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ついに皇国へ
88. 食事を美味しくするスパイス
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とにかくロラン王国を出なければというのが先決だったから、そこ以外で、日々の暮らしに困らない程度の生活ができる場所であればよかった。
ならばずっと興味のあったアロイスの国がいいと、ただそれだけの理由だったので、長居できないことを残念がるほどの執着があったわけでもない。
その後はとんとん拍子に話が進んだ。
私はどこかの家のお抱えではなく、アロイスの隊商の専属魔法使いという扱いになる。
「また不便で面倒な旅暮らしをさせることになるが」
「いいえ! とても嬉しいですわ。是非わたくしを皆様の旅にお連れくださいまし」
アロイスが少しばかり申し訳なさそうに言うのに、またぶんぶんと首を横に振った。
実を言えば自分こそ、一緒に行かせてほしいとお願いしたかったぐらいなのだから。
仲良くなったジゼルやリュカ、肝っ玉母さんみたいなエディット、頼もしいヒューゴやエタン、賢いミュリエル。
あの隊商の人々の背を見送り、お別れしなくてもいいなんて、こんなに嬉しいことはない。
脱出だけでもかなりの迷惑をかけているのに、これ以上図々しいことは言えないと我慢していたことを、あちらのほうから言い出してくれてありがたいとしか言えなかった。
長い道のりを行き来する旅暮らしは、確かに輝かしいものばかりではないだろう。
まだ私の遭遇していない大変なことが、きっと数えきれないぐらいあるに違いない。
けれどそれらを分かち合う仲間の中に、是非私を加えてほしかった。
「あと、陛下と親父殿のことをそれほど怒らんでくれ。まず疑ってかかるのは、皇族としての習い性のようなものなんだ。そのせいで不愉快な思いをさせてしまったが……」
「もちろん、仕方のないことと理解しておりますわ」
最初の一歩目を間違えてしまうことなんて、誰にだってあることですよね。
最低な王族に振り回された経験のせいで、ややハードルが低くなっている気もするけれど、ちゃんとこちらの話を聞いた上で謝ってもくれたのだから今回は水に流そう。
私が笑顔でそう言うと、マティス陛下とグレゴリー、ゴーティエ総督はどことなくホッとした顔になった。
私みたいな小娘の気分を害したところで、ロランの王宮や神殿の人々ならこれっぽっちも気にしなかったろうに……ウェルディエ皇国の皇族は、意外と気遣い屋さんなのだろうか?
――先代の皇帝は性格が悪かったそうだし、たまたまこの人達が話しやすいだけかしら?
時間がちょうどお昼になったので、そのまま食事をいただくことになった。
これまでの旅ではありえなかった、贅を尽くした食事が出た。
王宮にいた頃もこんな食事だったけれど、あの頃は日々追い詰められている感が強くて、味なんてあまり感じなかった。
人にそれを話したら贅沢と怒られそうだけれど、実際に疲労が溜まり過ぎると味覚が鈍くなるというか、喉が詰まって食事が苦痛になるということはある。
これは前世の私も経験したことだった。何の仕事だったかは記憶があやふやなんだけれど、ピークの時期はゼリーと羊羹が命綱だったなぁ。
陛下達との食事はとても美味しかった。
心配事が片付いて、自分の希望も聞いてもらえたからかもしれない。
空腹は一番の調味料だけれど、話し合いがうまくいくことも素敵な調味料だ。
――わたくしにとっては、皆さんと一緒にいただくパンとスープが最高のお食事ですけれど。
隊商の皆と一緒に食べた、味気のない硬いパンと、そこらで摘んだ草や実を入れたスープ。
あれは今まで経験したどんな素晴らしい料理とも、比較できるようなものではなかった。
もちろんこの食事だって、ゴーティエ総督が皇族の皆様に失礼のないようにと気を遣って用意させたものだし、料理人達だって真剣に腕を振るったことだろう。
だから、どちらが良い悪いなんて失礼な話をするつもりはない。
あくまでも私個人の気分の問題だ。
この町に滞在する間はゴーティエ総督の邸宅に泊めてもらうことになり、アロイス達に町を案内してもらいつつ、旅の準備をすることになった。
聞けば隊商の人々は、この邸宅の別棟に泊めてもらえるらしい。
ここにいる間、彼らは使用人という形になっているので、気軽に私達が出向いたら困らせてしまうそうだ。
「町を出歩く時は、これまで通りに喋っも構わないぞ。珍しいものもたくさんあるから楽しみにしておけ」
「まあ、本当ですの? ふふ、楽しみですわ」
アロイスの言葉にマティス陛下達も微笑みとともに頷いているし、思った以上に昼食は気楽で満足度の高いものになった。
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