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もうひとりの聖女の謎
206. 要はそういうことだったらしい
しおりを挟むアロイス達は私を仲間として扱ってくれている。
その私が『リリ』と逆の立場で、もし放り出されていたとしたら、彼はどうしたか?
仲間にそう尋ねられたら、ここは「そりゃあ助けに行くぜ!」と笑って自分の胸を叩くところかもしれない。
でも私は本音でと念押しをしていたから、そういう喜ばせのための軽い答えを聞きたいのではないと、彼はちゃんと察してくれたみたいだ。
現実問題、その仮定の話の中で私達は出会ってすらいない。「もちろん助けに行くに決まってるだろ」なんて素敵な理屈は通らないのだ。
そうなると、最初は「無関係のまま通り過ぎた」という答えになりそうだった。
その場合は質問を変えてみて、「もし拾ってくれるとしたら?」を導き出そうと思っていたんだけれど……
私がそうするまでもなく、アロイスのほうから問いかけの真意を深堀ってきた。
ロラン王国の人達が私をポイと捨てる前に、捨てるに至る経緯があるはず。
それは多分、私に関するよくない噂であり、それが市井にも漏れて広まっていたということが考えられた。
あの王宮は使用人の質が低く、処罰されない限りはベラベラと外に漏らす。
「ロラン王国に聖女が二人いて、前々から片方に悪い噂が流れている。となると、俺は早い段階でそいつに――つまりあんたに注目していたはずだ」
仮定の話だが、とアロイスも前置きをした。
「そのあんたが追い出されたのなら、実物はどんな娘なのかと会いに行くだろう。実際に会ってみて、妙な野心家でも嘘つきでもないと判断したら、保護をする。あんたは噂と違う女だし、間違いなくそうするだろうな。そしてこれ幸いと、他国に連れていく」
その瞬間、何もかもがストトトン! と腑に落ちた。
これまで私は、どうして主人公はアロイスを選ばなかったのかと、そればかり不可解だった。
でも実は、それはアロイスの側にも言えることだったのだ。
どうして彼はあんなにも、彼女を助けてあげたのか。
可愛い少女に一目惚れをしたわけではなく、騙されやすい親切なだけの若様でもないのに。
私がすべてを悟ってからも、彼は答えを紡いでくれた。
「あんたが王宮を追われた理由としてすぐに想像がつくのは、王子をめぐる女同士の争いだな。あんたの場合は一方的に敵視されていただけだろうし、そうなるとニセモノ聖女ではなく本物である可能性が高い。はっきり言ってロラン王国の神官どもの目は節穴だらけだ。奴らに真贋は見抜けん」
その通り! と拍手を送りたくなるのを耐えて、おとなしく続きに耳を傾ける。
「それを確かめるためにも、隊商に迎え入れて親切にしつつ、まずは他国で様子を見るな」
大切にして皇国への好感度を上げておけば、やはり彼女が本物であると確信を得られた時、ウェルディエ皇国に連れて行きやすくなる。
――その娘をウェルディエ皇国の聖女とするために。
ロラン王国があとになって回収しようとしても、既に彼女は遠い異国の地。
つまりは、アロイスの行動にはちゃんと目的があったのだ。
目障りなロラン王国から聖女を一人奪うために、主人公の『ルリ』自らが皇国で暮らしたいと望むように仕向けた。
物語内のアロイスと隊商の仲間達は、『ルリ』を可哀想な女の子ではなく、『聖女』として大切に扱っていたのだ。
商人と言うより、ウェルディエ皇国の人間として冷徹に計算して。
その上で、アロイスは優しい人だった。
遠い異世界から連れて来られた少女に対し、彼女を騙していることへの罪悪感もあったのではないか。
聖女を利用しようとする己の行いに、女神に対する罪悪感も少なからずあっただろう。
その罪滅ぼしも含めて大切にしているうちに、いつの間にかその気持ちが恋になったかもしれないし、実はならなかったかもしれない。
これは本当に盲点だったのだけれど、アロイスの行動を説明する文章の中に、彼が主人公に「恋をした」とか「好きになった」とか「惚れた」みたいな、そのものズバリの単語は一切なかった。
彼の行動やセリフから、そうなんだろうなと察せられる文面になっていたのだ……!
『王宮に戻るのはやめて、俺とともにウェルディエ皇国に来ないか?』
主人公と別れる間際、アロイスが主人公を誘ったこのセリフ。
普通にプロポーズの言葉にしか聞こえないのに、おニブさんなヒロインは困惑する程度で、しかもあっさり断り、前世の私はそれはもういらいらしたものだった。
だけどアロイスもまたあっさり引き下がった。
あれは彼の潔さと感じていたけれど、本当は主人公にそこまで色恋を感じていなかったからなのか。
――おまけにアロイス様や皆様が、どれだけ大事にしてさしあげても、とうとうあの少女が変わることはなかったのですもの。仮に淡い想いがあったとて、失望感に塗り替えられてしまってもおかしくありませんわね。
罪悪感を恋愛感情と取り違える現象が、ひょっとしたらアロイスの中にも発生していたかもしれない。
でも最後に彼女がアロイスを選ばなかったことで、彼の中の錯覚は失望感とともに覚めて消えた。
きっと、そういうことだった。
ずっと胸の中でモヤモヤくすぶっていたことが、急激に晴れた。
深く息を吸ってゆっくり吐くと、アロイスがどことなく心配している目で見つめてくる。
こんな意味不明な質問をして、こいつ大丈夫かと思われたかもしれない。
「お答えいただき感謝いたしますわ、アロイス様! わたくし、すっきりさっぱりいたしましたの!」
作り笑いではなく、自然に笑顔が浮かんでくる。
「そ、そうか……?」
「ええ、とっても晴れやかな心地になりましてよ。というわけですので、そろそろ自分の馬車に戻りますわね。長居して失礼いたしましたわ!」
「あ、いや」
私は御者席から降り、ジゼルとともに弾む足取りで元の馬車に戻っていった。
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