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もうひとりの聖女の謎
207. ピアスに変身
しおりを挟む次の町に到着したのは、昼をだいぶ過ぎた頃だった。
ここを経由してマルゴーの町を目指す人が多いらしく、この町も発展している。
着いてすぐ、アロイスが私達の宿を取った。町がそこそこ大きいので、ここにも良い宿が何軒もある。
あまり混んでいない時期だったのもあって、隊商の皆とコルネイユ隊も、全員がどこかに泊まることができた。
「あんたはこのあと――」
「エディットやジゼルとお出かけしますの」
「お出かけ?」
「今は秘密なのですわ!」
「……そうか。リュカ、おまえも一緒に行け」
「え、俺もっすか?」
何やら二人の間で視線が交わされ、どうしてかリュカも行くことになったけれど、別に否やはない。
昼食は既に摂っていたから、さっそくジゼルとリュカを連れてエディットのところに行った。
護衛としてコルネイユさんも一緒に行く。
「本日はよろしくお願いいたします」
「任せときな」
エディットから行き先を聞いて、リュカは「そういうことだったか」と呟いていた。
エディットの馴染みの工房では、迫力たっぷりで強面な職人が出迎えてくれた。
「邪魔するよ」
「姐さんならいつでも歓迎しますぜ。今日はどうなさったんで?」
「この子の耳飾り、金具を耳に通すやつに替えてもらいたくてね」
強面なおじさんの口から「姐さん」と出た瞬間、私の中から怯みかけた心が消えた。
工房の奥に案内され、職人さんの用意した台の上に、丁寧に外した耳飾りを二つともころんと置く。
「この金具が耳を挟んでる時に、痛くなっちまうみたいでね」
「こいつはよくそうなるって聞きますな。穴を開けんのが怖えお人はこっちにするんですが、開けたほうが後々痛くねぇってのもよく聞きますぜ」
職人のおじさんは、ピアス用の金具の見本を出して見せてくれた。
どれもフック型で、種類がいくつかある。
これは慎重に選ばないといけない。挟むタイプの金具より外れにくいとはいえ、フック型のピアスも動いているうちにスポンと抜けやすいものがあるのだ。
「あたしはこれなんかがいいと思うね。こいつはつけにくい代わりに、外れにくいよ」
エディットのおすすめはフックの形が幅広のものではなく、やや絞った形になっていて、先端部分が耳を傷付けないよう丸くなっているものだった。
それによく聞くと、この世界の人々がピアスをつける場合は、つけっぱなしが基本らしい。
日替わりできるほど装飾品を持っている人自体が少ないのと、身に着けておいたほうが仕舞っておくよりも紛失の危険が少ないという事情もあった。
――身体から離すと紛失というか、盗難のリスクが高いのですわね。
金目のものを見せびらかすのはそれはそれで危ないけれど、いざという時のため、換金できる装飾品を寝る時でもつけておくという考え方もあるそうだ。
「あたしらの場合は隊商の仲間がいるし、コルネイユ隊もいる。単独行動さえしなきゃ、襲われる心配なんてそうそうないさ」
「そうですわね」
エディットのアドバイスは信頼できる。メリザンドで変なのに絡まれたけれど、あれは特殊な例だったと思うし。
私はこっくりと頷いて、エディットおすすめの形のフックに交換してもらうことにした。
「すぐできますんで、そこらへんで待っといてください」
「わかったよ。じゃ、セレ様。こっちを先に済ませるかね」
エディットが腰ベルトにさげていた小物入れから取り出したのは、針と、塗り薬と、小さな綿布。
「怖いこたないよ。一瞬で終わるさ」
きらりと輝く針を手に、エディットが私を見下ろしながら言った。
どうしてだろう。彼女もそんなに大柄ではないのに、こういう時は山のように大きく見える。
「――ひと思いにお願いいたしますわ」
エディットが針につけた薬だけでなく、念のために私の浄化や解毒魔法もかけておく。
椅子に座り、耳たぶにぷすりと通った瞬間はそれなりに痛みがあったものの、激痛というほどではない。
本人よりもハラハラしていたのがリュカとコルネイユさんだった。
痛くないですよー、平気平気ー。あの足の手術に比べればどんと来いです。
金具の交換は本当にあっさりできた。
今までの金具を切ったところに別のパーツをくっつけるだけといっても、仕上がりには職人さんの腕の良さが影響し、下手な人がやると後でぷつり取れてしまったりするそうだ。
私が勝手に注文なんてすることはないけれど、仮に何かを頼むとしたら、隊商の顔馴染み以外の工房は避けるように気を付けなければ。
それはそうと、フックの先端を丸くしてあっても、開けたばかりの穴に通す時が一番痛かった……薬をつけた綿布で私の耳もとを拭いながら、エディットが「さ、できたよ」と肩を叩いた。
「痛みは今日中に消えるよ。それでも数日は外さないようにしな」
「わかりましたわ。ありがとう存じます!」
私の笑顔に、エディットと職人のおじさんも満足そうに頷いてくれた。
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