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二人のルール
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人が少ない川沿いの道を走ることにして、落ち着いたと思ったのに、改めて車の内装を眺めるとずいぶん古い車種のように感じて、さらに衝撃的な事実を知る。
「この車、カーナビないじゃん」
「ああ、昔の車だからな」
聞いたことがない。この時代にカーナビなしなんて。
乗りこんだ時は気にとめなかったが、フロントのデザインはアメリカ車っぽい。白い車体もホイールもしゃれた光沢を放っている。
「この車けっこう高そうだな」
「そうかな。じいちゃん似たような車いっぱい持ってるからな」
コイツの金持ちアピールに悪意はないのだろう。
「お前、今日はちゃんと学校行って来たのか?」
「ああ、ちゃんと行ってきたぜ」
前方の道路にしっかりと目を配りながら史彦は答えた。
「あっ、そういえば、進路希望調査の紙が配られた。月末までに提出だって」
俺はもちろんいい反応はしなかった。進路希望調査。二年の終わりにもやったのを覚えている。
また、学校ってところはくだらねえことをやっている。
紙切れ一枚で、たった数週間で自分の将来を決めてこいなんて、ムチャクチャな話だ。
「来週までに決めてこい」学校の中のルールはだいたいそうだ。そんなことが起きるたびに本当に適切な方法なのかと俺は首をかしげていた。
「史彦は自分の進路決まってんのか? 大学行くんだろ?」
「大学には行くよ。けど、医者にはならない」
「医者になるのは知らなかったけど・・・」
史彦の回答は俺の質問を通り越したみたいだった。
「父親が外科医でさ、医学部に進むことになってる。正直、医者にもなるつもりはない」
あれっ?
俺は頭の中で断片的になっていた記憶を呼び起こし、昨日の出来事を思い出した。
俺が担ぎこまれたのは整形外科のはずだった。
応急処置をしてくれて、容体を気にかけてくれた、初老の男性。
「あれっ、外科の先生って・・・まさか?」
「うん、俺の父親、外来であの病院で診察してる」
これで史彦の病院にいた理由が判明した。同時にいろんな疑問も出てきた。
医者になりたくないのに、病院にいたのは矛盾している。
「病院にいるのは親父を見にきたってことか?」
「うん。そんなとこかな」
史彦は抑揚のない声で答えた。
駅前を通るのは避けたかった。この時間帯は帰宅部と呼ばれる部活動をしていない高校生が繁華街に多く姿を見せるので、危険を察知した。
川沿いの道には飲食店どころかコンビニすらない。史彦は免許を取ってから数日しか経過していないはずだから、走り慣れない道で事故を起こされては困るから、ここは任せることにした。
史彦の運転が荒いからといって、俺が責めることはできない。今は彼の運転があってこそ前に進むことができるのだから。
駐車場だけ広いボウリング場の白いピンのオブジェを見送ったら、繁華街の夕日商店街に入る。二車線の道路の幅が狭くなり自転車や通行人が多くなり、見通しの悪い曲がり角も増えてくる。
「お金も下ろしておかなきゃだな」
「逃亡資金ってことだな」
「ATMに寄ろう。金を下ろして飯を食ったら、どっかに着替えとか買いに行かなきゃ」
通り道に銀行のATMがあるだろうと、史彦はそのまま道を直進した。俺はくたびれた自分の財布から銀行のキャッシカードを取り出した。
俺はバイトもしてなかったからそれほどお金は持っていないが、口座にそこそこの金額があるのを覚えていた。普段はそんなに大きな金額を使うことは少ない、今は後のことは考えず自分のために使おうと決心した。
キャッシュコーナーで俺は4万円、史彦はもっとたくさん下ろしみたいで、重なったお札を財布に入れた。
ようやく駅を離れて駐車場の広いファミレスに到着した。すぐに降りた俺は運転席でモタモタしている史彦にかまわず先に降りてファミレスのドアを開けた。
