巻き戻り令息の脱・悪役計画

日村透

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番外・後日談2

IF話 幻のNGシーン集 ~1巻~ 其の二


 書籍化に伴うNGシーン第二弾です。
 其の一と同じく、NG箇所は原文ですがその他の箇所は部分的に修正を入れております。

 ※心の広い方は下にお進みください。
 ※本編未読の方は避けてくださいませm(_ _)m

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「汗を、流して、きます。あなたは、そこに居て、ください」
「え?」
「私が、戻るまで……逃げずに、居てくださいよ。絶対に。逃げたら、怒ります」

 いやもう、怒ってるじゃん……なんて言いません、言いませんとも。だからそんな睨まないでってば。
 アレッシオは俺が頷くのを確認し、それでも信用ならなかったのか、俺の服を掴んでふらふらと浴室に持って行ってしまった。
 マッパじゃ廊下に出られないよね、うん。
 春先とはいえ夜は寒く、ソファにあった膝掛けを取ってくるまった。

 電力はまだないけれど、上下水の設備はしっかりしていて、風呂には水の出るポンプと熱湯の出るポンプがある。
 見た目は井戸で見かける手押しポンプに似たやつで、熱湯を溜めておくタンクがあるんだよね。夏場は熱湯タンク周辺の地獄度が上がっちゃうから、湯が欲しければその都度、厨房で沸かして運んでもらうか、水浴で済ませる。
 その他住み込みの使用人の風呂は共同で、入っていい時間が決まっている。風呂付きの個室を与えられている執事とメイド長は、職務に障りがない範囲で自由に風呂に入れるんだ。

 アレッシオは十分もしないうちに出てきた。大量に汗をかいただけじゃなく、出すものも出したんだろう。
 部屋置きの飲料水の容器に直接口をつけ、グラスを使わずそのままがぶ飲み。ごくごく上下する喉から目が離せない。

「ふー……」

 満足したのか、袖で乱暴に唇をぬぐった。さっきまでと別のシャツは、上のボタンが二つまっておらず、湿った髪は適当に指ですいただけ。
 普段の禁欲的な姿が嘘のような色気爆弾は、なんということでしょう、ゲームの攻略対象アレッシオにそっくりではないか。
 ゲーム時より若いけど、眉間に深ぁ~い谷を作り、憎々しげに睨んでくるこの表情、まさに悪役令息に向けていたあれだよ。

「何を泣いているんですか。泣いても許しませんよ」

 わぁ、容赦ない―――え、俺、泣いてる?
 指でほっぺに触ってみれば、確かに濡れていた。変だな、巻き戻ってからは一度も泣かなかったのに、怒られるのが怖くて泣くなんて子供みたいな反応じゃないか。
 アレッシオは大きく息を吐き、相変わらず絨毯の上で体育座りをしている俺の真ん前にあぐらをかいた。
 完璧執事のアレッシオが、まさか床であぐらをかくなんて誰にも想像できないのではないか。

「……今夜のことは、旦那様にも、誰にも言いません。私の胸にだけ秘めておきましょう」
「っ! ……ほんとか!」
「言えるものでもありませんがね。ええ、できるものですか、こんな報告。あなたにとって大恥になるでしょうが、私にとっても致命傷ですよ、こんなのがバレでもしたら」

 イラついて髪をかき上げる仕草まで色っぽい。しかも口調が丁寧でありつつ崩れているのもまたいい。
 座っているのに何故かいつもより大きく見えるし、乱暴そうな雰囲気が怖くてドキドキなのかうっとりドキドキなのか、わかんなくなってきたな。
 ほんとすみません、こんなポンコツな変態で。

「あなたにお聞きしたいことが、山ほどできてしまいました。まず、『五年』と仰いましたね。父からは聞いておりませんが、何か持病でもお持ちなのですか」

 持病。……ヘンタイ病にむしばまれ、脳が腐った以外は至って健康体です。

「何も、ない」
「本当に? 正直に言ってください」
「本当だ。五年で、片付けるつもりだった。だから、そう言った」

 アレッシオの眉間の谷がますます深くなった。何を片付ける気なのか、想像を働かせているのかもしれない。

「では、先ほどの薬について。あれはどこで、どのように入手なさったものですか」

 うん、それね、学園で偶然会った親切なマルコくん達に教えてもらったんだよ。マルコくんは高等部の先輩から教わったんだって。なんか俺の部屋に材料ぜんぶ揃ってんじゃね? ってピンときたから、つくってみたんだ~。

 正直に話したら、アレッシオは口に手を当てて考え込んだ。「リーノ家の…」と呟いて眉間の谷を消したから、冷徹な執事モードに入って今後の処理方法でも検討しているんじゃないかな。
 ブルーノ親子は平民だから、貴族を処分なんてできないんだけどね。そのはずなんだけどね。

「あなたはすべてのパーティーへの出席を禁じられており、親しくされている方はいないと聞いていたのですが」
「その通りだ。かなり幼い頃、何かのパーティーに顔だけ出して、意味不明な言いがかりで叱責されて引っ込んだ。それが最後だ」

 何人かの子供に挨拶されたから、多分マルコもその中にいた。以降は誕生日パーティーすら一度もない。俺が『人前に出せないほど礼儀がなっていない』からだ。
 領民の評判は順調に改善が進んでいる一方、貴族間では今も変わらず、「ロッソ家の長男は昔から能力も人格も問題があり、このままでは後継ぎの座は怪しいのでは」と噂されている。
 アレッシオは再び眉根を寄せた。

