【完結】覆面セクシーダンサーは昼職の上司に盲愛される

鳥見 ねこ

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8章 飲み会とアフター

47.非公式グッズ

 昼過ぎ、神官長との面会の時間に合わせて妹を連れて大聖堂へ向かった。
 大聖堂前で、ザワッとした空気を感じ取ったのは気のせいじゃないだろう。
 警備している騎士たちからの視線が俺たちに突き刺さっているのも。

 まさか、人の妹を相手取って(新しい愛人は幼女!)なんて思ってるんじゃないだろうな?
 あ~ぁ、またバカみたいな俺の噂が流れそうだ。

 軽く手を上げて挨拶だけすると、大聖堂の受付へ向かった。
 またそこで受付業務をしている神官見習いの青年も、目を丸くして俺と妹を見比べるもんだから、笑いを堪えるのに苦労する。

「神官長に面会の予定があるんだ、このアンナお嬢様がな。俺は付き添いだ。確認してくれるか?」
「はっ、はい! お待ちください! ……アンナ・ミラーさん?」

 神官見習いの顔がまた俺と妹の顔を見比べる。

「……妹さんですか?」
「そうとしか見えないだろ?」
「驚かせないでくださいよ! クラレンスさん!」
「勝手に勘違いしたんだろ~」

 べーっと舌を出してやると、神官見習いがやれやれと肩をすくめた。

「どうしたの? 兄ちゃん大聖堂でも悪戯ばっかりしてるの?」
「い、いえ、あの、仕事はしっかりとされていますよ! ちょっとお茶目なので周りが戸惑うだけで!」

 神官見習いが慌ててフォローしてくれた。
 これについてはありがとう。妹に下ネタなんて話せない。

「兄ちゃんがお茶目って~」

 ケラケラ笑っている妹を見ると、病気が酷いようには見えない。たまに咳き込むくらいで元気そうだけどな。

 案内される大聖堂の中を見る目は興奮でキラキラしている。後で時間を取って観光案内してやるのも良いな。
 田舎の娘が都会にくるなんてあまりない機会だし、友達に土産のひとつも買いたいだろう。

「後で時間があればちょいと寄り道してくか」
「やったー! わたし、大聖堂の土産物屋さんに行きたかったの! 神官長グッズが欲しいんだもん!」

 いや、まて。そんなもん大聖堂には売ってないぞ。あれは非公式グッズだ!

「んなもん見たことないぞ。大聖堂で売ってんのは幸運のメダルとか、聖典の写本とか――」
「それじゃどこにあるのさ」
「……路地裏の土産物屋? 若い娘が行きそうな店ってどこにあるかな」
「そこいくー! そのためにお小遣いもらってきたんだから」

 案内役の神官見習いの背が笑っているように揺れて見えるのは気のせいか?

「今から神官長に会うってのに、さらにグッズ買うのか? ってか、実物に幻滅したらどうすんだよ」
「ええ? 兄ちゃんの上司ができるだけで偉いよ」
「めっちゃ上から目線じゃん……」
「兄ちゃんはすぐ空回りするし、変なとこポンコツだし。見下さずにはいられない」
「勘弁してくれよ……。神官長にそんな口はきくなよ」

 頭をぐりぐり撫でると、プリプリ怒って嫌がられた。
 そのまま神官長の執務室に行くのかと思ったら、その隣室に通された。

 部屋では神官長が出迎えてくれた。長い金髪がさらりと肩を撫で、端正な顔が手元の書類から顔を上げた。

「よく来たね、アンナ嬢」

 この微笑みは孤児対応モードだな。
 イケメンの微笑みにアンナが感極まって震えている。口をモゴモゴ動かすだけで答えないから、代わって挨拶する。

「この度はお手数をおかけします。こっちは妹のアンナです。父の手紙に大変ありがたい返事をいただき、家族一同感謝しています」
「過剰な感謝は不要だ。こちらとしても、以前にかなりのお布施をもらっている。アンナ嬢も緊張しなくていい。少し体調を見せてもらうだけだ」

 アンナの緊張は、これからの不安のためじゃなくて、憧れの人に会えた感動からなんだけど……。
 まぁ、一家でガチ勢だなんてバレたら恥ずかしいから、アンナの腕をつねって我に返らせた。

「は、はい!! よろしくおねがいしますっ!!」

 どうして執務室の隣室に通されたのかと思ったら、仮眠室を兼ねた部屋らしい。奥のカーテンの囲いの向こうにベッド が備え付けられていた。
 アンナにベッドに乗るように指示した後、神官長と目があった。
 その目が少しすがめられ、意地悪そうな笑顔に歪む。

「おまえがミラー家の長男とはな。受付から面会人の連絡が来た時には驚いた」
「はぁ。俺も今朝、妹が昔治療して頂いたのが神官長だったと聞いたばかりでして」
「……そうか、偶然だったか。不思議な縁もあるものだな」

 少し神官長の笑顔が曇った。
 ……あれ? もしや、昔のご恩に報いるために大聖堂を志願しました! って答えの方が喜ばれた?
 いやでも、左遷ってのは知ってるはずだし今更だよな。

 プイッとアンナの方を向いてしまった神官長は、また穏やかな声に戻ると仰向けになるよう指示した。

「今から神聖魔法で体の異常を確かめていく。痛くはないはずだが、少し熱くなるかもしれない。耐えられなくなればすぐに言ってくれ」
「はいっ」

 コクコク頷いて神官長を見上げるアンナの目は緊張に見開かれている。
 神官長は横になったアンナの頭に手をかざす。体には触れない程度の距離を保ったまま、その手がゆっくりと顔へ、胸へ、腕へと全身に動いていった。
 手は微かに白く光っているようにみえるから、あれが魔法の発露なのかな。

 手の動きはゆっくりしたもので、最後の足元まで行くのにしばらくの時間がかかった。
 神妙な顔で診察を受けているアンナと、真剣な表情で手をかざす神官長を見ていると、こっちも緊張してくる。

 まさか本当にゾンビ化の悪夢が再来……なんてことにはならないよな?
 大聖堂に来るまでは元気な妹の様子に呑気に構えてたのに、今になって緊張してきた。

 もしゾンビ化だってなったら……いや、あの時とは違う。
 今は神官長がいるんだから。この人ならすぐに治してくれるさ。

 かざしていた手を下ろした神官長が、その両手を擦り合わせた。その手が微かに震えていた。

「あ……の、どうでしたか?」

 何も言わない神官長に焦れた。
 振り向いた神官長が真面目な顔で俺を見つめてくる。
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