白いエプロンのおねえさんに「二人」と日本の指を突き出す。
「こちらへどうぞ」
あんまり愛想のよくないやせっぽっちのお姉さんに案内され、席に着くころようやく史彦はレストランに入ってきた。手にはA3サイズくらいの大きめな冊子を持っている。
「グローブボックスの中に地図入ってたぜ。さすが、じいちゃん気がくなあ」
じいちゃんへの感謝の気持ちを述べながら、ザッとテーブルの上に分厚いガイドマップを置いて、立てかけられたメニューのほうに手を伸ばした。
ばさばさと大きなメニューを広げ食べ物を選ぶ。もうかなりの空腹で別に何でもよかった。
焼き魚がついてくるという和風御膳に躊躇なく決めた。史彦もさっと注文を決めてガイドップを見る時間にしたいという理由からチーズハンバーグセットを注文した。
「なあ、別に地図なんて見なくてもさ、アプリで道検索しながら行けばいいじゃん」
「そのことなんだけどさ、スマホで検索するのは禁止する・・・」
「えっ? それ、どういうことだよ」
最初は史彦の言ってることが理解できなかった。
「なんか、やっぱりそういう文明の利器を使うのはずるいと思うんだ」
「俺の運転でもF県の亜蘭山なんて、半日もあればすぐ着くよ。だから、道草を楽しみたいんだ。それから、カーナビの案内する女の声が苦手なんだよ」
カーナビの声って女の人だっけ? それはさておき、道草を楽しみたいというのには共感する。
ここから自分たちの行き先は自分たちで決める。そんなありがちなセリフがどこからか聞こえてきた。短い時間を濃厚に楽しむには遠回りは必要不可欠だと思い、史彦の提案には素直に賛成することにした。
「ああ、いいぜ。地図のアプリは使わない」
「ガイドマップ使ってもわかんなかったら人に聞くことにするよ。けど、絶対に警察には聞かない」
「何で?」
「万が一、病院の関係者が捜索願を出してるかもしれない。俺たちのほうからノコノコと警察に出向いたりしたら、その瞬間に冒険はストップだ」
「なるほど」
俺が感心してうなずいたら史彦はさらに声を大きくし片手でスマフォを顔の高さまで持ち上げ、俺に向けた。
「というわけで、ここでスマホのGPS機能の完全にオフにする」
そこまで徹底しなくてもお前のスマホのGPS機能で居所をつかもうとするやつはいないと思う。
その意気込みの表し方はちょっと笑ってしまいそうになったが、俺もすぐに史彦と同じ行動をした。
なんだか、わくわくしてきた。
「この車、カーナビないじゃん」
「ああ、昔の車だからな」
聞いたことがない。この時代にカーナビなしなんて。
乗りこんだ時は気にとめなかったが、フロントのデザインはアメリカ車っぽい。白い車体もホイールもしゃれた光沢を放っている。
「この車けっこう高そうだな」
「そうかな。じいちゃん似たような車いっぱい持ってるからな」
コイツの金持ちアピールに悪意はないのだろう。
「お前、今日はちゃんと学校行って来たのか?」
「ああ、ちゃんと行ってきたぜ」
前方の道路にしっかりと目を配りながら史彦は答えた。
「あっ、そういえば、進路希望調査の紙が配られた。月末までに提出だって」
俺はもちろんいい反応はしなかった。進路希望調査。二年の終わりにもやったのを覚えている。
また、学校ってところはくだらねえことをやっている。
紙切れ一枚で、たった数週間で自分の将来を決めてこいなんて、ムチャクチャな話だ。
「来週までに決めてこい」学校の中のルールはだいたいそうだ。そんなことが起きるたびに本当に適切な方法なのかと俺は首をかしげていた。
「史彦は自分の進路決まってんのか? 大学行くんだろ?」
「大学には行くよ。けど、医者にはならない」
「医者になるのは知らなかったけど・・・」
史彦の回答は俺の質問を通り越したみたいだった。
「父親が外科医でさ、医学部に進むことになってる。正直、医者にもなるつもりはない」
あれっ?
