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7章 暗躍ランス
39.ミーシャ絶許
昼の仕事が落ち着いた神官長は、夜の店に来る頻度も以前と同じに戻ってきた。
楽屋から客席が見える小窓をのぞくと、2階のVIPルームに明かりがついているのが見える。
ついついニヤニヤしてしまうのが止められない。
スルリと隣に立ったミーシャから花の香りが漂った。
「なぁに? やけに嬉しそうだね?」
「んん? いや~今日も良い金づるが入ってんな~と思ってさ」
最近、ミーシャに神官長との関係を妬まれている気配がある。だから気がないフリで嫉妬を逸らした。
こっちを見るミーシャは腕を組みながら俺の顔をジロジロと眺めてきた。
その目が探るように見えて、不快な気分になってくる。
「ふ~ん? まぁいいや。今日は僕もVIPルームのお客さんが入ってね、良い稼ぎになりそう。今後も指名してくれないかなぁ」
もうひとりのVIP?!
小窓をのぞくと、神官長が入る2階席の向かい側にも明かりがついていた。
VIPルームは料金が高額なため利用されることが少ない。でも、最近の客層からすると、神官長以外にVIPルームを使いそうなのは、例の監視対象者の大聖堂関係者だ。
その姿はここから見えないけど、神官長のいる2階からなら……?
「へぇ……客はひとりか? それとも何人か?」
「そんなの知らないよ。でもあのお客さん、よく取引相手みたいな人を連れ込むんだよね。プレイするわけでもなく。今日もそうかな」
可能性あり、だ。うまく情報を引き出せればいいんだけど……馬鹿なミーシャでも、下手に探ると怪しまれそうだしなぁ。
ミーシャが背中にピタリと張り付いて、顔を寄せてくる。
「ねえ、ランス。ショーのあと、VIPルームに行く前にちょっと時間くれない? 楽屋で待っててよ」
「あん? でも客が待ってるだろ」
「ちょっとくらい大丈夫だって。ね? 話したいことがあってさぁ」
いったい何の話なのか、気になる。
ただ、俺の顔を覗き込んでくるミーシャの顔だ。これはいただけない。
綺麗な顔を微妙にニヤニヤと歪めていて、なにか企んでいるように見える。
それでも、あの客について何か情報が引き出せるかもしれない。そう思うと警戒から好奇心に天秤が傾いた。
「わーかった。ちょっとだけだな。でも『ランス様の下僕になりたかったの~』とかの告白は無しな」
「はぁ~?! こっちだって願い下げ! あんたの軽口を叩く無駄な舌をちょん切ってやれたら、下僕くらいにはしてやるんだけどねっ!」
「えぇ~?! 俺の舌技をしらねぇの? この熱くて長くて器用な舌で舐められたら、おまえだってすぐいっちゃうのにもったいねぇ」
べぇ~っと舌を出してやったら、ミーシャも顔を赤くして舌を出してきた。
「あんたの客って早漏ばっかり? 適当にベロベロ舐めるどこが舌技なんだか。器用ってのリボンを口の中でちょうちょ結びできちゃう僕の舌のことだろぉ?」
「はぁ?! ふかすな!」
「あんたこそ盛ってる!」
バチバチしはじめた俺たちの間に、リックが割って入ってきた。
「はいはいはい、今にもベロチューしそうなおふたりさん。そろそろ舞台に行きますよ」
……舌を出して睨みあってたもんだから、からかわれた。
コイツとキスなんてする気ないけどなぁ!
舞台はいつも通り終わった。ただ、2階のバルコニーにいるウォーレンは遠くて、いまいち気持ちが盛り上がらない。今に始まったことじゃねーけど。
楽屋で汗を拭きながら待ってるうちに、キャストがひとりふたりと出て行く。
とうとう楽屋でひとりになった。
「おせぇな」
舞台後の楽屋でひとり暇を潰すなんて、ウォーレンが店に来る前は日常のことだった。
それが最近はウォーレンのいるVIPルームに行けない日は物足りない気持ちになる。
「……まだか?」
じっと時間が経つのを待つのも苦手だ。あいつ、トイレにでもいってるのか?
座って待っているよりもマシかと、近場のトイレに確認に行くと、リックの尻が開けっ放しのトイレからはみ出ていた。
「どした?」
「飲みすぎたみたい。吐かせてるとこ。水持ってきてくれよ」
便器にすがりついた客の背中がリック越しに見えた。でもトイレにミーシャの姿はない。
ホールのカウンターでピッチャーごと水をもらうついでに客席を見回しても、ミーシャの姿はない。
……あいつ、どこいった?
「ほらよ、水。ミーシャしらねぇ?」
「ええ? ミーシャ?」
吐いて落ち着いてきた客にコップで水を含ませながら、リックが考えるように口ごもった。
「うーん、ミーシャはVIPルームの客の指名が入ったって喜んでたよ」
「あ? あぁでも――」
「さっき、2階に上がって行ったし、もうVIPルームに入ってんじゃないか?」
「ああっ?!」
俺に話があるとか言って楽屋で待たせて、自分はもう2階に?
嫌な予感がする……。
俺への嫌がらせか? 少し接客を遅らせる程度の嫌がらせって、地味すぎないか?
なにか、他に、もっと……もしや、俺を楽屋に留めておきたい理由があったのか?
俺を舞台のあと楽屋に留めて何か……そういえば、ミーシャってウォーレンを狙ってたような……?
まさか、あの馬鹿、俺を出し抜こうとか思ってんのか?!
