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ついに皇国へ
89. 大半の人は身から出たサビ、なんだけど
しおりを挟むアロイスは陛下達とまだ大事なお話があるということなので、私だけが部屋に下がらせてもらうことになった。
話の内容というのは、これからのロラン王国との付き合いだ。
ロラン王国の王宮と大神殿がとにかく悪質と思っていたら、実はそれだけじゃなかったらしい。
私は知らないことだったけれど、『聖女を戴く国』ということを利用して、かなり好きにふるまっていた人が結構いたらしいのだ。
特にアロイス達が不快に思っていたのが、ロラン王国の商人だという。
「自分達との取引を飲まないと、女神がお怒りになるぞ……そんな風におまえや女神の名を持ち出し、自分達に有利な商売を押し付けてくる者がかなりの数にのぼっていたのさ」
「ええぇ……?」
「そしてそれをロラン王国の王宮がよしとしているために、増長する奴らが後を絶たなかった」
何それ。そんなことをしてたの?
唖然とする私に、アロイスは「事実だ」と言いながら、お茶で喉を潤していた。
国家間のやり取りでも、女神の名のもとにロラン王国側が一方的な要求を突き付けてくることが多く、その相手はウェルディエ皇国だけではなかったらしい。
そんなことがずっと続いているものだから、『聖女セレスティーヌ』はともかく、それをとことん利用するロラン王国自体が前々からよく思われていなかったそうだ。
「アロイスの言う通りでな。我らはこれまで、かの国との敵対を避け、民の間の商売についても口出しは控えていた。だがこうなれば話は別だ。我が国の商人はすべて、あの国から引き揚げさせる」
「再戦のためという話ではないから、その点は心配せずともいいぞお嬢さん。純粋に国同士の商売を完全にやめるというだけの話だ。大昔ならともかく、今この時代にあの国を攻めたって、たいした利益なぞないからなぁ」
再戦という言葉に一瞬ドキリとしたけれど、すぐに否定してもらえて胸を撫でおろした。
だって、大商人グレゴリーの言葉だもの。
私の気持ちを思いやって……とか、そんな綺麗な言い訳を使われたらむしろ怪しんでいたところだけど、利益がないとドライに言い切ってくれたおかげで素直に信じられる。
ロラン王国と戦をすれば、このウェルディエ皇国の国力ならば、多分簡単に勝ててしまうんだろう。
だけどそれでも、戦をして得られる利益と失うものを天秤にかけたら、わざわざやる旨味なんてない……そう判断したということなのだと思う。
甘いと言われたとしても、攻め滅ぼされればいいとまでは思わない。
だってそうなると、あの国王一家や大神殿を始めとする『聖女の加護』を商売道具にしていた人達だけじゃなく、素朴に真面目に生きてきた人々まで漏れなく大変なことになってしまうのだから。
あの気取った王子様や大神官はこの先ずっと髪の毛爆発してしまえと、今でもしっかり思うけれど。
なんなら親子仲良く蛍光色のレインボーカラーなヘアスタイルになってしまえばいいのよと思うぐらいだけど。
そんな道化親子のせいで民が戦に巻き込まれるとなると、いくらなんでも後味が悪い。
「今後の方針がだいたい決まれば、あとでおまえにも話そう」
「ええ、お願いいたしますわ」
まずは何を置いても情報交換が必要ということだろう。
マティス陛下はグレゴリーやアロイス達を、いろんな国の生きた情報を与えてくれる存在として重宝しているのかもしれない。
そうして私は与えられた自室に戻った。
もとの服に着替えたいなと思ったけれど、汚れていたから洗浄中でまだ乾いていないということだった。
残念。
そして結局、アロイス達の話し合いはかなり長時間に及んだみたいで、私が彼に会えるのは次の日ということになった。
アロイスだけじゃなく、グレゴリーからの話もたくさんあったのだろう。
それに、マティス陛下は非公式……つまりお忍びという形でここに来ている。
あの人が帰ってしまうと、住まいが皇宮なだけに、きっとそう簡単に会えなくなるのだ。
国の方針とか、今後アロイスやグレゴリーがどこを通ってどの国に向かうかといった予定のすり合わせを行うのにも、考えてみれば一夜だけでは時間が足りないかもしれない。
その夜はおとなしく自分の部屋で夕食を摂り、上等な寝台へ横になった。
広い部屋でいい香りもするし、至れり尽くせりの環境なんだけれど、なんだか落ち着かなかった。
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