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10章 崩壊と再生(最終章)
69.覚悟、決めます!(完)
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「気弱だな。昼間の姿からは想像できないぞ、クラレンス」
?!!!
今……なんだって?
「先に迫ってきたのはおまえだったと思うが」
……やっぱりクラレンスって言った?
「……しって……た? 俺がクラレンスだって?」
「あぁ」
カッと頭が熱くなる。
でも思考が止まってうまい誤魔化しなんて思いつかない。
「……いつから」
「ここの風呂でシラキスの香りのオイルを使っただろう。その翌日の王宮で気づいた」
「……どうして」
「意外と自分の匂いには鈍感になるんだな。あなたからあの時に使ったシラキスオイルの匂いが香っていた。クラレンスからは普段、草原のような匂いしかしていなかったのにな」
「ッ! 今までなんで黙ってた?!」
「ははっ、質問ばかりだな。俺への返事はどうなるんだ?」
笑うウォーレンの顔が、既に答えは分かってると言っていた。
顔を隠していた手から力が抜ける。
この部屋で、覆面越しじゃないウォーレンを見たのは初めてだ。覆面がないことが妙に心許ない。
ウォーレンの目が柔らかく俺を見ていた。
なんだよ、ずっとウォーレンの手の上で踊っていたのか?
それが悔しくはあるけど、嫌ではない。つまり答えはもう決まってるんだな。
「……すえながくよろしくオネガイシマス?」
「承知した」
腕を引かれてそのままウォーレンに抱きしめられた。
ゆるんだ笑顔のウォーレンを見ているとこっちまで笑ってしまいそうだ。
部屋を満たす血の匂いより、ウォーレンのシラキスの香りが強く感じてその肩に鼻先を埋めた。
少し顔をあげるとウォーレンと目が合う。今度は笑みを引っ込めて眉をひそめられた。
長くてひんやりとした指で目元をなぞられる。きもちいい。
「ここ、火傷になっているな」
「名誉の負傷だ。それにすぐに治るさ。っていってもあんたは俺の顔に惚れたんじゃないだろ」
「その通りだとしても、顔も嫌いじゃない」
おぉ~~~? もしやこいつ、めっちゃ俺に惚れてるな?!
まだ顔をしかめて俺の目元を撫でるウォーレンの背を叩く。
こっちはそんなことよりも腹の立つことがあるんだけど?!
「なぁ、あんた俺がクラレンスだって知っていて、どういうつもりで告白を切り捨てたんだよ! からかってたのか?!」
告白した時はすでにクラレンスがランスだって知ってたはずだろ。なのに、わざわざフリやがって! その態度にこっちは振り回されたんだぞ!
「あの時の言葉のままだ」
「は?」
「あなたと割り切った体の関係で終わるつもりはなかった。あなたの評判はよく耳に入るからな、それまでの女性たちと同じような関係などお断りだ」
「は? ……俺があんたのこと、他の人間とは違って特別に考えてるって……それくらい分かれよッ!」
パスッと肩を叩くと、ウォーレンが驚いたように目を丸くした。
「そうなのか? それは嬉しい誤算だ。私はあなたの悪い噂を間に受けすぎたのかもしれない」
悪い噂を否定しなかったことが、こんな事になるとは……いや、全く見当違いの噂でもなかったんだけど。
そしてずっとウォーレンをからかうような態度をとってきた俺の、身から出た錆ですか。
「あなたを手に入れるには、外堀を埋めて逃げられないようにするしかないと思った。だから、少し時間がかかってしまったな」
外堀を埋めるってのは、借金肩代わりして嫁にするってこと? 俺の告白じゃ信用できないからガッチリ拘束して逃げられなくするって?
激重いウォーレンがまたひとつ見えた。どうしてこんな男が俺をそんなに? って思うけど、今はもうお腹いっぱいだ。脳の処理が追いつかない。
「これを、ランス」
手を掴まれて指輪をおしこまれた。
ははぁ、これがウォーレンによる鉄球付きネックレスより重い指輪かぁ。
細いリングは繊細に見えるしキラキラ光っているってのに。
「あまり嬉しくはないか?」
「いやぁ、色々と予想外すぎて、感情が追いつかないだけ……。それにこれ、こんなに綺麗なのに、俺が信用ないから繋がれる鎖ってことだよね?」
つい顔が引き攣ってしまったのを見咎められた。
「残念ながら、その認識に間違いはない。願わくば、私に信用させてほしいものだ」
く、くやしぃ!
それでも、俺だって後に引く気はない。嫁となる覚悟、決めさせてもらいます!
………………。
ってこんなことしてる場合じゃない!
