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未知の瘴気
155. 無関係と思っておりましたけれど
しおりを挟む「おお、皆様、お帰りなさいませ!」
先頭にいたのはグスタフ大神官だ。
神官の最敬礼として深く頭を下げる彼に、後ろの人々も波となって続く。
遠い目になりそうなのをこらえつつ、出迎えの挨拶に笑顔で返した。
「皆様、変わりはありませんでしたこと?」
「はい、おかげさまでこちらは何事もございませんでした」
「グスタフ大神官、何があったか気になっているだろうから中で話す。それと先にメシにしていいか。朝から何も食ってないんだ」
「おお、もちろんですぞ」
アロイスがさっさと切り上げさせてくれたおかげで、気づまりな時間は長引かなかった。
彼の手を借りて馬を降ろしてもらいながら心の中で感謝するも、顔を見上げていると馬上でさんざんちょっかいをかけられた恨みがぶり返す。
――わたくしの緊張をほぐそうとしてくれたのかもしれませんけれど、髪の毛ツンツンはやりすぎでしてよ!
こっそり睨むも、アロイスの顔は飄々としたものだった。
くっ……経験値の違いか。
密かに敗北感を噛みしめつつ、神殿内の広間で食事を摂ることになった。
時刻は昼過ぎ。朝早くに食べたきりだからお腹がすいていて、いつもと同じメニューでも美味しく感じる。
昼食を終えたら、お次は内緒話の時間だ。
隊商の御意見番のヒューゴとエディットはもちろん、今回はリュカとジゼルも加えて、話し合いに使っている作業室に移動した。
ほかの顔ぶれはグスタフ大神官を始めとする神官全員と、護衛騎士も全員。
大人数で少々部屋がきついものの、いずれ耳に入りそうな者はとりあえず皆集めた感じだ。
グスタフ大神官が食後のお茶の準備をしてくれている間、アロイスがお馴染みの魔道具を取り出す。
部屋の外にいる誰かに話を聞かれないための魔道具は、出番が多くて浄化の魔石と同じぐらい重宝されるものだった。
「――とまあ、このようなことがあってな」
「なんという……」
グスタフ大神官達は絶句していた。
結果的に瘴気だけでなく、霧までも私がすべて浄化してしまったくだりももちろん驚いていたけれど、彼が最も引っかかったのは例の地下の一件と、濃霧を発生させる魔道具の存在だったようだ。
「水中に投下することで効果を発揮するものがある。あの河にもそういうものが沈められていたんだろうと思うぞ」
アロイスが言い、グスタフ大神官はうなった。
そして深く溜め息をつくと、私のほうに向き直って深々と頭を下げた。
「このようなこと、我らだけでは解決に至らなかったことでしょう。セレスティーヌ様に心より感謝申し上げます」
「い、いえ、そのようなこと。皆様のお力がなくば、わたくしこそ成し得なかったことでしてよ」
聖女と言われなかっただけマシかしら、と思いながら慌てて頭を上げてもらった。
……ふと思う。
当たり前に頭を下げる礼が存在しているのは、前世の母の作った物語が元になっている世界だからだろうか。
それとも、この世界の出来事が時間軸のズレか何かで母の脳内に降臨し、あの物語になったのだろうか。
――うぅ~ん、わかりませんわね。確かめようもありませんし。個人的にありそうだと思うのは後者ですけれど。
後者だとしたら前世の母の元に降りたのは、本来のヒロインが活躍していた、この世界とそっくりな別世界――平行世界の出来事ということになりそうだ。
オーギュスト王子が過去に喋っていたセリフの一致から、ここは漫画版ではなく小説と一致している世界だと思っている。
ただ私が本来の悪役聖女の役割から外れ、ヒロインも怪しげな『リリ』という別人になってしまっているし、今さらあの小説の展開なんて当てにならないと思っていたのだけれど。
なのに今回、黒霧の浄化や怪物の存在など、やけに物語の展開と酷似している出来事に遭遇した。
そもそもヒロインが通ったのは別の国で、物語内に『世界中で同じようなことが起こっていた』とも書かれていたのだから、偶然と思いもするけれど。
――もう少し、きちんと考えたほうがいいかもしれませんわね……?
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