こうの客を待たせておけねぇから俺が行く。ウォーレンにも過失があったからってんで同意済みだ。ミーシャはこっちで寝かせとけば良い。ちょっとキャスト変更をするだけだ」
「しかし」
「てめぇ、ミーシャに協力して俺をはめようとしたな? そこをミーシャのドジを庇ってやろうって言ってんだよ、感謝しろ」
「……分かった」

 これで黒服の合意をもぎ取れた。
 部屋の中からこちらを見ているウォーレンに、手をヒラヒラと振って部屋を出た。
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