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8章 飲み会とアフター
52.俺を弄ぶな
「この店は落ち着く。入ったのは偶然だが……大聖堂と自宅以外に腰を落ち着ける場所がなかった私に、ちょうど息抜きできる場所として馴染んだのかもな」
「職場と家庭に疲れて、飲み屋で潰れるおっさんみたいな話ですね」
「あるあるか?」
「あるあるです」
神官長がまた笑った。眉尻の下がった笑い方は意地悪そうでもなく、心を開くような笑顔に見えた。
「おまえにそういわれると、許せる気がするな。こんな場所に入り浸って息抜きする神官長なんて、私はどこか変なんじゃないかと思ったものだが」
「恐れながら、俺を普通の基準にするのは間違っていますからね?」
「問題をおこして聖堂騎士に左遷された男だものな」
「まさにそれです。でも、大概の人間は変わり者、ってのが俺から見た世界でして。だから飲み屋で潰れるおっさんも、ショーパブで潰れる神官長も、俺にとってはあるあるです」
「……清廉潔白な神の信徒として私をみる者が多いだけに、おまえのような者は新鮮に思えるよ」
神官長が舞台の上を見ながら酒を煽った。
その視線に釣られるように舞台に目を戻すと、ちょうどショーの幕間に入っていた。
幕間はショーのチームが入れ替わるタイミングのことで、幕間では客とちょっとしたサービスゲームをする。
司会が持っているのは細長い棒状のお菓子が入ったグラスだ。
「さぁ、本日は大人気のポッキーゲームの日です!」
ポッキーゲームは選ばれたキャストと選ばれた客が、ポッキーと名称される棒状のお菓子の両端を口に咥えてお互いに食べ進んでいくゲームだ。
客が怯んで離すか、ポッキーが折れるとゲーム終了。最後まで食べ切ると相手にキスしてしまうというご褒美が待っている。
鼻息荒く食べ進むとあっさりキャストからポッキーを折られて終了する駆け引きのゲームだ。まぁ8割失敗に終わる。
俺も何度かキャストとしてポッキーゲームに駆り出されたもんだが……
いやまて。何で司会、こっちを見ている?
「本日は初めて来店されたお客様がいます! 是非、ご参加いただきましょう! さぁ12番テーブルのお客様、前へどうぞ~~~っ!!」
や、やめろ~~~っ!! てめぇ分かってやってるな?! 俺を弄んで楽しいかっ!
「ほう、クラレンス。よかったな」
神官長も止めて?!
スポットライトまで当てられ、ホールの黒服に促され、舞台に連行された。
断る選択肢はあるさ……。でも舞台裏を知っているだけにそのノリを拒否することが出来なかっただけさ……。気に入らない客とポッキーゲームするより知ってる仲間の方が気休めになるんだろ……。
舞台の上で同僚のリックが仁王立ちで待っていた。普段はオカン気質で世話焼きだけど、こういう時の冷たさは人にあらず。
「てめぇ……」
「ほらほらお客様、顔が怖いですよ~? 笑顔笑顔」
こそっと囁くリックはニヤニヤ笑っている。その口に長いポッキーを咥えた。俺の手を封じるために両手を差し出してくる。
「音楽が流れている間に両端を食べ進み、2人はどこまで行っちゃうのか?! 初来店のお客様ファイトでーす! ……さあ、準備が整いました! それでは音楽スタート!」
司会の茶化した合図で軽快な音楽が流れ出した。俺はリックと両手を向かい合わせに掴み合い、しぶしぶお菓子の端を食べ始めた。
リックも食べ進めている。
ちょこっと頭を動かしてポッキーを折ろうとしたら、リックも同じように動いて阻止してくる。……こいつ、まさか。
さらに食べ進んでまた顔が近づいた。
お互いに慣れたゲームなだけに、ゲームのポイントを把握してる。頭の動かし方、力加減でポッキーが折れるポイントは。
怯んで口を離すなんて腰抜けな終わり方は許されない。ただ、ポッキーを折るのをやけに阻止してくるぞ、リックのやつ!
食べ進みの止まった俺に比べて、リックは絶好調に進んできた。
おい、まさか、てめぇ!
「ッ!」
あと残り少しのところでリックに強く手を引っ張られた。
「っん!? んん~ッ」
残りの菓子の端ごと噛み付くようなキスをガッツリされた……。
客席からワァワァ盛り上がった声が聞こえた。勝率2割に輝いたビギナーズラックのプレイに興奮してるんだろう。
口の中の菓子ごとべっとりベロチューされて、リックの顔が離れた後も口の中が気持ち悪い……。
「オエッ」
「お客様のおかげで盛り上がったよ。ありがとさん」
またこっそり囁いて、リックは手を振りながら舞台袖にはけていった。
俺は参加賞に酒を1杯渡されて席に戻された。
クッソ~~~! やってくれたな、あいつら……ただじゃおかねぇ。
席に戻る途中、ふと見えた神官長の顔にドキッとした。
なんだ? 嫉妬するみたいな鋭い目?
