聖女転生? だが断る

日村透

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お仕置きのお時間

192. 呪いか天罰か -sideロラン国王

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 神殿の者があてにならぬとすれば、魔法使いを呼ぶしかない。
 大神官は最後まで渋っておったが、「ならばきさまが治せ」と言ってやれば黙った。

 きさまが金品を貯め込んでおることも、自分だけ逃れようと画策しておることも、余が気付かぬと思うてか。
 させんぞ。どうやら小娘――セレスティーヌの件が原因ではないかとほざく者もおるようだが、仮にそうであるとするならば、きさまも同罪なのだ。
 逃げられるなどと思うでない。

 うだつの上がらぬ小国の王に、凄腕と評判の解呪師を我が国によこすよう命じた。
 そして内密の相手との会談用の部屋に、大神官とオーギュストも呼び、その者を通させた。

 入室したのは、まだ三十にもならぬ若い女だった。
 ローブの上からでもわかる豊満な肉体の、なかなかの美女だが……

「商売女ではないのか? 余は魔法使いをよこせと言ったのだぞ」

 女は顔を引きつらせ、低い声で「……わたくしは魔法使いです」と言った。
 だが、余が求めた大魔法使いではなく、弟子の女というではないか?

「わたくしは、師に認められた解呪魔法使いでございます。わたくしに解呪できぬものは、師にもできません」
「ふん……ならば、己の腕とやらを証明してみせよ」

 余が最近ずっと被っている被り物を取ると、大神官とオーギュストも冴えない顔で、頭に巻きつけた布を外した。
 女魔法使いはぎょっと目を丸くし、不躾に我らの頭を凝視してきた。

「何をしておる。はようこの呪いを解くがよい」

 その視線にイライラしながら命じれば、女はハッと我に返り。

「できません」
「……何? 何と申した」
「恐れながらロラン王。その、それらは、呪いではないのです。ですから、解呪などできようもありませんわ」

 その言葉に、カッと怒りが湧いた。
 呪いではない? そのようなことがあるものか!

「何が解呪師か、とんだ無能をよこされたわ! 衛兵、この女を牢に放り込んでおけ!」
「はっ!? ちょ、ちょっと待って、冗談でしょう!?」
「役に立たぬ小物の国に、きさまの首だけ送り返してくれるわ」

 衛兵が室内にどかどかと入ってくる。
 左右から腕を掴まれそうになり、非力な女は泣き叫ぶ――ことはなかった。

「ふっ……ざけんなあぁぁっ!!」
「うわっ!?」
「ひっ!」

 なんと、女が火を出しおった。
 文字通り、手の平の前で「ぼっ」と音を立てて火が渦巻いたのだが、何の道具も見当たらぬ。
 もしや、火の魔法か!?
 手の平ほどの大きさの火が女の周りを浮遊し、衛兵どもは慌てて距離を取っておる。
 女は肩を怒らせ、目を吊り上げて紅唇を大きく開けた。

「あんた達のソレは、呪いじゃなく天罰だから解呪できないって言ってんのよ!! ――こんな奴らに囲まれて、聖女セレスティーヌがどれだけ苦労してたか想像がつくってものね。なのにホントこの国の奴ら、彼女のことを考えてもあげずに聖女様聖女様聖女様って、女の子ひとりに押しつけ過ぎ!」
「そなた、セレスティーヌを知っているのか!?」
 
 余が無礼な女の発言をしっかり呑み込む前に、突然オーギュストの阿呆が叫んだ。

「はっ? ……いえ、あたしは」
「知っているのならば彼女に言ってくれないか! たとえこのような恥辱を味わわされようと、私はそなたを怒ってなどいない、これまでのことは水に流し罰などは与えぬと約束しよう。だからく戻り、この髪を元に戻すようにと!」
「……っはあぁぁ?」

 毒気を抜かれてきょとんとしていた女の顔が、再び鬼女の形相になった。

「こんの、バカ王子!!」
「ひっ!?」
「まさか聖女セレスティーヌの呪いとか思ってんの!? アホかぁ!! ソレは天罰だって言ってんでしょうが!!」

 女を守るように浮遊する火の渦が、手の平ほどの大きさから顔ほどの大きさにめらめらとふくれた。

「水に流す? 反省して許しを乞わなきゃいけない立場はそっち! 間違えるんじゃないわよ!」
「わ、私は……」
「いいことオーギュスト王子、あなたは聖女の婚約者っていう立場のおかげで、適当にやってても皆が褒めそやして言うこと聞いてくれてただけなの! 光の王子って呼ばれていい気になってたのかもしれないけど、ロラン王国以外では『見た目以外に褒めるところのない王子』っていう意味で呼ばれてたんだからね!」
「えぇぇっ!?」
「どうせ、聖女セレスティーヌのことは全部人任せにして、彼女の状況を自分で確かめることもせず、呑気に花を眺めながら『あ~私は何故こんなに忙しいのだ』とかぼやいてたんじゃないの? そんな感じがするわよ」
「そっ、そのようなっ、こと……は……!」

 あるな。
 オーギュストが阿呆なことを言い出したおかげで、余の怒りは燃え立つことなく鎮火した。

 ――この女、無礼だが見る目はあるやもしれぬ。

 紛れもない魔法使いであることも、たった今証明された。
 ゆえに、余の頭にふっとそれが浮かんだ。

「魔女よ、そなたの目に鑑定させたいものがある」
「鑑定?」

 警戒心もあらわに問い返す女に、迷わず余は口にした。

「先日、王子の妃になった小娘だ」

 大神官がハッとした顔でこちらを見た。
 だが止めることはない。
 異世界から来たあの小娘は本当に聖女であったのかと、この者も疑っておるのだから。


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