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もうひとりの聖女の謎
205. 仮定の話ですけれど真剣にお願いしますわ
しおりを挟むアロイス・オベールは、誠実で優しい人だ。
それは他人を疑わないこととイコールではない。
第一、疑い方を知らない優しいだけの人間に、養父グレゴリーは頭領という立場を任せたりはしないだろう。
――王宮から放逐された少女こそ、本物の聖女だと見抜いていた……そう考えるのが自然ですわね。
ロラン王国の神官達は節穴揃いだ。それを私は誰よりもよく知っている。
そもそも、主人公の『ルリ』が放り出された時の状況からしてそうだった。
彼女は本物の聖女の力を持っていたのに、あっさり見捨てたということは、紛れもない本物であると判断できる者がいなかったからだ。
悪役聖女が『ルリ』を陥れた罠を、罠と見抜けなかった人々。
――ならば、アロイス様は……いえ、自分ひとりでもやもやしていないで、いっそご本人に質問してしまいましょう!
物語中のアロイスが、あの『ルリ』を大切にしていた理由は何だったのか。
本人に直接訊いたところで仮定の話にしかならないとしても、ここで私が憶測を元気にすくすく育てているより、よっぽど確実で有意義に違いない。
「もし、お二人とも。ご歓談中のところをお邪魔して心苦しいのですけれど、アロイス様にお伺いしたいことがありますの。よろしいかしら?」
思い立ったら即行動。
先頭の馬車の御者席で、アロイスとヒューゴが話しているところに遠慮がちに声をかけた。
「俺は構わんが」
「では、私めは席を外しますかな」
「申し訳ないことですわ」
「なんの。妻と喋りたいことがいろいろできましたのでな」
そう言ってヒューゴは御者席から降り、エディットのいるであろう馬車に歩いて行った。
もともと彼女の馬車は私の馬車の近くにあるので、どちらに乗っていてもすんなり会えるだろう。
「あたしも遠慮したほうがいいですかね?」
「ええ、できれば……」
「わかりました。ここで待っときます」
「ありがとう」
ジゼルにお礼を言って、ヒューゴの座っていた席に上がる。
腰を落ち着けるなり、お馴染みの魔道具で音を遮断したアロイスが、少しばかり緊張した様子で「なんだ?」と尋ねてきた。
私がこんな風に割り込んでくるのは珍しいから、何事かと思われたのかもしれない。
「先にもう一度お詫びいたしますわ。愚にもつかない質問でしてよ。ふと頭に浮かんだら気になって、居ても立ってもいられなくなりましたの」
「……?」
「仮定の話ですけれど。ロラン王国にいた頃、もしわたくしが『本物の聖女』と呼ばれていて、王宮から放り出されたとしたら、どうなさいます?」
「――なんだそりゃ」
肩透かしを食らった、みたいな表情で問い返された。
それはそうだろう。こんな突拍子もない質問、私だってなんだそりゃと訊き返したくなる。
「本当に、くだらないことを思い付いただけですのよ。ですけれど、アロイス様はどうなさったのかしらと思ったら、そればかり気になってしまったんですの」
「つまりあんたと『リリ』の立場が逆で、あんたが召喚聖女だったなら、ということか?」
「ええ、その通りですわ。わたくしが『リリ』の立場で、たとえばニセモノと呼ばれて追い出されたとしたら。仮定のお話に申し訳ないのですけれど、できれば本音で、正直に、真面目にお答えいただきたいですの」
アロイスは再び緊張した様子で、「本音で、正直に、真面目にか」と呟き、顎に手を当てて考え込んだ。
本当に、こんなおかしな質問でごめんなさいと言いたい。
「真面目に考えると……立場が逆なら、あんたは出奔しなかったことになる」
「そうなりますわね」
「いくらロランの連中でも、ぽっと出のニセモノ疑惑で即日追放なんてことはせんだろう? その前段階で何かあるはずだ」
「そ、そうですわね。たとえば、前々から怪しい噂が流れていたり、ですとか」
「『リリ』の例で考えると、魔力がなく魔法を使えない、これはどういうことだという疑惑が積み重なり、何か決定打があって放り出す流れか。加えて聖女はまだ一人残っているから、一人いなくなってもそこまで惜しくはない」
こくこくと頷いた。
主人公の『ルリ』もそうだった気がする。日頃から周囲への反発心を隠さず、悪役聖女セレスティーヌの策略でどんどん評判が下がっているところに、濡れ衣を着せられて……という展開だった。
「仮にそうなったとしたら。俺は多分、あんたに接触しようとしただろうな」
瞬きをした私に、アロイスはとても言いにくそうな表情になり、それでも淀みなく続けた。
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