ヘブンズトリップ

doiemon

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最悪のはじまり

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 クラスは割とみんな仲がよく、団結力があるほうだと思う。放課後に楠木と川田とで用もないのに、駅前の夕日商店街を横に並んで歩いていた。
 大昔に空襲で駅周辺も一面焼け野原だったらしい。広場の中心に平和を願うヘンテコなモニュメントが作られて、小学生くらいの時に図工の時間にそれを写生したのを覚えている。高度経済成長期を経て、商店街は活気づいて、今では夜中でもコンビニとファーストフード店の明かりが常に点いている。
 駅の裏路地にひっそりとたたずむセルパという四つ葉のクローバーの葉が看板に描かれたファミレスでドリンクバーだけ頼んで時間を潰す。
 別に家に帰ってもやることはないし、雪が降って寒くなるまで受験勉強をするつもりもない。
 「なあ、受験が終わったら、亜里沙たちを誘って卒業旅行に行こうぜ!」
 「まあ、全員がちゃんと進路が決まったらな。大学落ちたらそれどころじゃなくなるぜ」 
 楠木の無謀な提案に対して、無意味に紙ナプキンを丸めている川田が言う。
 楠木の態度は結城亜里沙に対して明らかに好意があるとわかりやすい。
 何とか一緒になるシチュエーションを作ろうと何度も試みているようだが、毎回うまくかわされてしまうみたい。
 楠木みたいに積極的にアプローチすることはすごいと思うが、どこかで楠木のことを気の毒に思っている。
 結城やその他の女子とはよくカラオケやボウリングに行った。受験に向けて、それぞれの志望校に合わせた進学塾に通い始めて、遊べる人間は限られるようになった。もう受験に向けて準備をしているのは少し早い気もするが、本当にみんな明確な目標があって勉強をしているのなら、その状況をうらやましく思う。
去年の学園祭のお好み焼きの屋台も好評で、出し物のダンスも優秀賞を獲得した。
でも、これは断言できる。スクールカーストは存在していたし、腹を割って本音を話せるやつってのはいない。表面的な会話だけをして、学校生活を取り繕う。目の前にいる楠木と川田でさえにも、そう感じることがある。

 「行く大学って、決まった?」
 俺は唐突に聞いてみた。
 「決まってない。別にどこでもいいんだけどね」
 「俺も勉強しなくて入れるとこならどこでもいい」
 もちろん俺も同じ・・・。
 頭の悪い体育科の連中以外、普通科や特進科の生徒は大半が進学するだろう。
 高校を卒業したらすぐに就職して自由を奪われるのは損をするみたいで、割りに合わない。学費がかかっても大学に行って社会人になるまでの時間稼ぎをする。 、
 「大学入っても、こんな感じなのかな?」
 俺は聞き取りにくい声でぼそっっとつぶやいた。
 「何が?」
 「いや、大学もこんな風に暇潰しでファミレスに来たりすんのかなって思ってさ」
 「そんなことねえよ。大学はサークルに入って、遊びまくるんだよ」
 「お前何か、入りたいサークルとかあんのかよ?」
 「そりゃあな・・・」
 川田の大学への期待はなんとなくわかるが、こいつが一番そういうことになりそうだと思った。こんな不毛な会話をして陽が暮れるのを待つ。いつもだいたいこんな感じだ。

 ファミレスを出て、商店街の通りを再び歩いた。まだ午後四時にもなっていないが、惣菜屋は食欲をそそる揚げ物のにおいを漂わせている。
 数十メートル先から光沢のあるブラックスーツを着た細身の男が二人が歩いてくる。見慣れない風貌でサラリーマンではない。一人は体格がよく、身長の低いほうはたばこを加えている。
 
 だんだん俺たちに近づいてくる二人は妙な雰囲気でこの商店街にミスマッチだ。楠木と川田に「絶対に目を合わせるな」と耳打ちしたがったが、もう目の前に大男の胸板があった。
 「ザスッ」
肩を覆う衣類がぶつかり合う音がかすかに鳴った。
しまった・・・。
 間違いなく、俺は体の小さいほうの男にぶつかった。向こうのほうが素早く、威圧的な声を出してきた。
 「おい!」
 男は小柄だがドスの効いた声はけっこう大きく、有無を言わせない怖さがあった。
 楠木と川田もヤバい状況だと理解したようだ。
 知らないふりをして、その場を切り抜けるのはどうやらムリそうだったので、俺は振り返ったが、すぐに大きい男のほうに胸ぐらを摑まれた。
 体ごと引き寄せられた俺はもうすでに、振り払う力なんてなかった。
 至近距離にせまった男の額は広く、硬そうな毛を逆立てており、視線はそこだけに集中していた。
 「そっちからぶつかっておいて、あやまんねえのか?」
 こっちからぶつかったつもりはない。
 「あっ、いや、その・・・」
 冷静さを失った俺はパニックになり、言葉が出てこなかった。
 ジワジワと頭に熱がのぼりおかしくなりそうだった。
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