「何故、あなたばかりがそんな……」
「誕生祝いなら、イレーネとジルがいつもこっそり祝ってくれている。それで充分だ」

 強がりじゃないぞ。メイド達も花を編んで部屋を飾ってくれたり、庭師のおっちゃんが小さな鉢にフラワーアートを作ってくれたりと、目立たない範囲でみんなが誕生日ムードを演出してくれる。
 巻き戻る前に比べたら、毎日遥かに快適だ。

「マルコ・リーノも当然、親から私の噂を聞かされているはずだ。だからこそ、私に寄生できるのではと近付いてきたのだろうな。顔は覚えておらずとも、この特徴的な髪と目の色で、今春入学予定の私だとすぐにわかる」
「……あなた、それほど聡明なくせに、発揮する方向を間違えすぎなんですよ」

 呆れ果てたと言わんばかりの目で溜め息をつかれた。
 しゅーんと反省の気持ちが湧くけれど、なんだろう。アレッシオが相手だとストレスゲージは全然溜まらないな。理不尽さがないからだろうか。

「味方が欲しい、ということでしたね。いざという時、何をおいてもあなたの味方をする者が」
「うん。補足するなら、多くの人間を動かせる立場にあり、上手く立ち回れる者だ。私の利になるよう動きながら、自分の身も守れるような」
「お眼鏡にかなって光栄です。――私の出す条件を二つ呑んでくださるのなら、それを対価として五年間、ご希望通りあなたを主君と仰ぐことを約束しましょう。いかがですか」
「っ……その条件は、私に可能なことだよな?」
「もちろんです。まず一つめ、この問いに偽りなく答えてください。……このような真似をなさったのは、何度目ですか」

 質問の意味がわからず、目を瞬いた。

「何者かに……どなたかに、お身体を差し出されたことは。あるいは、望まぬ行為を強いられたことはありますか。未遂も含めて」

 ――あ。これはもしや、虐待でそういうことをされてたんじゃないかって質問か。

「いや、ない。ないぞ」
「嘘ではないでしょうね?」
「誓って真実だ。そういう行為は今まで、したこともされたこともない」

 あの野郎にテゴメにされそうになったら、後先考えず反撃してぶっ殺す未来しか見えんわ。
 そうなれば俺は即座に投獄、ロッソ家はどこからともなく出てきた自称親戚に乗っ取られ、イレーネ親子は路頭に迷うだろう。
 実は本気で暗殺計画を練ってみたりもしたんだけどさ、成否がどうであろうと子供の力じゃイレーネ親子を守りきれない結果になるのがネックで、今は断念するしかなかったんだよ。そこまでやばいお子様だと思われたくないから、アレッシオには内緒だけどさ。
 でも当然ながら、俺の信用は地に落ちていた。

「確認いたします」
「えっ」

 膝掛けをぎ取り、アレッシオは丁寧に俺の身体をチェックし始めた。
 腹や背中やふとももの内側、後ろ向きにさせて尻たぶを掴んで広げ、あなの状態を……
 泣きました。中までは触られなかったけどさ、それはもう全身をくまなく、じっくり全部見られちゃいました。

「この程度でメソメソするくせに、身体を使おうというのが無茶なんですよ」
「ぐす……」
「多少乱暴に扱って構わない? 冗談よしなさい。私がそういう男であれば、あなた大怪我では済みませんよ。舐めすぎです。二度とあのような薬を使ってはなりません。いいですね」

 ギロリと睨にらまれ、コクコク頷いた。
 めっちゃ怖いです。重々しい声による丁寧語の説教も怖い。
 もう絶対やりませんと視線に気持ちを込めまくったら、アレッシオは「よろしい」とひとまず満足してくれた。よ、よかった。

「では二つめです。あなたが十六歳の成人の日を迎えた暁には、抱かせてください」
「……はっ?」
「十六の誕生日がきたらその身体をくださいと言っているんです。急用が入ることもあるでしょうから、数日の延期なら許容いたしますよ」
「……え……?」
「嫌なら結構です。この取引はなかったことに……」
「待て、嫌じゃない! 嫌じゃない!」

 ……慌てて止めるのはともかくさ。なんで二回言ったの俺。
 大事なことだもんね。仕方ないよね。
 ほらみろ、「ふっ」と鼻で嗤われてしまったじゃないの。くっ、顔が熱いぜ。

「なら、呑みますか?」
「の、のむ」
「では、契約成立です。これより五年間、あなたが私の真の主君であり、いついかなる時も忠義を尽くすと約束いたしましょう。私以外の者に決してこの身体を与えてはなりませんよ。これは私がもらう報酬なのですから、大事にしてください。いいですね?」

 あー……これは、だから自分を粗雑に扱うなよって、普通に釘を刺されてんのか。
 失敗した今となっては、多少の自棄やけが入っていたと思うし、素直に頷いておこう。 

「約束ですよ。我が君」

 アレッシオは俺の手を取り、口づけた。
 手の甲でも指先でもなく、付け根の部分に――唇で少し、食むような感じで……

 全身に痺れが走り、ぶっ倒れるかと思った。

 上目遣いで指を『はむ』は危険です。心臓の弱い方はお気を付けください……。


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