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もうひとりの聖女の謎
219. 多分本人は嬉しくない一目の置かれ方
しおりを挟む片方を消滅させるか、それとも片方を分離させるか。
どうすればいいのかと、魔女は問う。
――いいえ。もうひとつありますわ。
これまで通り距離を置き、放置しておくという方針だ。
私が彼女達を何とかしてあげなければいけない義理は、はっきり言ってない。
直接的な恨みはなくとも、恩義だってないのである。
赤の他人であり、友人ですらない。
ないない尽くしの中、私と彼女達の間に共通点があるとすれば、あの国で聖女と呼ばれる存在になったこと。
それから、前世の物語の中で、ヒロインと悪役というメインキャラクターだった点ぐらいだ。
物語については、元の展開がもはや粉々になっているけれど、それだって私に責任があるわけではない。
主人公の中身が異なり、リリが主人公ではなく彼女自身の名前を名乗った時点で、仮に私が前世を思い出さなかったとしても、物語通りの展開になっていた保証はないのだから。
「やっぱり、保留でお願いいたしますわ」
そう言うしかなかった。
何故なら……
「何故ならわたくし、リリ様を助ける義理はなくとも、消せばいいとまでは思えませんのよ。なら、分離させるか放置するかの二通りになりますけれど、現実問題としてどちらを、何の器に移すのかという話になりますでしょう?」
「リリ様はそのまま残して、もう一人を魔石か玉に移せばよろしいのでは?」
あっさり言い切るメラニーさん。
それはそれでちょっと待って……!
本来の持ち主である『ルリ』のほうを封印しちゃえばいいんじゃないのと、迷いなく言ってしまえる魔女が怖い。そう感じる私が甘いのだろうか?
「結論を出すのは早いぞ、メラニー殿」
「あら、そうですかしら?」
「分離させたとして、その後リリという娘が聖女の力を得たらどうなる? 自分を打とうとした教師から鞭を奪い、逆に鞭打ってやったという噂の女がだぞ」
「リリ様、そのようなことなさってましたの!?」
アロイスの新情報に、私は目が真ん丸になってしまった。
――リリ様ってば……おみそれしましたわ! 何が何でもあの人達の思い通りにならないという、凄まじい念が伝わってきましてよ……!
どうしよう、『ルリ』を封印しちゃってもいいんじゃないのと、メラニーさんの意見に心が傾きかけてしまった。
いくらなんでもそれは非道だろう多分、とすぐに打ち消したが。
「リリという娘が力を得ても、やすやすと奴らの命令を聞くとは思えん。だが、交換条件を突き付けて『ロラン王国の聖女』の役どころを承諾してやるかもしれんだろう。もしそうなった場合、奴らを無駄に延命させることになるぞ」
「それは仰せの通りですわね。服従はせずとも、己に有利な取引であれば結ぶかもしれませんわ。あの者達に激怒しておりましたから、物別れの可能性も大いにありますけれど」
「消去なり分離なりをやるとすれば、リリが奴らの利になる取引は断じてしないと確約する手札を揃えてからだな。それが何もないうちは、こいつの言った通り現状維持でいいだろう」
アロイスのおかげで、メラニーさんはひとまず思い留まってくれた。
そもそも準備に時間がかかるし、ロラン王国に出向く手間もかかるのを考えると、今すぐどうこうしなければいけない問題でもないと考え直してくれたようだ。
それにしても、メラニーさんといいアロイスといい、本来の持ち主たる『ルリ』をどっかにやってしまえという意見で一致している件。
まだ会ってもいない段階で、既に面倒くさい存在と認定されている『ルリ』も、ある意味なかなかだと言えた。
メラニーさんは帰国するかと思いきや、そのままアロイスの隊商に加わることになった。
「今戻れば、国に迷惑をかけてしまいますもの」
そういえばロラン王国からの難癖を避けるため、一時国を離れたという話だった。
少々怖いところはあるけれど、頼もしい仲間が増えたと喜ぶことにしよう。
ぽよんと揺れる見事なお胸に目が行ってしまうのは、私が小柄で目線が低いからだ。
他意はない。
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