ヘブンズトリップ

doiemon

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作戦決行

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 病気の話はそのくらいにしておいて、代わりにこの病院のことを話した。
 「毎朝六時に起きて、一階のロビーでラジオ体操するんだ。それにパジャマじゃなくて、絶対に着替えてから来いって言うんだ。家にいる時より早く起きなきゃいけないなんて、大変だよ。サボろうとすると看護師さんたちが叩き起こしにくるんだ。ここでの生活が長いからみんな容赦しないんだよ。まいっちゃうよ」
 まるでお笑い芸人みたいに言葉を弾丸のように飛ばしながら愉快な話を繰り返した。
 やがて、俺たちの病室にある人が訪れた。
 細身の白髪交じりの白衣を着た初老の男性。昨夜に俺の応急手当てをしてくれた医師だった。ニコっと微笑みながらこちらに向かって来た。
 「ケガはもう治ったよね」
 「はい」
 「どこか他に悪いところはないよね」
 「・・・・・」
 「なんかあったら、すぐに言ってね」
 俺の素っ気ない態度も気にせず、優しい言葉をかけてくれる。
 「太一君も友達ができてゴキゲンだね」
 「別に・・・」
 太一って呼ばれたそいつも先生に対して、敵意を出しているようだった。
 俺は理由なく、素っ気ない態度を取ったが、コイツがそっぽを向くのには、何か理由があるのだろうか。
 
 病院食はまずい。これだけは太一の意見に同意した。最近は病院でももっとおいしいものが出ると思っていたけど。
 「学食の百倍まずいな。この麺も水分吸って味しないし、チキンソテーも脂がすごくて・・・」
 「ちゃんと食べないと看護師さんたちにグチグチ言われるよ」
 手慣れている太一は食べやすく切られた鶏肉を口に放り込む。食べるというより、腹に入れる作業だ。俺も口に入れたら、お茶で一気に流しこんだ。
 太一とすっかり仲良くなった俺は食事が終わったら、太一が持ち込んでいるボードゲームを一緒にやることにしていた。でも、太一は夜は閉まってしまう売店に夜食のためのお菓子を買いに行くことを提案してきたので、朝行った売店に再び向かった。
 エレベーターの中で携帯の画面が点灯し、史彦からの連絡に気がついた。
 「車、借りたぜ!」
 ただ、それだけの飾り気のない報告だった。
結局、ボードゲームはすぐに飽きてしまい、太一は俺のスマートフォンを使ってアニメを見るのに夢中になってる。
 
 史彦から電話がかかってきたのは、ほとんど日付が変わる時間帯だった。
 消灯時間はとっくに過ぎていて、太一も自分のベッドですやすやと眠っている。
 俺は着信音が鳴る前に確実に電話に出た。
 「おう、車の手配は済んだぜ! 明日作戦決行だ」
 史彦は深夜なのに力のみなぎった声だった。
 「ああ、わかった」
 「なんだよ。今さら止めるなんていうなよな」
 夜だからか、星のない空を眺めながら史彦の声を耳にすると、まるで隣にいるように感じる。不思議な感覚で声に出して返事をしなくてもうなずくだけでいいような気がした。
 「ところでさ、病院をうまく抜け出したら、おまえの家に向かうか? 荷物とかいるだろ?」
 確かにそうだ。一応家を出るになるわけだから、ひょいっと何事もなかったかのように家 に帰れなくなるかもしれない。着替えとかは必要だろう。だけど家には親がいる。どうしよう・・・。
 「なあ、どうする?」
 「いや、いい。必要な物は途中で買うことにする」
 「そうか、わかった」
 正直な気持ちは、荷物とかより、やっぱり家に行きたくなかったんだと思う。
 「じゃあ、明日の夕方四時に病院に向かう。面会者用の駐車スペースで待ってる。誰にも見つからないようにこっそり出てこい」
 「了解」
 史彦の覚悟を決めた言葉に、俺はしっかりと声を出して返事をした。
 
 数時間前に史彦は「つまらない学校に戻るのか?」そう言った。
 あいつも同じなのかもしれない。
 俺も、史彦も、今は学校って場所を求めてない。史彦と俺は同じ目的のために行動するパートナーだ。理由なんてものは必要ない。
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