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番外・後日談2
俺とアレッシオと湯けむりの旅 (5)
アレッシオの手が臀部から太ももの裏を伝い、ズボンをパンツごとズルリと脱がしてくる。
あうあうどうしようと顔を逸らしたら、視界の中に窓が入った。
冬の冷気の中、もうもうと立つ湯気――ここに至って、俺はハタと思い出す。
「アレッシオ! 待て、ちょっと待ってくれ!」
「……はい?」
「入浴、入浴が先だっ!」
ついムードに流されてというか、アレッシオの眼光に呑まれて、この場でおっぱじめそうになっちまったけど。
なんというか俺は、する前にしっかり身体を綺麗にしておきたいというかだな。
入る前からのぼせてしまったら、せっかくの温泉風浴場、楽しむ余裕が全然なくなるかもしれないじゃないか。
「こら、不満そうにするな」
「……仕方ありませんね」
ものっすごく不満そうな顔と声で言うと、アレッシオは素直に(?)俺から身体を離した。
お互いの間に冷気がスウ、と通り、俺はホッと息を吐く。
冷気が通るなんて言ったら、普通はよくないシチュエーションを指すんだろうけど、今俺の中にあるのは窮地を脱することができた安堵だ。
視線を巡らせると、クラバットを置いたテーブルの上に、陶器製のピッチャーと逆さに置いたグラスもある。
おそらく湯上がりに飲んでくださいという意図で置かれていたんだろう。俺はグラスを持つとピッチャーから中身をそそぎ、ごくごくと飲んだ。
冷たい果実水が喉を通って腹の中に流れ落ち、昂っていた身体が心なしか収まる。
いかにも脱がされかけていますという、半脱げどころか七割脱げの姿で飲み物を飲んでいる俺、はたから見たら相当みっともないだろうな。
乾いた笑いを漏らしていたら、しゅるる、バサバサ、と布のこすれる音がした。
アレッシオが自分の服を素早く脱いで、近くの椅子の背もたれにかけている。
真に格好いい奴って、脱ぐ姿すらも格好いいんだよな……なんて、いかんいかん。じっくり見惚れている場合ではない。
俺もとっとと脱いで風呂に突入しなければ、グズグズしているとさっきの続きが始まってしまうぞ。
「いけませんよ」
「えっ? ちょっ……」
もはや身体に引っかかっていただけの服を自分で引き抜こうとしたら、アレッシオの手に妨害された。
「私がやると言ったでしょう?」
「あ、んむぅ……」
しかも俺の苦情を封じるために、ディープなキスで文字通り口を塞いできやがった。
だからおまえ、そうやってじっくりねっとり脱がすなっつうの! おまけに今度は彼も裸になっているから、遮るもののない素肌と素肌が擦れ合って……あああ……
せっかく冷え冷えの果実水を飲んだのに、俺のそこはまたもや元気になってしまった。
そうやってたっぷり翻弄しておきながら、ちゃんと俺が暴発する前に顔を離し、満足そうにぺろりと唇を舐めるアレッシオ。
このやろおおおう!
鎮まれ俺! と心の中で唱え、肩を怒らせながら背後を振り向かずにずかずか歩き、ガラス戸に手をかけた。
アレッシオもどうやら俺と近い状態になっていたのか、果実水を飲んでいるのが音でわかる。
それを聞きながら扉を開け――これ以上なく目を見開いた。
「う……わ……!」
湯気がすごい。こちらの世界ではなかなかお目にかかれない光景だ。
ただ大きい風呂と湯気があるだけなら、使用人の共同風呂でも見られるだろう。しかしここにあるのは、何もかもが根本的にそれとは別次元だ。
中央には角を取った長方形の浴槽がある。入れ物を運び込んで設置するという、こちらの世界によくある浴槽ではない。
浴槽周りの床よりも深く掘り込んだ、たとえるなら豪邸の庭にあるプールみたいなやつだ。
床材には暗い色合いの、濡れても滑りにくそうなザラついた石材が使われている。
貴族の館の内庭としては狭いが充分な広さがあり、人の頭の位置よりも高い壁で囲まれ、覗かれる心配はない。
壁の内側には段差があり、そこには低木や細い木の植え込みがあって、葉がすべて落ちているものもあれば、ほとんど落ちていないものもあった。
それらは雪の白化粧を纏っている。星のない明るい月夜の下、壁の内側に設置された灯火がガラスの蓋の向こうから照らし、雪は青とも橙色ともつかない色に染まっていた。
いかにも冬の庭の温泉という風情である。
汲み上げた地下水を沸かして溜めたものだから、厳密には温泉ではないのだが、これはそう呼びたい雰囲気だ。
おまけに設計者は俺の希望通り、防音にもしっかり配慮してくれた。彼は何やら金属と石材を使って両手サイズのプレートを作り、それを壁の内側に埋め込むように指示をして、何かがあった時のための呼び出しベルも設計に盛り込んだ。
呼び出しベルはあれだ、この別荘には防音がしっかりしすぎている場所がそこかしこにあるから、紐を引っ張ると使用人の待機室のベルが鳴るというやつ。
それと、防音用のプレートは壁に埋め込むのでそうそう壊れたりしないけれど、万一のこともあるから、ここに泊まる時は念のために子猫も連れてくることを推奨とかなんとか……
……うん。
とにかく、すごいのを設計してくれた。
それでいいのだ。
俺は石床の上をぺたぺたと歩く。
温かい。ここの床下、温水を流して温めるという、床暖房の仕組みを取り入れているのである。
あいつ、時代を先取りしすぎ……いえ、ありがとうございますほんとに。
仮に凍結してもすぐに溶かせるよう、石材の隙間から湯を流し込めるようにもなっているんだぜ。凍ったらすぐに詰まるパイプではないのだ。
俺は浴槽近くに置かれていた桶を手に取り、湯をすくって身体にかけた。
うお、あったけぇ……!
細い川のような水路が設けられ、そこを通って常に湯が供給されているから、浴槽が空っぽになる心配もない。
常に湯を沸かす燃料代がもったいないと言えば言えるけど、側近達いわく毎日ここに来るわけでもないんだから、このぐらいは浪費のうちに入らないそうだ。
ざぷんと湯に入ると、知らず骨まで冷えかけていたのか、全身に熱が染み渡る。
「くう、きもちいい……!」
満面の笑みで肩まで浸かると、背後で湯を流す音がした。
アレッシオだ。
なんとなく、浴槽の端まですすす……と逃げる俺。
いや、ここ、広いけどね? 別に俺が端っこに寄らなくても、大人が四人ぐらいは足を伸ばして入れるぐらいの広さはあるけど、なんとなくだよ。
「何を逃げているんです?」
「……!!」
背後でざぷりと音がしたと思ったら、両脇からにゅっと腕が伸びて、背中から抱きしめられてしまった。
素肌! お湯、お湯が!
なんかいい感じすぎてやばい!
「気持ちいいですね……」
「あ、ああ……」
アレッシオは俺を懐に抱き込み、浴槽のふちにもたれかかった。
そして俺がもたれかかるのは、アレッシオの胸。
……滞在日数、早くも延ばしたくなってきた。
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