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お仕置きのお時間
185. 輝く町の歴史
しおりを挟むマルゴーの町には、ウェルディエ皇国とは明確に違う点があった。
ぱっと目を引く建物の白さだ。
ウェルディエ皇国は、基本的に石造りと木造の建物が半々と聞いていた。
けれど通って来たのが国境沿いの街道だったのもあってか、私の目に入るのは頑丈な石造りの建築物ばかりだった。
使われていた石材は、だいたいがどっしりとした灰色か明るい灰色で、色合いはコンクリートの色に近かった。
マルゴーの町の建物も、目に入るのは石造りのものだけだ。
けれど、コンクリートの壁に白やクリーム色の塗料を塗ったみたいに明るくて、なおかつ表面の凹凸が少ない。
隣り合った国の最初に出会う町なのに、メリザンドの町とこれほど大きく違うとは思わなかった。
「先代の領主の迎えた妻が、遠い異国の出身でな。その妻のために、故郷の国を思わせるような建物に変えさせたんだそうだ。だいぶ金がかかったらしいが、評判が良くて民間の商売も活気付き、何年もかからずに回収できたらしい」
「まあ……素敵ですわ」
そのお話自体も素敵だと思うけれど、この町全体が実際に、お世辞抜きに素晴らしい。
ぱっと思い浮かぶのは、地中海に面したどこかの国だ。
確か前世で、「疲れたな~どっか旅行したいな~」とぼやきながら、海外旅行のおすすめスポットを紹介するサイトで見かけたのだ。
外国旅行なんて夢の夢と思いつつ、青い空を背景に真っ白な建物の輝くさまは見惚れるほど美しく、しばらく夢中になって似たような画像を漁った。
あの壁の白さは、石灰を塗っていたのではなかったか。
美しいだけでなく除菌作用もあると書かれていた気がする。
白い建築物ばかりだと、それ以外の色がとても栄えた。向こうの館では壁に囲まれた植木が頭だけを覗かせ、その緑が綺麗に浮き立って見える。
ごく平凡な店舗の前にかけられた古びた布や、行き交う人々の雑多な服装さえ、数割増しでお洒落に見えた。
そんな町を見下ろす青い空。
おそらく画像で見た空ほどの濃い青さはない。それでも、晴れた空とこの町のセットは、一枚の絵に収めたくなるほどだった。
「本当に素敵ですわ……もしや領主様が迎えられた奥様は、海の近くの出身ですの?」
「当たりだ。壁がどこも全部白いだろ? この塗料は奥方の故郷の国から輸入したものらしい」
やはりそうか。
でもそれなら、ひとつ生じそうな問題がある。
「……冬の過ごしやすさは、いかがなものかしら?」
黒は太陽の熱を吸収し、逆に白は反射する。
白い塗料の用途は、建物内の気温を低く保つというものもあり、暑い地域には望ましい効果があった。
けれどこのメルシエ公国は、どちらかと言えば北寄りの国だ。
夏はともかく、冬はどうなのだろう?
綺麗な町だし、あまり批判的なことは言いたくない。
この町の住民の耳に入ったら、嫌な気分にさせそうだし。
私の疑問にエタンやコルネイユさんはピンとこなかったのか、怪訝そうな顔をしていた。
でもさすがといおうか、アロイスには伝わったようだ。
「昔より寒くなったらしいぜ。ただこの国は、風向きか地形のせいかはわからんが、雪の降る量が少ないんだ。周りの国と比べても、冬は極寒というほどにはならんから、まあなんとか住めるらしい」
「そうでしたのね」
建物内が多少寒くなってしまっても、それ以上の経済効果があるからトントンということかもしれない。
「もうすぐ着くぜ。あの建物だ」
アロイスが指差したのは、私が『商売』という言葉から漠然とイメージしていた市場のような通りではなく、ひときわなめらかな白い壁で囲まれた建物だった。
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