聖女転生? だが断る

日村透

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『元』聖女、行きたくないけど方向転換

227. 浮力とあの伝説

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 ぷかり。ぽよん……

 湯船に、見事なラインを描く双子島がぷかぷかと浮いている。

 ――ほ、本当に浮きますのね……!?

 セレスティーヌになる前の私だった頃、胸は浮力で浮くという噂があり、当時の私はそれを「ただの都市伝説でしょ」と一笑に付していた。
 セレスティーヌになった今の私も、「そんな現象有り得ませんわよ」と欠片かけらも本気にしていなかった。
 それが今、覆されている。
 ただ、ちゃんと物理法則のある世界だから浮いているのか、女神と魔法と不思議な力の存在する異世界だから浮くのかは判断がつかなかった。

「セレ様、どうしたんです?」
「あら? セレ様、お入りになりませんの?」
「い、いえ。入りますわ」

 身体を流すためのお湯は、湯船とは別のお湯み場が設けられている。
 これも岩風呂の雰囲気を損なわない外観で、ほどよい温度のお湯が小さな滝となって流れ込んでいた。
 天然の滝ではなく、宿の人が裏で定期的にお湯を沸かして足し、そこから内部に通した穴を伝って、出口から滝みたいに落ちる演出にしているそうだ。
 魔法使いが設計に嚙んでいるのもあって、途中で冷めない工夫も施されているらしい。

「先に身体を洗ってから入るわけではありませんのね?」
「そういうマナーの国もありますわね。ただ、しっかり浸かってから洗ったほうが、身体にこびりついた汚れまで綺麗に落ちやすくなりますのよ」

 まずは洗い場のお湯で表面のほこりや大きな汚れをざっと落とし、お風呂に浸かって、最後にお風呂から出て身体を洗う……というのがここの入浴マナーだった。
 遠方から来る客が多いため、このような決まりになったのだという。
 よっぽど汚れが酷ければ先に落とせというルールなので、慣れれば特に抵抗感はなさそうだ。

 郷に入れば郷に従え。私もお湯を身体にかけると、岩風呂の中に入った。
 足元はごつごつした岩ではなく、ちゃんとタイルが張られている。
 不揃いな形で、表面のざらついているタイルは、つるつるに磨かれたものより味があっていい。

「き……もちいいですわぁ~……!」
「さいっこうです~!」
「ほんとね~……っと、失礼」

 口元を手で押さえたメラニーさんに、いい機会だから言っておくことにした。

「あの、メラニー様? お言葉遣いは普段の口調で結構ですのよ。そのほうが親しんでいただけているようで嬉しいですわ」
「あたしらにも平民口調でいいですよ。ていうか、あたしらも普通に喋ってんですから」
「……そうお? なら、そうさせてもらおうかしら」

 彼女は日頃から身分の高い人物と接する機会が多く、上品な言葉遣いと所作を身につける必要に迫られたのだろう。
 個人的にはやや蓮っ葉な口調のほうが気安さを感じるし、彼女の雰囲気に合っていて好感が持てた。
 何より「そうお?」と長い髪をかき上げながら、見事な双子島がぷるるん。

「うふふ。セレ様、コレ触ってみます?」
「えっ」

 コレとは、ソレですか?
 いえまさかそんな――本当にいいの?
 メラニーさんはにっこりと頷き、人差し指で島をつんつん。そのたびにぽよん、ぷかり。

「遠慮なく触らせていただきますわ」
「はい、どうぞ」

 なんて寛大な人なのだろうか。
 遠慮なくぷにぷにさせてもらった。
 わぁ……つるすべでもちもち~。

「メラニーさん、あたしも触っていいです?」
「どうぞ、どうぞ~」

 私よりもジゼルのほうが遠慮がなかった。
 島を下からすくい上げ、「この品やわらかくていいですね」と品質を評価している。

「でもコレ、大変なのよぉ。重いからすぐ肩こっちゃうし、下着がどうしても高くついちゃって」

 肩がこる、ブラのサイズがない。
 重量級の方々にありがちと噂の悩みだ。
 ……これもただの都市伝説ではなかったのか。

「あたしとしては自分のコレより、ジゼルさんのソレを触ってみたいわぁ」
「コレですか? いいですよ」

 ジゼルがお湯の中で少し腰を浮かし、お腹を出した。
 ――腹筋である。
 おそらく男性ほどではないけれど、あと一歩で割れそうだ。
 メラニーさんは真顔でジゼルのお腹をぺたぺた触りながら、「すごいわ」と呟いた。

「荷物抱えて走り回って、たまに木剣やら棒やら振ってればみんなこうなりますって」
「そもそもそれが『みんな』できることじゃないのよ」

 ジゼルは平然とした顔で言うけれど、私はメラニーさんの真顔から出た意見に百回ぐらい頷きたい。
 もちろん私も触らせてもらった。

「女の子のお腹って、こんなカチコチになりますのね……」
「あ、セレ様はならないかも……すみませんメラニーさん、『みんな』じゃないですね」
「でしょお?」

 あっさり前言撤回された。
 自分でも確実に無理という確信しかないので、別に文句はそんなにない。

 触りっことお喋りをひとしきり楽しみ――私のささやかなソレは、そっと隠させてもらった――そろそろ身体を洗おうかと思い始めた頃、メラニーさんが私の耳元を見つめてにんまりと笑った。

「ところでセレ様? 、詳し~く伺ってよろしいかしら?」


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