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ついに皇国へ
77. 思わぬ人物が
しおりを挟む休憩を終えて一行は再び進み、斜陽が世界を金色に染め始めた頃、私達は国境までほんの少しのところにいた。
私とアロイス、そしてジゼルとリュカはいつもの馬車ではなく、一番前の馬車に乗っている。
屋根の幌はあえて外し、枠組みだけになった荷馬車はこちらの視界もいいけれど、向こうからもよく見えるだろう。
私の白髪と白い肌は、視力の良い者であればとっくに見えているはずだ。
私は積んだ荷箱の上へ無雑作にクッションを置き、その上に座らせてもらっていた。
アロイス達もみな、思い思いの場所に座っている。
私は変に神格化されないための対策として、特別な座席などは用意してもらっていない。
いつも皆の前でそうしているように、できるだけ気楽な姿勢で座っていた。
それでも背筋が伸びて、あまりだらしない格好ができないのは緊張しているからではない。これはもう身体に叩きこまれて染みついて、意識せずとも自然にそうなるのだ。
暗い灰色の長大な壁が聳え、近付くほどに圧迫感を覚える。
国境の壁というと恐ろしいイメージなのだけれど、恐ろしさと同時に美しいとすら感じた。
左右に目をやれば、向こうが見えないほど長く築かれた壁。
これを人の手で造ったのだなぁという事実が、それだけで胸の中に感動をもたらした。
巨大な門を中央に、見張りの円塔が左右に立つ。上に見えるのは矢狭間か。
出入口の上部にある出っ張りは、門を通過しようとする敵の頭上から何かを落とすためのものだろう。
戦う用途で建てられた壁なのだと思うと、ゾクリと震えそうになった。
「どうした。寒いか?」
「いえ……アロイス様。何でもありませんの」
隣から聞こえた声に、すぐに落ち着きが戻ってきた。
立ちかけた鳥肌も消えている。
この人の声、精神安定の魔力でも乗っているのかしら……。
お礼を言おうかと思ったのと同時に、既に開いていた門の扉の向こうから、大勢の人がぞろぞろと出てくるのが見えた。
高いアーチの下から整然と吐き出される人々は、明らかに兵士の服を着ている。
ウェルディエ皇国の兵士だ。
その先頭に立ち、とびきり立派な装備を身につけている人は、四十……いや、五十歳ぐらいの男性。
いかつい顔立ちに、不思議と愛嬌を感じる。
瞳の色は遠くからだとよくわからないけれど、白髪交じりの小麦色の髪はきつめのウェーブが入っていて、後ろでひとつに結んでいるようだった。
黒髪の多いウェルディエ皇国人としては、明るい髪色が遠目にも目立つ。
「げっ……なんで」
アロイスが嫌そうな声を発した。
えっ、どうしたの?
ものすごく嫌そうな声の割に、表情は薄笑いを浮かべていた。おそらく商売用の薄笑いだ。
微笑みと呼ぶには、腹の中で何やら計算をしていそうな顔と言おうか。
やがて兵士達が動きを止め、先頭のその男性だけがこちらに近付いてきた。
あちらはアロイスとは逆に、にこにこと機嫌のよさそうな満面の笑顔である。
……友好的な人、だろうか。
今のアロイスの反応だと、もしや知り合い?
それを裏付けるかのように、その人は片手を大きくブンブンと振って「おおーい!」と朗らかな声を上げた。
――あのぅ……これほどお近くにいらっしゃるのに、大きな声でお呼びになる意味とは?
彼はほんの数メートル程度の場所にいた。
そしてこちらがどう反応すればいいのか迷っている間にずかずかと歩いてきて、荷馬車の枠組みにドンと片腕をかけた。
「ひっさしぶりだなぁ坊主、息災だったか!」
その人は黒茶色の瞳を弓のように細め、髭に囲まれた口元にニンマリと笑みをのせた。
坊主って?
「……親父殿ぉ? なんであんたがここに? 聞いてねぇぞ」
ものすごく低い声が隣から聞こえた。
えっ……親父殿?
そちらを振り向くと、アロイスは目を閉じ、頭痛をこらえるように片手を額に当てていた。
――っっええええ、もしや、ご本人ですの!?
アロイスから小麦色の髪のおじさまにバッと視線を移すと、おじさまは何を思ったか私にニッコリと笑いかけてくれた。
この反応、小説でも読んだ! 本人だ!
イラストは付いていなかったし、髪や瞳の色の記載もなかったけれど、間違いない。
グレゴリー・オベール。孤児だったアロイスを拾って育てた人物。
アロイスから『親父殿』と呼ばれ慕われている、有数の大商隊の頭領。
そんな人がどうして、ウェルディエ皇国の兵士の服を?
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読んでくださってありがとうございます!
更新についてのお知らせ:
4/18~20まで投稿お休み予定、4/21から再開いたします!
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