「イチャつくのはまだ早い! 下へ加勢にいかねぇと!」
「………………それはそうだが、やけに静かじゃないか?」
「……ん?」
ウォーレンの言う通り、いつの間にか下からの喧騒は聞こえなくなっていた。
そういえば、今日はリックも出勤日だったっけ。
バルコニーから下を見下ろすと、武装解除した乱入者達が中央で縛り上げられている。
リックが剣を片手にテキパキと指示を出している姿も見えた。
リックも騎士だけあってどうやら階下で活躍したらしい。
黒服の中にも厄介ごと処理担当の少し腕に覚えのある者もいる。
最初の爆破で怪我をした客はいたけど、一応みんな生きている様子にホッとした。
「とりあえず、あんたの義弟を縛り上げて下に行くか」
「そうだな」
店の正面側に大きな穴がふたつ空いていた。破壊の様子を見るに、爆弾でも打ち込まれたんだろうか。
大きく爆破させるレベルの魔法の使い手は、簡単に見つかるほど転がっていない。おそらく物理攻撃だろうな。
「――私がらみのトラブルだ。巻き込んで申し訳ない」
「かしこまりました。それではウォーレン様宛に治療費と修繕費は請求させていただきます」
「それでかまわない」
後ろで商談じみた会話が聞こえる。
店長のジェイからすれば、金払いの良いウォーレンなら逃げられることもない。機嫌のいい声からは「店が半壊したおかげでリフォームできる」くらいには思ってそうだ。
店のオーナーはしばらく前に店をジェイに託して姿を消している。孤児の奴隷売買で一枚噛んでいたんだろう。司法の手が及ぶ前に逃亡していた。
ジェイは店のオーナー兼店長になり、店はリフォームして心機一転再出発できる。ジェイにしてみれば上々の結果なんだろう。
「あ、そうだ」
ジェイに向き直ると、グッと親指を立てた。
「俺、もう店辞めるな」
訳知り顔で頷くジェイとは真逆に、リックから悲鳴が上がった。
「な、なんで?! 借金返済はどうすんだ! それに俺の舞台のパートナーがいなくなるだろ!」
思わず笑いが込み上げてくる。
「借金完済の目処が立ちました! そして俺は人妻になります!」
「「「「はぁぁぁあ!? 人妻?!」」」」
店中から激しいブーイングが巻き起こった。
愛されてんね、俺。
FIN
?!!!
今……なんだって?
「先に迫ってきたのはおまえだったと思うが」
……やっぱりクラレンスって言った?
「……しって……た? 俺がクラレンスだって?」
「あぁ」
カッと頭が熱くなる。
でも思考が止まってうまい誤魔化しなんて思いつかない。
「……いつから」
「ここの風呂でシラキスの香りのオイルを使っただろう。その翌日の王宮で気づいた」
「……どうして」
「意外と自分の匂いには鈍感になるんだな。あなたからあの時に使ったシラキスオイルの匂いが香っていた。クラレンスからは普段、草原のような匂いしかしていなかったのにな」
「ッ! 今までなんで黙ってた?!」
「ははっ、質問ばかりだな。俺への返事はどうなるんだ?」
笑うウォーレンの顔が、既に答えは分かってると言っていた。
顔を隠していた手から力が抜ける。
この部屋で、覆面越しじゃないウォーレンを見たのは初めてだ。覆面がないことが妙に心許ない。
ウォーレンの目が柔らかく俺を見ていた。
なんだよ、ずっとウォーレンの手の上で踊っていたのか?
それが悔しくはあるけど、嫌ではない。つまり答えはもう決まってるんだな。
「……すえながくよろしくオネガイシマス?」
「承知した」
腕を引かれてそのままウォーレンに抱きしめられた。
ゆるんだ笑顔のウォーレンを見ているとこっちまで笑ってしまいそうだ。
部屋を満たす血の匂いより、ウォーレンのシラキスの香りが強く感じてその肩に鼻先を埋めた。
少し顔をあげるとウォーレンと目が合う。今度は笑みを引っ込めて眉をひそめられた。
長くてひんやりとした指で目元をなぞられる。きもちいい。
「ここ、火傷になっているな」
「名誉の負傷だ。それにすぐに治るさ。っていってもあんたは俺の顔に惚れたんじゃないだろ」
「その通りだとしても、顔も嫌いじゃない」
おぉ~~~? もしやこいつ、めっちゃ俺に惚れてるな?!
まだ顔をしかめて俺の目元を撫でるウォーレンの背を叩く。
こっちはそんなことよりも腹の立つことがあるんだけど?!
