【完結】覆面セクシーダンサーは昼職の上司に盲愛される

鳥見 ねこ

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8章 飲み会とアフター

48.暇を持て余した爺さん

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 振り向いた神官長が真面目な顔で俺を見つめてくる。

「問題はない」
「へ?」
「咳は夏風邪だから長引いているだけだ。食欲がないのは夏バテだな。少量でも栄養価の高いものを食べていれば問題ないだろう」
「な、なんだ~。深刻な顔をするからビビったじゃないですか!」
「わたしは過保護だっていったのに、父ちゃんが騒ぐから~! ケホケホ」

 寝台から降りたアンナが恥ずかしそうに服の端をいじっている。
 そんなアンナに神官長が微笑む。

「もともと私も心配ないとは思っていた。今回の診察は念のためだ。万が一があってはならないからな。アンナ嬢が気にすることはない」

 神官長の微笑みを間近でみたアンナはその破壊力に頰を赤らめた。

「あの、これからもこいつが風邪をひくたびに診察をお願いすることになるんですか? それはちょっと申し訳ないというか……」
「そうだな。それでは、あの病の兆候をもう少し詳しく手紙にしたためようか。その兆候があれば遠慮なくすぐに連絡してくれ」
「はいっ、よろしくお願いします」

 手紙を書く間にお茶でも、と改めて隣の執務室へ通された。

 そこに来客がいたもんで驚いた。てっきり客は俺たちだけだと思っていたのに。
 短い白髪に派手な模様の描かれた帽子を被り、派手な模様の羽織を着ている、白い長髭を生やした爺さんだ。
 好々爺然とした相貌をしていて、入ってきた俺たちを笑顔で迎えた。

「やぁ、おつかれさん。問題なかったかね」
「ええ、その兆候はありませんでした」

 神官長が敬語だ。どういう関係なんだろう。

「紹介します。ミラー家の長男のクラレンス・ミラーとアンナ嬢です。クラレンスはこの大聖堂の聖堂騎士もしています」
「これはこれは、大きくなったね」

 爺さんが毛の長い白髪眉毛をひょいと上げた。その仕草には見覚えがある。
 はっきりとは思い出せないけど。

「どこかでお会いしましたか?」
「君とアンナ嬢の幼い頃じゃよ。村でアンナ嬢を診察して、ウォーレンを紹介したのがワシじゃ」

 記憶が少し蘇った。
 その頃、症状の悪化したアンナの部屋には入れてもらえず、不安を抱えたまま俺は廊下で様子を見ていた。
 アンナの部屋から出てきた人は、俺の頭をポンポンと叩いて、「必ず良くなる」と眉毛をひょいと上げながら断言してくれた。あの爺さんだ!

「あ~あの時の! 大変お世話になりました。あの時の助言のおかげで妹は助かったと父に聞きました」
「まぁ、年の功ってやつでな。知識だけは豊富にある。神聖魔法は使えんし、治したのはウォーレンじゃ。ワシは大したことはしとらん」

 謙遜する爺さんにウォーレンが真面目な顔でつけたした。

「このかたは私の恩師でもある」
「ははは、恩師とは大袈裟な。悪いことを吹き込む悪い爺さんってだけじゃ」

 爺さんは笑ってるけど、神官長はいたって真面目な顔だ。かなり尊敬している人……なのかな?

「手紙をしたためる。しばらく待っていてくれ」

 手ずから茶を入れてくれた神官長は、俺たちにソファを勧めてから執務机へ向かった。
 爺さんの前に座る形になって、黙っているのも変だろう。それに昔の神官長の話とか聞きたい!

「あの、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「ワシはユルゲンじゃ。医者のような冒険者のような教師のようなことをしとる。ただ、医師というのは実はエセでな」
「エセ? 親父は流れのお医者様だと言っていましたが」
「旅の途中で見知った知識で、見よう見真似でしとるだけだから、簡単なことしかできん。薬草を煎じて飲ませるとかな。免許もない。まぁ、あんたの親父さんには、そんな不安にさせるようなことは言えんかったがのぉ。だからワシにかしこまらんでも良いぞ」

 爺さんはそう言ったけど、神官長が恩師というくらいだから、ただのエセ医者ではないだろう。

「あの~、ユルゲンさんはわたしの病気が心配で見に来てくれたの?」
「いやいや、お嬢さん。今回はたまたま近くに来る用事があったから連絡したら、今日ミラー家のお嬢さんが来るというじゃないか。暇だし厄介ごとでも起こらないかとワクワクして覗きに来ただけじゃ」
「ええ? 厄介ごとが好きなの?!」
「暇を持て余した爺さんだからな。刺激が欲しいのよ。ただ残念だが、今回は立派に成長したミラー家の子供たちを見れただけで満足としよう」
「じいちゃんの余暇の娯楽にされなくてよかったわ」

 アンナはツンとしてそう言うけど、変な爺さんで面白がっているのがその目から見てとれる。
 わかる。俺もチョイ悪ジジイ好きだ。

「ユルゲンさんは王都になんの用事でこられたんですか? 町の案内とか、何かお手伝いできることがあれば是非お力になりたいんですが」
「そうか?」
「はい、妹を救ってくれた恩人です。父もきっと何かお礼がしたいと言うはずです」
「そんな大層なことはしとらんが……そうだのぉ、以前来た時よりもだいぶ町の様子が変わっとってな、道案内をしてくれると助かるなぁ」
「はい! 是非!」
「あとは飯のうまい飲み屋を教えてもらえりゃ助かるな。ワシの連れたちもこの町には不慣れだし」
「いい店を知ってますよ。任せてください」

 そんな流れで町の案内やアンナの雑貨店巡りをしているうちに、俺はすっかり爺さんと意気投合していた。
 爺さんは冒険者パーティーの仲間と町に来ているらしく、その夕食会にも一緒にどうかと誘われた。

 もちろん、神官長の過去を聞きたいという下心のある俺はその話に乗った。
 夕食は奢ってこい、と親父に売上から抜いたお金を渡された時は、下心があるだけに少し後ろめたかったけど。
 まぁ、俺もいっぱい稼いで返済に当ててるからチャラか。
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