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もうひとりの聖女の謎
214. 寿命が縮むかと思いましたわ
しおりを挟む室内に女性は私だけ。
それ以外は男性ばかりなのに、メラニーさんは色目を一切使うことなく、すぐに本題に入った。
「聖女セレスティーヌにお会いしたいと望みましたのは、ほかでもございません。もう一人の聖女と呼ばれる、ロラン王国の召喚聖女のことでございます」
口調に粘ついた感じはなく、ビジネスライクに徹しているところに好感が持てる。
もし美貌を鼻にかけ、男女のトラブルを多発させるタイプの女性だったら、真面目な話なんてできなかった。
実を言うとこの点は、私よりもアロイス達のほうが用心している。
相手の担当者が若い女性だった場合、表面上は普通を装いつつ、厳しく観察していると聞いたことがあった。
隊商は同じ船の仲間に似ている。
一箇所に留まる期間が少なく、誰かがまずいことをすれば全員に累が及ぶ。
享楽的な女性がひとり飛び込み、周囲をさんざん振り回したせいで沈んでしまった船の話は、旅商人の間の教訓として語られることが多いそうだ。
「先日わたくしは、その御方に会う機会がございました。と申しますのも……」
メラニーさんはしっかり私の目を見つめ、事の経緯を理路整然と話してくれた。
推測も含めて、私達が把握していたことと、彼女の話はほぼ一致している。
本題は案の定、召喚聖女の中に『二人いる』ということだった。
「中にいる少女は、ごく最近になって意識が芽生えたようなのです。しかし『これは私の身体』と主張しており、リリ様もそれについては否定しておりませんでしたので、本来の『心』が長らく休眠状態にあったというのは事実なのでしょう」
リリはどうやら、主人公『ルリ』の肉体を奪い、『ルリ』の意識が消えずに残っていることを知らなかったみたいだ。
メラニーさんの力により、初めて『ルリ』の存在を意識して、お互いに心の中で会話もしたらしい。
――まあぁ……リリ様、主人公とお話をなさったのね? 想像すると不思議ですわ。
私が呑気に感動していると、アロイス達のほうから緊張が漂ってきた。
「割り込んですまん。つまりメラニー殿は、人の心の声が聞こえるのか?」
あ、と私も気付いた。
まずい……私のおバカな思考や、どす黒い思考の数々が、この女性にはダダ漏れになっている!?
あの立派なお胸がお風呂でぷかぷか浮いているところを見てみたい、なんて思っていることも全部筒抜け!?
顔から血の気が引きそうになっていると、メラニーさんは慌てて否定した。
「聞くためには集中力が必要で、精神的な負担も小さくはないのです。今現在も皆様の心の声を読んでなどおりませんし、許可なく読みはしないと女神に誓いますわ」
つまり、やろうと思えばできるけれど、疲れるから必要がなければやらないということらしい。
『聖女』と呼んだ私の前で女神に誓ったからには、本当に今も読んではいないのだろう。
よ、よかった……!
「いらぬ疑いをかけて悪かったな」
「いいえ、無理もないことと存じますわ。この能力に関しましては、皆様とても気にされるところですから」
読心術の持ち主と知られれば、重宝されるか唾棄されるかの両極端に分かれるだろう。
彼女のセリフに、これまでの苦労が垣間見えた気がした。
メラニーさんは態度をやわらげたアロイスにホッとし、話を続けた。
「もう一人はおとなしく、人畜無害そうな娘という印象でした。ロラン王は表のリリ様を消去し、その娘を出せと要求したのですが、わたくしにはどうにもそれが得策とは思えなかったのです」
「つまり、今表にいるリリ様を消すべきではないと感じられましたの?」
「消して良いものか判断がつかなかった、という以上に、消さぬほうが良いと感じたのも事実です。セレスティーヌ様にはご不快かもしれませんが……」
奥歯に物が挟まったような言い方に、ぴんときた。
「メラニー様、わたくしのことはどうぞ『セレ』とお呼びくださいまし。――リリ様の件で、わたくしに遠慮は無用ですのよ。接触する機会がほとんどなくて、好き嫌いの感情を育むほど交流がなかったのですもの」
「そうなのですか?」
貴重な休憩時間を邪魔されたり、これみよがしに王子との仲を見せつけられたりはした。
が、物を壊されたり盗まれたり痛い思いをさせられたことは結局一度もなく、最終的にバカ王子にのしをつけて押し付けた時点で、その部分は相殺されたと思っている。
私の言葉が本音だとわかったのだろう。
メラニーさんは安堵と困惑のないまぜになった表情で、もう一度「そうなのですか」と呟いた。
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読んでくださってありがとうございます!
更新のお知らせ:10/17、18は投稿お休みいたしますm(_ _)m
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