「なぁ、あんた俺がクラレンスだって知っていて、どういうつもりで告白を切り捨てたんだよ! からかってたのか?!」
告白した時はすでにクラレンスがランスだって知ってたはずだろ。なのに、わざわざフリやがって! その態度にこっちは振り回されたんだぞ!
「あの時の言葉のままだ」
「は?」
「あなたと割り切った体の関係で終わるつもりはなかった。あなたの評判はよく耳に入るからな、それまでの女性たちと同じような関係などお断りだ」
「は? ……俺があんたのこと、他の人間とは違って特別に考えてるって……それくらい分かれよッ!」
パスッと肩を叩くと、ウォーレンが驚いたように目を丸くした。
「そうなのか? それは嬉しい誤算だ。私はあなたの悪い噂を間に受けすぎたのかもしれない」
悪い噂を否定しなかったことが、こんな事になるとは……いや、全く見当違いの噂でもなかったんだけど。
そしてずっとウォーレンをからかうような態度をとってきた俺の、身から出た錆ですか。
「あなたを手に入れるには、外堀を埋めて逃げられないようにするしかないと思った。だから、少し時間がかかってしまったな」
外堀を埋めるってのは、借金肩代わりして嫁にするってこと? 俺の告白じゃ信用できないからガッチリ拘束して逃げられなくするって?
激重いウォーレンがまたひとつ見えた。どうしてこんな男が俺をそんなに? って思うけど、今はもうお腹いっぱいだ。脳の処理が追いつかない。
「これを、ランス」
手を掴まれて指輪をおしこまれた。
ははぁ、これがウォーレンによる鉄球付きネックレスより重い指輪かぁ。
細いリングは繊細に見えるしキラキラ光っているってのに。
「あまり嬉しくはないか?」
「いやぁ、色々と予想外すぎて、感情が追いつかないだけ……。それにこれ、こんなに綺麗なのに、俺が信用ないから繋がれる鎖ってことだよね?」
つい顔が引き攣ってしまったのを見咎められた。
「残念ながら、その認識に間違いはない。願わくば、私に信用させてほしいものだ」
く、くやしぃ!
それでも、俺だって後に引く気はない。嫁となる覚悟、決めさせてもらいます!
………………。
ってこんなことしてる場合じゃない!
「イチャつくのはまだ早い! 下へ加勢にいかねぇと!」
「………………それはそうだが、やけに静かじゃないか?」
「……ん?」
ウォーレンの言う通り、いつの間にか下からの喧騒は聞こえなくなっていた。
そういえば、今日はリックも出勤日だったっけ。
バルコニーから下を見下ろすと、武装解除した乱入者達が中央で縛り上げられている。
リックが剣を片手にテキパキと指示を出している姿も見えた。
リックも騎士だけあってどうやら階下で活躍したらしい。
黒服の中にも厄介ごと処理担当の少し腕に覚えのある者もいる。
最初の爆破で怪我をした客はいたけど、一応みんな生きている様子にホッとした。
「とりあえず、あんたの義弟を縛り上げて下に行くか」
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店の正面側に大きな穴がふたつ空いていた。破壊の様子を見るに、爆弾でも打ち込まれたんだろうか。
大きく爆破させるレベルの魔法の使い手は、簡単に見つかるほど転がっていない。おそらく物理攻撃だろうな。
「――私がらみのトラブルだ。巻き込んで申し訳ない」
「かしこまりました。それではウォーレン様宛に治療費と修繕費は請求させていただきます」
「それでかまわない」
後ろで商談じみた会話が聞こえる。
店長のジェイからすれば、金払いの良いウォーレンなら逃げられることもない。機嫌のいい声からは「店が半壊したおかげでリフォームできる」くらいには思ってそうだ。
店のオーナーはしばらく前に店をジェイに託して姿を消している。孤児の奴隷売買で一枚噛んでいたんだろう。司法の手が及ぶ前に逃亡していた。
ジェイは店のオーナー兼店長になり、店はリフォームして心機一転再出発できる。ジェイにしてみれば上々の結果なんだろう。
「あ、そうだ」
ジェイに向き直ると、グッと親指を立てた。
「俺、もう店辞めるな」
訳知り顔で頷くジェイとは真逆に、リックから悲鳴が上がった。
「な、なんで?! 借金返済はどうすんだ! それに俺の舞台のパートナーがいなくなるだろ!」
思わず笑いが込み上げてくる。
「借金完済の目処が立ちました! そして俺は人妻になります!」
「「「「はぁぁぁあ!? 人妻?!」」」」
店中から激しいブーイングが巻き起こった。
愛されてんね、俺。
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