俺は頭の中で断片的になっていた記憶を呼び起こし、昨日の出来事を思い出した。
俺が担ぎこまれたのは整形外科のはずだった。
応急処置をしてくれて、容体を気にかけてくれた、初老の男性。
「あれっ、外科の先生って・・・まさか?」
「うん、俺の父親、外来であの病院で診察してる」
これで史彦の病院にいた理由が判明した。同時にいろんな疑問も出てきた。
医者になりたくないのに、病院にいたのは矛盾している。
「病院にいるのは親父を見にきたってことか?」
「うん。そんなとこかな」
史彦は抑揚のない声で答えた。
駅前を通るのは避けたかった。この時間帯は帰宅部と呼ばれる部活動をしていない高校生が繁華街に多く姿を見せるので、危険を察知した。
川沿いの道には飲食店どころかコンビニすらない。史彦は免許を取ってから数日しか経過していないはずだから、走り慣れない道で事故を起こされては困るから、ここは任せることにした。
史彦の運転が荒いからといって、俺が責めることはできない。今は彼の運転があってこそ前に進むことができるのだから。
駐車場だけ広いボウリング場の白いピンのオブジェを見送ったら、繁華街の夕日商店街に入る。二車線の道路の幅が狭くなり自転車や通行人が多くなり、見通しの悪い曲がり角も増えてくる。
「お金も下ろしておかなきゃだな」
「逃亡資金ってことだな」
「ATMに寄ろう。金を下ろして飯を食ったら、どっかに着替えとか買いに行かなきゃ」
通り道に銀行のATMがあるだろうと、史彦はそのまま道を直進した。俺はくたびれた自分の財布から銀行のキャッシカードを取り出した。
俺はバイトもしてなかったからそれほどお金は持っていないが、口座にそこそこの金額があるのを覚えていた。普段はそんなに大きな金額を使うことは少ない、今は後のことは考えず自分のために使おうと決心した。
キャッシュコーナーで俺は4万円、史彦はもっとたくさん下ろしみたいで、重なったお札を財布に入れた。
ようやく駅を離れて駐車場の広いファミレスに到着した。すぐに降りた俺は運転席でモタモタしている史彦にかまわず先に降りてファミレスのドアを開けた。
白いエプロンのおねえさんに「二人」と日本の指を突き出す。
「こちらへどうぞ」
あんまり愛想のよくないやせっぽっちのお姉さんに案内され、席に着くころようやく史彦はレストランに入ってきた。手にはA3サイズくらいの大きめな冊子を持っている。
「グローブボックスの中に地図入ってたぜ。さすが、じいちゃん気がくなあ」
じいちゃんへの感謝の気持ちを述べながら、ザッとテーブルの上に分厚いガイドマップを置いて、立てかけられたメニューのほうに手を伸ばした。
ばさばさと大きなメニューを広げ食べ物を選ぶ。もうかなりの空腹で別に何でもよかった。
焼き魚がついてくるという和風御膳に躊躇なく決めた。史彦もさっと注文を決めてガイドップを見る時間にしたいという理由からチーズハンバーグセットを注文した。
「なあ、別に地図なんて見なくてもさ、アプリで道検索しながら行けばいいじゃん」
「そのことなんだけどさ、スマホで検索するのは禁止する・・・」
「えっ? それ、どういうことだよ」
最初は史彦の言ってることが理解できなかった。
「なんか、やっぱりそういう文明の利器を使うのはずるいと思うんだ」
「俺の運転でもF県の亜蘭山なんて、半日もあればすぐ着くよ。だから、道草を楽しみたいんだ。それから、カーナビの案内する女の声が苦手なんだよ」
カーナビの声って女の人だっけ? それはさておき、道草を楽しみたいというのには共感する。
ここから自分たちの行き先は自分たちで決める。そんなありがちなセリフがどこからか聞こえてきた。短い時間を濃厚に楽しむには遠回りは必要不可欠だと思い、史彦の提案には素直に賛成することにした。
「ああ、いいぜ。地図のアプリは使わない」
「ガイドマップ使ってもわかんなかったら人に聞くことにするよ。けど、絶対に警察には聞かない」
「何で?」
「万が一、病院の関係者が捜索願を出してるかもしれない。俺たちのほうからノコノコと警察に出向いたりしたら、その瞬間に冒険はストップだ」
「なるほど」
俺が感心してうなずいたら史彦はさらに声を大きくし片手でスマフォを顔の高さまで持ち上げ、俺に向けた。
「というわけで、ここでスマホのGPS機能の完全にオフにする」
そこまで徹底しなくてもお前のスマホのGPS機能で居所をつかもうとするやつはいないと思う。
その意気込みの表し方はちょっと笑ってしまいそうになったが、俺もすぐに史彦と同じ行動をした。
なんだか、わくわくしてきた。
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