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本編
2.婚約者が戦場へいく
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学園では政治経済の研究や、魔法・法術の研究、科学やスポーツなど、様々な研究が研究室単位で行われている。
そのうちの、諸外国経済の研究室に俺は所属している。
俺はその研究室で頭を抱えて唸っていた。
「まさかベネが戦場にでるなんて! そんな話は聞いていないぞ!」
今、頭の中はそのことでいっぱいだった。突然ベネが騎士コースに転属したと思ったら、今度はベネの父が治める公爵領内の戦場に出るというのだ。
研究室の仲間は、小さい頃に親に引き合わされて仲良くなった者たちなので、気のおけない付きあいをしている。
だからこそ、あまり周りには言えない心の内をさらけ出してしまった。
こんなグチ、下手な相手に漏らせば、ベネとの不和を噂されてしまう。
騎士コースを専攻しながら研究室に所属している騎士の家系のダニエルが、剣の手入れをしながらぼやいた。
「ベネが騎士コースに転属した時も、激震が走ったな。なのに今度は戦場か……。騎士としても貴族としてもいつかは戦場で戦う事を考えて鍛えてはいる。ただ、学園を休学してまで公爵令息が戦場に行くなんて性急すぎる」
これに、領地経営コース専攻で魔法士の家系のエリックが相槌を打つ。
「ベネは魔法の適性は高いけど、あの貧弱な体でしょ。戦では周りを騎士で固めるにしたって、まず長時間、馬に乗っての行軍ができるのかな。僕はお尻が痛くなるし、馬に乗るのも勘弁してほしいけど」
「エリックもいつか魔法士として戦場に行く可能性は高いだろ。今から乗馬くらいやっておけ」
「いやいや、僕は一兵卒ってことで、馬車にすし詰めになって戦場へ運ばれる運命さ」
「それもつらそうだな……」
エリックの後をうけたのは、同じく領地経営コース専攻だが文系家系のブライアンだ。爪を磨きながらチラリと俺をみた。
「戦場とはいっても、公爵令息のベネだ。指揮を取る立場でしょ。戦場では後方の天幕にこもって戦況を見守る、そんなもんじゃないのかい?」
「それに聞いた話じゃ、戦場もそこまで戦況の悪化した状況じゃないらしいな。隣国との境界での小競り合いだったか? 日常茶飯事だろう。そこまで危険はないと思うが」
「マーカスは心配だろうけど、あのベネだよ? ちょっと戦場をみてすぐに怖くなって逃げ帰ってくるんじゃない?」
たしかに、ベネといったら小さな頃は虫も捕まえられない子供だった。
マーカスたちが虫取りに興じている横で、図鑑を片手に薬草を採取するような子供だ。
ブライアンとダニエルの楽観的な会話に俺は少し安堵した。
いつ敵に攻め込まれて殺されるか分からない戦場ではあるが、今の戦況とベネの立場からいうと可能性は低い、そう思いたかった。
「騎士コースの訓練では、コースを移った当初から白の騎士と名高いレイモンドに、つきっきりでしごかれていた。ベネなりに準備はしていたのかもな」
「なんだと?! そんな前からか!」
「マーカスには心配させたくなかったから黙ってたのかも」
そう慰められても、相談されないなんて婚約者の立場がない。
思い返せば半年前に倒れた時から様子がおかしいままだ。
その振る舞いもおかしいが、俺を見る目もおかしい。
普段は硬く緊張した表情をしているベネだが、俺を目にすると表情がほころんだ。
最近はそんな様子がなく、猜疑心のにじむ目を向けられる。
なぜあんな浮気者を見るような目を向けられるのか? 全く身に覚えがないんだが。
「ベネはまだ15歳だ。初陣を飾るにしても早すぎる。あいつの家には上に兄もいる。領地のことは上に任せて、まだ学園で勉強する時期だろうが」
