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もうひとりの聖女の謎
203. 痛みよりもなくさないのが大事ですわ
しおりを挟むそれにしても本人の私より、どうやら巻き込まれた立場であるアロイスのほうが聖女関連に詳しくなっている。
これまでも私の希望を汲み、彼の中に仕舞い込んできたことは少なくなかったのではないだろうか。
想像すると、面倒をかけてきた心苦しさ以上に、心を配ってもらえていることへの喜びや感謝が胸に押し寄せて来る。
「頭領。ちょっと引っかかったんですけど、さっきの話」
私がジーンとしている横で、こういう場では発言を控えて聞き役に徹することの多いジゼルが、珍しく口をひらいた。
「どこらへんがだ?」
「各国の神官に神託があった、ってとこです。ほら、あの神殿の地下に、不思議な壁画があったって言ってたじゃないですか。あたしは見てないですけど、誰があれを描いたんだって言ってたでしょう?」
「ああ、あれな……」
「それ描いたの、神託を受けた神官ってことはないですかね」
まるで天から地上を見下ろしているかのような地図。
橋もないのに、大きな河の幅までも正確に描けているのは何故なのかと、そういう謎の残る絵だった。
今思えば、瘴気の湧き出る小島が描き込まれていなかったのも、なんだか意味深に思えてくる。
「有り得そうですわよね。以前そこにいらした神官の方々が現在どこでどうしていらっしゃるのか、わたくしも気になりますわ」
「俺も気になる。グスタフの爺さんの調査待ちだな」
神殿内部の動きであれば、マティス陛下よりグスタフ大神官に頼ったほうが確実だった。
宿を出てヒューゴとエディット、リュカにもこの話を共有し、ひとまずは予定通り次の町を目指そうという話に落ち着いた。
国境の町マルゴーを出ると、半日ほどは長閑な田園風景が続く。
アロイスはヒューゴと少々長話をしたいらしく、先頭の馬車の御者席に行き、珍しく私の『箱』の隣、アロイスの定位置にはエディットの姿があった。
ちなみにミュリエルはエディットの馬車で、すやすやお休み中らしい。
「んで? そいつぁ何だい?」
「……きゃあああ~!」
「きゃああじゃないよ。ほら、ちゃっちゃと喋っちまいな」
言わずもがな、私の耳で揺れている耳飾りのことだ。
キラリと目を光らせたエディットの笑顔に、嘘や誤魔化しなど通じるはずもない。
回りにくい舌をなんとか動かし、もごもご経緯を打ち明けたら、エディットは「そうかい、よくわかったよ」と満足げに頷いた。
「あと一歩詰めが足りないけど、一旦はよくやったと言っておこうかね。ところでセレ様、耳たぶは痛くなってないかい?」
……実は、ほんのり痛みがあったりする。
この耳飾りの金具は、いわゆるクリップ式。ネジで留める金具は存在しない。
耳という箇所は不思議なもので、ごく弱い力で押さえているだけなのに、圧迫されて痛みが強くなってくることがある。
おまけにこのタイプの金具は、ネジ式と違って挟む強さを細かく調整できない難点があった。
「ですけれど、そこまでではありませんし。位置をずらせばいいかと思いますの」
「ずらしても傷む時は痛むよ。金具を調整しようとしたら今度は外れやすくなるし、ぽっきりいっちまうこともあるからね」
「それは嫌ですの」
痛みは困るけれど、外れたり壊れやすくなるのはもっと困る。
どうしようと悩んでいると、エディットが自分の耳たぶを指先でピンと弾いた。
そこにはシンプルなピアスがある。
「穴、開けるかい? 次の町は鍛冶工芸品で栄えてるから、その耳飾りの留め具、穴に通すやつにすぐ変えられるよ。少なくともあたしはこの飾りで痛くなったことはないし、落としたこともないね」
「――お願いしたいですわ」
落とさないなくさない、それ一番大事。
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