巻き戻り令息の脱・悪役計画

日村透

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番外・後日談2

IF話 幻のNGシーン集 ~2巻~


 書籍化に伴うNGシーン第三弾、これがラストとなります……。
 何故ここが変更要だったかというと、二十代のアレッシオに対し、オルフェオがこの時点でまだ十六だったからですね。
 NG箇所は原文ですが、その他の箇所は部分的に修正を入れました。

 ※心の広い方は下にお進みください。
 ※本編未読の方は避けてくださいませm(_ _)m

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 もしアンジェラが、ヒロインのままだったら。
 アレッシオのこの想いさえも、消してしまっていたのではないか。

 俺が牢獄にいた頃、ジルベルトが会いに来た。あの時、ジルベルトは俺を見て、本当は何を思ったんだろう。
 その次に来た男はアレッシオだ。彼は俺を見て何を思い、何を感じていたんだろう。
 俺への恨みは。怒りはどうなっていたんだ。
 もしや二人とも、何も感じていなかったのではないか。

 惨めな俺の姿を見下ろしてもむなしさしかなく、かたきを取った達成感もよろこびも、何もなかったのだとすれば。
 俺があのゲームのヒロインに共感できなかった最大の理由は、多分これだ。
 あれは究極的に、何もかもすべて『無かったことにすることで救われるストーリー』だった。
 苦しみも悲しみも、アレッシオがこうして語ってくれる過去の気持ちさえ、消して終わり。
 それが本当に、救いになるのかと。

『父を殺した者の末路を、目に焼き付けに来た』

 去り際にそれだけをぽつりと口にした彼の奥底で、消されてしまった幼い頃のアレッシオの想いが、叫んでいた気がする。

「もしやご存じでしたか?」
「……ブルーノに聞いたわけではないぞ」

 反応を見ていれば、俺がそれをとうに知っていたのだと察するだろう。
 どうやって調べたのかとは訊かずに、アレッシオはただかすかに笑った。それは決して嫌な感じの笑い方ではなく、むしろどこかスッキリしていて、彼の中で何かを乗り越えたのだろうと感じるものだった。

 アレッシオはおもむろに立ち上がり、ほんの数歩で俺の前まで来ると、膝を突いて片手を取った。
 俺のカップはもう空になっている。いつの間にか全部飲んでしまったらしい。ソーサーに置くと、少し大きな音が立った。動揺していますと白状しているようなものだ。
 けれどアレッシオは、俺を嗤ったりしなかった。
 己の命を消費するなと叱られた、いつかの時とまったく同じ状況で、けれどまったく違う点がある。
 俺はもう『子供』ではなかった。そんな俺を、どこか熱をたたえたとび色の瞳が見上げてくる。

「あなたがもし私の前から消えてしまったら、自分がどうなってしまうのか、何度も想像してみました。何度でも同じ。土くれになって消えたほうがマシだと思いました」
「それはっ……ダメだ。おまえが、土くれなんて」
「でも、そうなるんですよ。私にとってあなたはそういう存在です。我ながら随分と、重い男に成り果てたなと呆れるしかありませんが……」

 昔はけっこう遊んでいたのですがね。自慢にもなりませんが、とアレッシオは自嘲した。
 うん、知ってる。想像もつく。モテモテだったんだろ。
 トラブルにならないように、賢く遊んでた気配ありまくり。執事になるにあたって、遊ぶのをやめてそう。

「重い上に、自分でも驚くほど執着心が強いようで。根に持ちますし、あなたに関しては妥協の欠片かけらもしたくありません」
「う、ん……」
「もしもそういう私にうんざりしたとしても、私が勝手に、あなたが私のすべてだと想うことぐらいは許してください。あなたの命が、私の命だと」

 視界が一気ににじんだ。なんでここでぼやけるんだ、アレッシオの顔を見ていたいのに。
 いつも目を逸らしてしまうから、今日ばかりは頑張って目を合わせていたのに、こんな時に限って。
 どばどばと勝手に流れ落ちる滝が憎い。拭っても拭っても止まらない。

「ああ、こすってはいけません。れが引かなくなってしまいます」
「っ、……だってっ……」
「だめですよ」

 両手を取られた。そのまま、指と指を絡めて捕まえられる。
 顔が近付いて、額に――じゃない。
 あ。くちびる、に……え?

「……ふ、……?」

 あ。これ。これは。
 口と。口が。え、ちょっと、え!? うそ!?
 
 指がほどかれた。これまでいつも頬に添えられるだけだった片手は後頭部に回され、もう片方の腕は背中に回された。
 唇に唇を押し付けるだけ。初級も初級編の、軽いものだ。
 そのはずだ。そのはずなのに、なんだ、これは。
 ザワザワと背中が揺れる。指先がしびれる。頭の芯がとける。めまいがする。

 包み込まれると同時に、逃げを許さない確かな感触。角度を変え、むように動く。
 唇が唇に、触れているだけ、なのに。

 やばい。これ、やばい。
 なんかやばい……!

「あ、ふ……っ」
「っ!!」

 バッ! と顔が離れた。
 ――あ? な、なんだ……?

「……?」

 急に顔を話したと思ったら、何故かいきなり俺の胸というか、鎖骨のあたりに頭を押し付け、長々と溜め息をついている。
 顔が全然見えないんだが、いったいどうした。
 気のせいかほんのちょっとだけ、耳が赤いような……?

「アレッシオ……?」
「……いえ。思った以上に、くるものがありまして。少々、落ち着かせてください……」

 ……あ、うん。な、なるほど。そうね。
 俺もその、結構、くるかとおもいました……。


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