そう言いながら、俺はずっと頭に浮かぶ嫌な考えをつい口に出してしまった。
「……まさか、俺との婚約が嫌になったんだろうか」
周りにいた研究室仲間は、さすがに慌ててとりなそうとした。
「ベネが? まさか! いつも大好きって顔でマーカスのうしろをついて回っていたのに」
「そりゃあ、次期国王と公爵令息っていったら政略結婚の意味合いもあるだろうが、2人並ぶとおしどり夫婦って感じじゃないか」
「小さい頃からパーティではマーカスの隣にはベネ、だったろ?!」
その励ましを受けながらも、心が晴れない。
「今ではついて回っているのは俺のほうだ。でも何度言っても戦場に行く考えを諦めない。もう俺の言葉は聞かないから、今は父上や公爵に考えを改めさせるように根回ししているくらいにな」
「うわ~~……そんな暗いマーカス初めてみる……」
「茶化すな! 真面目な話、俺の話術ではベネには勝てないからな」
「まぁ、相手がベネだとねぇ」
「そうはいっても、戦場に行きたいからマーカスの話を聞かないだけで、あのベネが大好きなマーカスとの婚約を嫌がるなんて、やっぱり想像できないけど」
俺はしばらく今までのベネの事を思い出す。パーティで恥ずかしそうに横に立つベネ。真面目な顔で勉強を教えてくれるベネ。美味しいものは一緒に食べたいと持ってきてくれるベネ。
どれも可愛いベネだ。
ただ、半年前に倒れた時のことを思い出す。
「俺もまさかと思った。でも前に言ってたんだ……婚約破棄とかなんとか……」
「婚約破棄なんて、2人の立場から考えても簡単にできることじゃない……でしょ……」
ブライアンはそう言ったあと口ごもる。
静かになった部屋に、ゴクリ……と誰かの嚥下の音が聞こえた。
全員の脳裏に浮かんだ答えが、恐ろしく合致していた。
「だからか? 婚約破棄できないから、戦場に行って、死ぬつもり……なのか?」
ベネは俺が止めるのも聞かず、戦場へ旅立った。
そして、3年後、俺が学園を卒業する年に学園へ復帰した。
戦場で大きな武功を立て、隣国との休戦協定を結んで帰ってきた。
その体に、見違えるほどたくましい筋肉をまとって。
そのうちの、諸外国経済の研究室に俺は所属している。
俺はその研究室で頭を抱えて唸っていた。
「まさかベネが戦場にでるなんて! そんな話は聞いていないぞ!」
今、頭の中はそのことでいっぱいだった。突然ベネが騎士コースに転属したと思ったら、今度はベネの父が治める公爵領内の戦場に出るというのだ。
研究室の仲間は、小さい頃に親に引き合わされて仲良くなった者たちなので、気のおけない付きあいをしている。
だからこそ、あまり周りには言えない心の内をさらけ出してしまった。
こんなグチ、下手な相手に漏らせば、ベネとの不和を噂されてしまう。
騎士コースを専攻しながら研究室に所属している騎士の家系のダニエルが、剣の手入れをしながらぼやいた。
「ベネが騎士コースに転属した時も、激震が走ったな。なのに今度は戦場か……。騎士としても貴族としてもいつかは戦場で戦う事を考えて鍛えてはいる。ただ、学園を休学してまで公爵令息が戦場に行くなんて性急すぎる」
これに、領地経営コース専攻で魔法士の家系のエリックが相槌を打つ。
「ベネは魔法の適性は高いけど、あの貧弱な体でしょ。戦では周りを騎士で固めるにしたって、まず長時間、馬に乗っての行軍ができるのかな。僕はお尻が痛くなるし、馬に乗るのも勘弁してほしいけど」
「エリックもいつか魔法士として戦場に行く可能性は高いだろ。今から乗馬くらいやっておけ」
「いやいや、僕は一兵卒ってことで、馬車にすし詰めになって戦場へ運ばれる運命さ」
「それもつらそうだな……」
エリックの後をうけたのは、同じく領地経営コース専攻だが文系家系のブライアンだ。爪を磨きながらチラリと俺をみた。