「ウォーレンのケツが危ない!」
「はい?」
ポカンとするリックを置いて、俺は急いで2階に駆け上がった。
楽屋から客席が見える小窓をのぞくと、2階のVIPルームに明かりがついているのが見える。
ついついニヤニヤしてしまうのが止められない。
スルリと隣に立ったミーシャから花の香りが漂った。
「なぁに? やけに嬉しそうだね?」
「んん? いや~今日も良い金づるが入ってんな~と思ってさ」
最近、ミーシャに神官長との関係を妬まれている気配がある。だから気がないフリで嫉妬を逸らした。
こっちを見るミーシャは腕を組みながら俺の顔をジロジロと眺めてきた。
その目が探るように見えて、不快な気分になってくる。
「ふ~ん? まぁいいや。今日は僕もVIPルームのお客さんが入ってね、良い稼ぎになりそう。今後も指名してくれないかなぁ」
もうひとりのVIP?!
小窓をのぞくと、神官長が入る2階席の向かい側にも明かりがついていた。
VIPルームは料金が高額なため利用されることが少ない。でも、最近の客層からすると、神官長以外にVIPルームを使いそうなのは、例の監視対象者の大聖堂関係者だ。
その姿はここから見えないけど、神官長のいる2階からなら……?
「へぇ……客はひとりか? それとも何人か?」
「そんなの知らないよ。でもあのお客さん、よく取引相手みたいな人を連れ込むんだよね。プレイするわけでもなく。今日もそうかな」
可能性あり、だ。うまく情報を引き出せればいいんだけど……馬鹿なミーシャでも、下手に探ると怪しまれそうだしなぁ。
ミーシャが背中にピタリと張り付いて、顔を寄せてくる。
「ねえ、ランス。ショーのあと、VIPルームに行く前にちょっと時間くれない? 楽屋で待っててよ」
「あん? でも客が待ってるだろ」
「ちょっとくらい大丈夫だって。ね? 話したいことがあってさぁ」
いったい何の話なのか、気になる。
ただ、俺の顔を覗き込んでくるミーシャの顔だ。これはいただけない。
綺麗な顔を微妙にニヤニヤと歪めていて、なにか企んでいるように見える。
それでも、あの客について何か情報が引き出せるかもしれない。そう思うと警戒から好奇心に天秤が傾いた。
「わーかった。ちょっとだけだな。でも『ランス様の下僕になりたかったの~』とかの告白は無しな」
「はぁ~?! こっちだって願い下げ! あんたの軽口を叩く無駄な舌をちょん切ってやれたら、下僕くらいにはしてやるんだけどねっ!」
「えぇ~?! 俺の舌技をしらねぇの? この熱くて長くて器用な舌で舐められたら、おまえだってすぐいっちゃうのにもったいねぇ」
べぇ~っと舌を出してやったら、ミーシャも顔を赤くして舌を出してきた。
「あんたの客って早漏ばっかり? 適当にベロベロ舐めるどこが舌技なんだか。器用ってのリボンを口の中でちょうちょ結びできちゃう僕の舌のことだろぉ?」
「はぁ?! ふかすな!」
「あんたこそ盛ってる!」
バチバチしはじめた俺たちの間に、リックが割って入ってきた。
「はいはいはい、今にもベロチューしそうなおふたりさん。そろそろ舞台に行きますよ」
……舌を出して睨みあってたもんだから、からかわれた。
コイツとキスなんてする気ないけどなぁ!
舞台はいつも通り終わった。ただ、2階のバルコニーにいるウォーレンは遠くて、いまいち気持ちが盛り上がらない。今に始まったことじゃねーけど。
楽屋で汗を拭きながら待ってるうちに、キャストがひとりふたりと出て行く。
とうとう楽屋でひとりになった。
「おせぇな」
舞台後の楽屋でひとり暇を潰すなんて、ウォーレンが店に来る前は日常のことだった。
それが最近はウォーレンのいるVIPルームに行けない日は物足りない気持ちになる。
「……まだか?」
じっと時間が経つのを待つのも苦手だ。あいつ、トイレにでもいってるのか?
座って待っているよりもマシかと、近場のトイレに確認に行くと、リックの尻が開けっ放しのトイレからはみ出ていた。
「どした?」
「飲みすぎたみたい。吐かせてるとこ。水持ってきてくれよ」
便器にすがりついた客の背中がリック越しに見えた。でもトイレにミーシャの姿はない。
ホールのカウンターでピッチャーごと水をもらうついでに客席を見回しても、ミーシャの姿はない。
……あいつ、どこいった?
「ほらよ、水。ミーシャしらねぇ?」
「ええ? ミーシャ?」
吐いて落ち着いてきた客にコップで水を含ませながら、リックが考えるように口ごもった。
「うーん、ミーシャはVIPルームの客の指名が入ったって喜んでたよ」
「あ? あぁでも――」
「さっき、2階に上がって行ったし、もうVIPルームに入ってんじゃないか?」
「ああっ?!」
俺に話があるとか言って楽屋で待たせて、自分はもう2階に?
嫌な予感がする……。
俺への嫌がらせか? 少し接客を遅らせる程度の嫌がらせって、地味すぎないか?
なにか、他に、もっと……もしや、俺を楽屋に留めておきたい理由があったのか?
俺を舞台のあと楽屋に留めて何か……そういえば、ミーシャってウォーレンを狙ってたような……?
まさか、あの馬鹿、俺を出し抜こうとか思ってんのか?!
「ウォーレンのケツが危ない!」
「はい?」
ポカンとするリックを置いて、俺は急いで2階に駆け上がった。
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