聖女転生? だが断る

日村透

文字の大きさ
78 / 251
ついに皇国へ

78. 物語外の背景

しおりを挟む

 読みに来てくださってありがとうございます!
 楽しみにしてくださっている方々にはお待たせいたしました。投稿再開いたしますm(_ _)m

----------------------------------





「んで、坊主。この子が手紙で言ってた例のお嬢さんか?」
「この歳で坊主呼びはそろそろやめてくれ。――そうだよ」

 どう聞いても、仲良し親子の気安い会話でしかないそれに、私の目はさっきから真ん丸に開きっぱなしだ。
 よく似た知人でも親戚でもない。やはりこの男性は、グレゴリー本人なのだ。

 そのグレゴリーがどうして、兵士服を――それも、向こうで待機している人々よりも、明らかに格上とわかるものを着ているのだろう。
 服の刺繍、胸や肩や胴回りに装着している軽防具、腰に佩いた剣……それらは意匠が豪華なだけでなく、まったく浮いた感じがしない。
 グレゴリーという人物に、その装いはとてもしっくり馴染んで見える。

 ――アロイス様は、この方が突然現れたことに驚かれはしても、装いに対しては何も驚いておられませんわね。つまりは、このようなお姿を見慣れていらっしゃるということですの?

 アロイスだけでなく、隊商の仲間も仰天している様子はない。
 私はこれまであの小説のストーリーや設定を何度となく思い返したけれど、アロイスの育ての親であるグレゴリーに、地位の高そうな兵士姿が似合うなんて設定はなかった。
 なのに、これはいったいどうなっているのだろう?

「わっはっは、よろしくなお嬢さん! ここじゃ何だから、挨拶は中でしようぜ。とっとと入れや!」
「あんたな、自分の家かよ……」

 「ガハハ」と豪快に笑うグレゴリーに、アロイスが遠い目で突っ込んでいた。
 そりゃあ突っ込みたくもなるだろう。まるきり玄関前で「よく来たなおまえら、入れ入れ!」と手招きする親戚のおじさんそのものだ。
 アロイスのぼやきなど意に介さず、おじさん――いやグレゴリーはさっさと踵を返し、兵士達に向けて腕を振った。
 彼らは門の中に戻るのかと思いきや、速やかに左右へ分かれ、動き始めた隊商を囲む位置に移動している。
 それはこの一行を『守る』ための配置に見えた。

 ……本当にこれ、どうなっているの?
 仮にここにいたのが私ではなく、物語上の正しい主人公『ルリ』だったとしても、おおいに困惑したことだろう。

 本来の物語の筋書きであれば、『ルリ』は悪役聖女セレスティーヌ、つまり私に冤罪で王宮から追い出されてしまう。
 その後アロイスに拾われるわけだけれど、追放された人間なので、彼女はロラン王国にはいられなかった。
 アロイスや隊商の人々は、王宮にいるセレスティーヌではなく『ルリ』こそが本物の聖女ではないかと察しつつ、彼女をただ元気付けてあげた。
 そして『ルリ』とともに、商売でさまざまな国を巡ることになるのだ。

 その『さまざまな国』の中に、ウェルディエ皇国は含まれていない。
 作中ではアロイスの口から自慢の故郷として語られるのみで、『ルリ』が実際にその国へ足を運ぶ展開はなかった。
 アロイスが彼女と一緒に養父のグレゴリーと再会するシーンはあったけれど、その場所はロラン王国でもウェルディエ皇国でもない、別の国である。
 グレゴリーはただ『大商隊の頭領』である『親父殿』として描かれ、漫画版の服装もアロイスが普段着ているものと大差はなく――いや、だいぶワイルドで派手めにしたような感じだった。

 ――あの物語、ロラン王国が舞台と言いながら、実際には三割もいなかったのですわよね。

 つまり七割はロラン王国以外での旅がメインだ。
 たくさんの国を巡りながらたくさんの冒険をして、いろんな人に出会い、経験を積んでいく。そうして『ルリ』の心は徐々に成長してゆくのだ。
 それがメインとして書かれていたからこそ、彼女がずっと一緒に旅をしてくれたアロイスを振り、結局なんの役にも立っていない顔だけ王子オーギュストを選んだ時は「なんでよ!?」と叫んだものだ。

 これまで育んできた心の成長とやらが、それだけで無に帰すほどの最悪の選択ではないか。
 せっかく積み上げた経験値をどこに捨ててきた。

『久しぶりに会うとね……過去の男がキラキラして見えるっていう現象があるのよ……あんたも気を付けなさい』

 記憶の中のお母様(作者)よ、その情報はいらな……いえ、先々とても役に立ちそうですが、でも今はもっと別の情報がほしいです。
 あの『ルリ』がよりによって王子を選んだのは、本性が見えていない段階で軽率な選択をしてしまったんだろうと想像はつくけれど。
 自分で美化したセピア色の記憶の中にいる、キラキラな王子様の外面そとづらに騙されて。

 ……王子の本性があんなのだったように、もしかして何か、胸の中であたためていた設定でもあったのだろうか?

 遠目にも大きいと感じていた門、その入り口をゆっくり通過する馬車の荷台から高い天井を見上げ、その壁の分厚さにごくりと息を呑んだ。


しおりを挟む
感想 294

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。

処理中です...