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もうひとりの聖女の謎
210. 接触
しおりを挟むさらに一週間ほど過ぎた日のことだ。
私達はベルナデットという町に到着し、いつものように宿を取った。
「ここから先は、今までみたいないい宿がほとんどない。少し腰を据えて商売をしておく」
アロイスがそう宣言し、この町では長めの滞在となることが決まった。
彼らの『商売』は店頭に品を並べて「いらっしゃいませ~!」と愛想を振りまく小売業ではなく、卸売業に近いものだったので、私が同席させてもらってもまったくと言っていいほど役に立てない。
隊商の仲間達も、荷馬車の見張りや物品の手入れをする担当の人以外は、馴染みの職人や店舗のもとへ取引のために顔を出している。
コルネイユ隊のほとんどは、交代で馬車の見張り要員となり、身体がなまらないように鍛錬などもしていた。
彼らの鍛錬には隊商の人々の一部も交ざり、剣術や槍術を教えてもらったりしているらしい。
「この隊商の者達は、我流で戦っている者が多いのです。悪い意味で動きにクセのある者がおりますので、偉そうかとは思いましたが指摘させていただきました」
とは、コルネイユ隊の皆さんの言だ。
「我らから見て、良い意味で動きに特徴のある人物が頭領殿とエタン殿です。このお二人はとにかく、攻撃の筋が読めなくて厄介ですね」
隊商の人々は元プロ騎士達の戦い方を教わり、コルネイユ隊の皆さんは隊商の人々から実戦を教わってと、双方にとってメリットのある鍛錬だそうだ。
コルネイユ隊はロランの王宮に勤めていたこともあり、コルネイユさんを含む上位の半数を除けば、実戦経験が少ない若手で構成されている。
たびたび夜盗を撃退しているアロイス達のほうが、実は戦闘経験が豊富だったのだ。
私も自分の仕事である浄化魔石づくりや、エディットの手伝いをしながら薬の調合を教わったりと、得意分野でそれなりに忙しくしていた。
ついでにベルナデットの町にも中規模の神殿があったので、できあがった魔石の一部を納めた。
私は女神を否定しているのではなく、純粋にあの国がダメだったんですよというアピールのためだ。
「かの国はわたくしの魔石を、限られた裕福な方々にのみ高額で売り払っていましたの。とても嘆かわしいことですわ。皆様はどうか、正しくお役立てくださいまし」
と、悲しそうな笑顔でお願いすれば、よっしゃ高値で売っちまおうなどと思っても実行できまい。
「なんと罰当たりなことをなさるのでしょう。聖……いえ、セレ様、あなた様の真心に感謝し、決して裏切らぬことをお約束いたしましょう」
だいたいは善良な人々なので、心から感謝してくれた。
私の心が一番汚れていてすみません。
それとアロイス達の忠告により、規模の小さな神殿には納めないようにしている。私の魔石目当てで強盗が入るかもしれないからだ。
そしてさらに数日が経過した頃。
「例の魔女が、あんたを捜している。会いたいそうだ」
ロランの王宮で追われていたという魔女が、アロイスの隊商に接触を図ってきた。
その魔女の名前はメラニー。
諸国で知られた大魔法使いリヴィエールの高弟であり、解呪のほかにも火炎をあやつることで有名な魔法使いらしい。
彼女はロラン王国を脱出し、一度は国に戻ったが、すぐにまた国を出た。
追い出されたのではなく、王に迷惑をかけられないからと本人が周囲に語っていたという。
「逆に、この件でロラン王国の株はまた下がった。有能で知られた魔女を監禁し、自国のためだけに働かせようとする行いは、どの国であろうと嫌われる」
「魔女の住んでいらした国は大丈夫ですの? ロランより小さな国なのでしょう?」
「周辺の小国同士で協力関係を結び、奴らが抗議してきても強気で突っぱねる構えでいるそうだ。圧倒的にロラン王国側に非があり、明日は我が身と感じた者同士で結束を強めるのは簡単だったらしい」
そこで、とアロイスは一瞬だけ言葉を切った。
「その魔女は、あんたに会いたがっている。最初は俺達がマルゴーあたりにいると踏んでいて、そこを目指していたんだそうだ。俺達がここで長めに滞在してなきゃ、すれ違ったかもしれんな」
どうする? と、アロイスは尋ねた。
私はこくりと唾を呑む。
――リリ様を調べた時に、わたくしのことも気付いてしまったのかしら? ……いえ、それは違いますわね。
タイミング的に、魔女メラニーはロラン王国を脱出した直後には、もう私のことを捜し始めたはずだ。
私のことを何か怪しんでいるのなら、いきなり接触しようとはせず、もっと様子を見ようとするのではないか。
普通に考えて、リリのことを私に訊きたいだけだろう。
「お会いしますわ。あの国やリリ様がどのようになっているのか、わたくしも詳しくお聞きしたいですもの」
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