「戦場とはいっても、公爵令息のベネだ。指揮を取る立場でしょ。戦場では後方の天幕にこもって戦況を見守る、そんなもんじゃないのかい?」
「それに聞いた話じゃ、戦場もそこまで戦況の悪化した状況じゃないらしいな。隣国との境界での小競り合いだったか? 日常茶飯事だろう。そこまで危険はないと思うが」
「マーカスは心配だろうけど、あのベネだよ? ちょっと戦場をみてすぐに怖くなって逃げ帰ってくるんじゃない?」
たしかに、ベネといったら小さな頃は虫も捕まえられない子供だった。
マーカスたちが虫取りに興じている横で、図鑑を片手に薬草を採取するような子供だ。
ブライアンとダニエルの楽観的な会話に俺は少し安堵した。
いつ敵に攻め込まれて殺されるか分からない戦場ではあるが、今の戦況とベネの立場からいうと可能性は低い、そう思いたかった。
「騎士コースの訓練では、コースを移った当初から白の騎士と名高いレイモンドに、つきっきりでしごかれていた。ベネなりに準備はしていたのかもな」
「なんだと?! そんな前からか!」
「マーカスには心配させたくなかったから黙ってたのかも」
そう慰められても、相談されないなんて婚約者の立場がない。
思い返せば半年前に倒れた時から様子がおかしいままだ。
その振る舞いもおかしいが、俺を見る目もおかしい。
普段は硬く緊張した表情をしているベネだが、俺を目にすると表情がほころんだ。
最近はそんな様子がなく、猜疑心のにじむ目を向けられる。
なぜあんな浮気者を見るような目を向けられるのか? 全く身に覚えがないんだが。
「ベネはまだ15歳だ。初陣を飾るにしても早すぎる。あいつの家には上に兄もいる。領地のことは上に任せて、まだ学園で勉強する時期だろうが」
そう言いながら、俺はずっと頭に浮かぶ嫌な考えをつい口に出してしまった。
「……まさか、俺との婚約が嫌になったんだろうか」
周りにいた研究室仲間は、さすがに慌ててとりなそうとした。
「ベネが? まさか! いつも大好きって顔でマーカスのうしろをついて回っていたのに」
「そりゃあ、次期国王と公爵令息っていったら政略結婚の意味合いもあるだろうが、2人並ぶとおしどり夫婦って感じじゃないか」
「小さい頃からパーティではマーカスの隣にはベネ、だったろ?!」
その励ましを受けながらも、心が晴れない。
「今ではついて回っているのは俺のほうだ。でも何度言っても戦場に行く考えを諦めない。もう俺の言葉は聞かないから、今は父上や公爵に考えを改めさせるように根回ししているくらいにな」
「うわ~~……そんな暗いマーカス初めてみる……」
「茶化すな! 真面目な話、俺の話術ではベネには勝てないからな」
「まぁ、相手がベネだとねぇ」
「そうはいっても、戦場に行きたいからマーカスの話を聞かないだけで、あのベネが大好きなマーカスとの婚約を嫌がるなんて、やっぱり想像できないけど」
俺はしばらく今までのベネの事を思い出す。パーティで恥ずかしそうに横に立つベネ。真面目な顔で勉強を教えてくれるベネ。美味しいものは一緒に食べたいと持ってきてくれるベネ。
どれも可愛いベネだ。
ただ、半年前に倒れた時のことを思い出す。
「俺もまさかと思った。でも前に言ってたんだ……婚約破棄とかなんとか……」
「婚約破棄なんて、2人の立場から考えても簡単にできることじゃない……でしょ……」
ブライアンはそう言ったあと口ごもる。
静かになった部屋に、ゴクリ……と誰かの嚥下の音が聞こえた。
全員の脳裏に浮かんだ答えが、恐ろしく合致していた。
「だからか? 婚約破棄できないから、戦場に行って、死ぬつもり……なのか?」
ベネは俺が止めるのも聞かず、戦場へ旅立った。
そして、3年後、俺が学園を卒業する年に学園へ復帰した。
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