席に座って改めて見ると、別にいつもの涼しげな表情に見える。光の加減の見間違いかな。
「クラレンス、すごかったな」
「は……、恐縮です。あ~……羨ましいんでしたら、俺とポッキーゲームしますか?」
「調子に乗るな」
コンッと頭を小突かれた。
グイッとアルコールを飲んでも口の中の気持ち悪さが消えない。
リックとベロチューしたと思うだけ吐きそうになってくるし。
はぁ……神官長と口直しキスがしたい……。
「あの、ちょっとトイレ行ってきます」
「あぁ、……顔色が悪いな。ついていこうか?」
「いえ、ひとりで大丈夫です。ちょっと口の中が気持ち悪いだけです」
ついてこようとする神官長を押し止めて、トイレに向かった。
「職場と家庭に疲れて、飲み屋で潰れるおっさんみたいな話ですね」
「あるあるか?」
「あるあるです」
神官長がまた笑った。眉尻の下がった笑い方は意地悪そうでもなく、心を開くような笑顔に見えた。
「おまえにそういわれると、許せる気がするな。こんな場所に入り浸って息抜きする神官長なんて、私はどこか変なんじゃないかと思ったものだが」
「恐れながら、俺を普通の基準にするのは間違っていますからね?」
「問題をおこして聖堂騎士に左遷された男だものな」
「まさにそれです。でも、大概の人間は変わり者、ってのが俺から見た世界でして。だから飲み屋で潰れるおっさんも、ショーパブで潰れる神官長も、俺にとってはあるあるです」
「……清廉潔白な神の信徒として私をみる者が多いだけに、おまえのような者は新鮮に思えるよ」
神官長が舞台の上を見ながら酒を煽った。
その視線に釣られるように舞台に目を戻すと、ちょうどショーの幕間に入っていた。
幕間はショーのチームが入れ替わるタイミングのことで、幕間では客とちょっとしたサービスゲームをする。
司会が持っているのは細長い棒状のお菓子が入ったグラスだ。
「さぁ、本日は大人気のポッキーゲームの日です!」
ポッキーゲームは選ばれたキャストと選ばれた客が、ポッキーと名称される棒状のお菓子の両端を口に咥えてお互いに食べ進んでいくゲームだ。
客が怯んで離すか、ポッキーが折れるとゲーム終了。最後まで食べ切ると相手にキスしてしまうというご褒美が待っている。
鼻息荒く食べ進むとあっさりキャストからポッキーを折られて終了する駆け引きのゲームだ。まぁ8割失敗に終わる。
俺も何度かキャストとしてポッキーゲームに駆り出されたもんだが……
いやまて。何で司会、こっちを見ている?
「本日は初めて来店されたお客様がいます! 是非、ご参加いただきましょう! さぁ12番テーブルのお客様、前へどうぞ~~~っ!!」
や、やめろ~~~っ!! てめぇ分かってやってるな?! 俺を弄んで楽しいかっ!
「ほう、クラレンス。よかったな」
神官長も止めて?!
スポットライトまで当てられ、ホールの黒服に促され、舞台に連行された。
断る選択肢はあるさ……。でも舞台裏を知っているだけにそのノリを拒否することが出来なかっただけさ……。気に入らない客とポッキーゲームするより知ってる仲間の方が気休めになるんだろ……。
舞台の上で同僚のリックが仁王立ちで待っていた。普段はオカン気質で世話焼きだけど、こういう時の冷たさは人にあらず。
「てめぇ……」
「ほらほらお客様、顔が怖いですよ~? 笑顔笑顔」
こそっと囁くリックはニヤニヤ笑っている。その口に長いポッキーを咥えた。俺の手を封じるために両手を差し出してくる。
「音楽が流れている間に両端を食べ進み、2人はどこまで行っちゃうのか?! 初来店のお客様ファイトでーす! ……さあ、準備が整いました! それでは音楽スタート!」
司会の茶化した合図で軽快な音楽が流れ出した。俺はリックと両手を向かい合わせに掴み合い、しぶしぶお菓子の端を食べ始めた。
リックも食べ進めている。
ちょこっと頭を動かしてポッキーを折ろうとしたら、リックも同じように動いて阻止してくる。……こいつ、まさか。
さらに食べ進んでまた顔が近づいた。
お互いに慣れたゲームなだけに、ゲームのポイントを把握してる。頭の動かし方、力加減でポッキーが折れるポイントは。
怯んで口を離すなんて腰抜けな終わり方は許されない。ただ、ポッキーを折るのをやけに阻止してくるぞ、リックのやつ!
食べ進みの止まった俺に比べて、リックは絶好調に進んできた。
おい、まさか、てめぇ!
「ッ!」
あと残り少しのところでリックに強く手を引っ張られた。
「っん!? んん~ッ」
残りの菓子の端ごと噛み付くようなキスをガッツリされた……。
客席からワァワァ盛り上がった声が聞こえた。勝率2割に輝いたビギナーズラックのプレイに興奮してるんだろう。
口の中の菓子ごとべっとりベロチューされて、リックの顔が離れた後も口の中が気持ち悪い……。
「オエッ」
「お客様のおかげで盛り上がったよ。ありがとさん」
またこっそり囁いて、リックは手を振りながら舞台袖にはけていった。
俺は参加賞に酒を1杯渡されて席に戻された。
クッソ~~~! やってくれたな、あいつら……ただじゃおかねぇ。
席に戻る途中、ふと見えた神官長の顔にドキッとした。
なんだ? 嫉妬するみたいな鋭い目?
席に座って改めて見ると、別にいつもの涼しげな表情に見える。光の加減の見間違いかな。
「クラレンス、すごかったな」
「は……、恐縮です。あ~……羨ましいんでしたら、俺とポッキーゲームしますか?」
「調子に乗るな」
コンッと頭を小突かれた。
グイッとアルコールを飲んでも口の中の気持ち悪さが消えない。
リックとベロチューしたと思うだけ吐きそうになってくるし。
はぁ……神官長と口直しキスがしたい……。
「あの、ちょっとトイレ行ってきます」
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ついてこようとする神官長を押し止めて、トイレに向かった。
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