悪役聖女に転生? だが断る

日村透

文字の大きさ
30 / 203
ついに皇国へ

89. 大半の人は身から出たサビ、なんだけど

しおりを挟む

 アロイスは陛下達とまだ大事なお話があるということなので、私だけが部屋に下がらせてもらうことになった。
 話の内容というのは、これからのロラン王国との付き合いだ。

 ロラン王国の王宮と大神殿がとにかく悪質と思っていたら、実はそれだけじゃなかったらしい。
 私は知らないことだったけれど、『聖女をいただく国』ということを利用して、かなり好きにふるまっていた人が結構いたらしいのだ。
 特にアロイス達が不快に思っていたのが、ロラン王国の商人だという。

「自分達との取引を飲まないと、女神がお怒りになるぞ……そんな風におまえや女神の名を持ち出し、自分達に有利な商売を押し付けてくる者がかなりの数にのぼっていたのさ」
「ええぇ……?」
「そしてそれをロラン王国の王宮がよしとしているために、増長する奴らが後を絶たなかった」

 何それ。そんなことをしてたの?
 唖然とする私に、アロイスは「事実だ」と言いながら、お茶で喉を潤していた。

 国家間のやり取りでも、女神の名のもとにロラン王国側が一方的な要求を突き付けてくることが多く、その相手はウェルディエ皇国だけではなかったらしい。
 そんなことがずっと続いているものだから、『聖女セレスティーヌ』はともかく、それをとことん利用するロラン王国自体が前々からよく思われていなかったそうだ。

「アロイスの言う通りでな。我らはこれまで、かの国との敵対を避け、民の間の商売についても口出しは控えていた。だがこうなれば話は別だ。我が国の商人はすべて、あの国から引き揚げさせる」
「再戦のためという話ではないから、その点は心配せずともいいぞお嬢さん。純粋に国同士の商売を完全にやめるというだけの話だ。大昔ならともかく、今この時代にあの国を攻めたって、たいした利益なぞないからなぁ」

 再戦という言葉に一瞬ドキリとしたけれど、すぐに否定してもらえて胸を撫でおろした。
 だって、大商人グレゴリーの言葉だもの。
 私の気持ちを思いやって……とか、そんな綺麗な言い訳を使われたらむしろ怪しんでいたところだけど、利益がないとドライに言い切ってくれたおかげで素直に信じられる。

 ロラン王国と戦をすれば、このウェルディエ皇国の国力ならば、多分簡単に勝ててしまうんだろう。
 だけどそれでも、戦をして得られる利益と失うものを天秤にかけたら、わざわざやる旨味なんてない……そう判断したということなのだと思う。

 甘いと言われたとしても、攻め滅ぼされればいいとまでは思わない。
 だってそうなると、あの国王一家や大神殿を始めとする『聖女の加護』を商売道具にしていた人達だけじゃなく、素朴に真面目に生きてきた人々まで漏れなく大変なことになってしまうのだから。

 あの気取った王子様や大神官はこの先ずっと髪の毛爆発してしまえと、今でもしっかり思うけれど。
 なんなら親子仲良く蛍光色のレインボーカラーなヘアスタイルになってしまえばいいのよと思うぐらいだけど。
 そんな道化親子のせいで民が戦に巻き込まれるとなると、いくらなんでも後味が悪い。

「今後の方針がだいたい決まれば、あとでおまえにも話そう」
「ええ、お願いいたしますわ」

 まずは何を置いても情報交換が必要ということだろう。
 マティス陛下はグレゴリーやアロイス達を、いろんな国の生きた情報を与えてくれる存在として重宝しているのかもしれない。


 そうして私は与えられた自室に戻った。
 もとの服に着替えたいなと思ったけれど、汚れていたから洗浄中でまだ乾いていないということだった。
 残念。

 そして結局、アロイス達の話し合いはかなり長時間に及んだみたいで、私が彼に会えるのは次の日ということになった。
 アロイスだけじゃなく、グレゴリーからの話もたくさんあったのだろう。
 それに、マティス陛下は非公式……つまりお忍びという形でここに来ている。
 あの人が帰ってしまうと、住まいが皇宮なだけに、きっとそう簡単に会えなくなるのだ。
 国の方針とか、今後アロイスやグレゴリーがどこを通ってどの国に向かうかといった予定のすり合わせを行うのにも、考えてみれば一夜だけでは時間が足りないかもしれない。

 その夜はおとなしく自分の部屋で夕食を摂り、上等な寝台へ横になった。
 広い部屋でいい香りもするし、至れり尽くせりの環境なんだけれど、なんだか落ち着かなかった。


しおりを挟む
感想 305

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜

野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。 しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。 義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。 度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。 そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて? ※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。