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ロッソを継ぐ者
97. 執務室のお掃除と進化した栄養補給
しおりを挟む爆発しそうになる胸を押さえながら、ぎゅっと瞼を閉じた。
「ン……」
スルリと、唇が唇を撫でてくる。
これだけで呼吸が荒くなってしまった。
「あっ……む……っ?」
うわ、舌が! 舌が入って……!
隙間からぬるりと侵入し、奥に引っ込んだ俺のそれを絡めとりにくる。深く重なり、擦れると言うより、文字通り舐められて……ズンと腰が重くなった。
「待っ、……んんっ……!」
舌で舌を舐められている。なのに全然気持ち悪さがない。びりびりと痺れる指先をどこに持って行ったらいいのかわからなかった。
怖い。でも抵抗したくない。
ぞくぞくと寒気のような熱が腰に集まる。息が苦しい。目尻が濡れてくる。角度を変えられて、もっと唇が深く重なった。
どうしよう。溺れる。沈んでしまう……!
「! ……ぁ?」
「……っ」
引きはがすように、いきなり唇が離れた。互いの唇から引いた糸が、俺の顎をひたりと濡らした。
ギラついた鳶色の瞳が俺を捕えながら、裏腹に優しい指でぬぐう。
「申し訳ありません……これ以上は、加減が、出来なくなりそうです……」
え。加減?
「後ほど、衣類の手入れに参りますので。適当にこの辺りにかけて、休んでおいてください。私は少々、頭を冷やしてきます」
ボンヤリとその言葉を聞きながら、俺の答えを待たずに部屋を出ていく背中を見送った。
頭の芯がぐにゃぐにゃになって、まともに働かない。
「…………加減?」
……されてたの?
ええと。ちょっと待って。手加減されて、あれですか? ということは、加減ゼロになったら、なにがどんなことに……?
無意識に子猫を撫でた。その手のことに関する想像力が貧相過ぎて、すぐに限界にぶち当たる。ゲームによってはモザイク入りのスチルだって見たはずなのに、モザイクの記憶しかなくて結局よくわからんぞ、なんてこった。あの乙女ゲーム以外のゲーム知識はどれも曖昧だからなぁ……。
なでなでなでなでなで……つぶらなアイスブルーの瞳が、きゅるんと見上げている。
―――はうぁあッ!?
「僕はただの子猫だにゃん。なんにも見てないにゃん」
嘘こけ!!
はっ、もしやおまえ予知能力でもあんのか!? ここにおまえのベッドを置けって言ったのは……!
「んなもん無いっての。もともとの流れだって変わっちゃってるしさー。僕のベッドの横におまえらが後から来て、勝手にむちゅむちゅ始めただけじゃん」
あああああそうですね失礼しました! なんか俺、こんなんばっかりだな。
しかもよく見れば俺のそこは、ほんの~り勃ちかけているではないか。ちゅうだけでコレとは、俺はどんだけ初心者なんだ。
これで巻き戻り前はプロのお姉さんと遊んでたんだぜとか、ちゃんちゃら可笑しいわ。はは……。
水飲んでスッキリして着替えて寝よう。そうしよう。そうだ、俺は長旅で疲れているんだ、きっとそうだ。
言われた通り脱いだ服をソファにかけて、ベッドで布団を頭から被っていたら、しばらくしてアレッシオが来たようだ。シワにならないよう衣類を丁寧にととのえる気配、それからまたパタンと音がして静かになる。
おやすみのキスはなしか……そりゃそうか。安堵と残念でグラグラ揺れる天秤の幻を見ながら、頭を枕に埋めた。
眠気はなかなか訪れてくれなかった。
■ ■ ■
昨夜の余韻にほわほわと浸る間もなく、仕事は容赦なく押し寄せる。あの蜘蛛野郎が自棄になって何もかもを投げ出し、王都で遊び暮らすようになってから、適当に放置されていたあれこれがリストとなって、俺の意識を奪いにかかってきた。
俺は思った。ほんとコレをどうにかしなきゃ、アレッシオと呑気にむちゅむちゅしてられんわ。あいつと一緒にいる時に、視界の片隅で常に仕事の二文字がチラチラする日々なんて冗談じゃない。
その時が怖い怖いとびびっていたけれど、腹を決めた。
十八歳の春が来たらもう、容赦なくガツンとヤってもらおう。
あれもこれも全部きれいさっぱり片付けて、心おきなくモザイクの向こう側の世界にダイブしてやる。その日のために俺はすべてをやりきって、全力で生き抜いてやる……!
「閣下、大丈夫ですか? 目が据わって……いえ、すみません。愚問でした」
子猫のリミットまで、その日から半年ぐらいしかないけれど、その間、アレッシオの心残りを微塵も残さない勢いで、とことん好きにしてもらおう。
まずは体力づくりだな。簡単に昇天しないよう長持ちする身体づくりを……いや、俺の行き先は天じゃないか?
ん? ラウルくん、さっき何か言った? ああ気のせい? ごめんね。
つか誰だこの書類作りやがった奴! 領主の側近が算数もできねえのか!?
厨房のお掃除が済んだ後は執務室のお掃除だ。
フェランドの部下はイエスマンか、もしくはそれを装いながら良い目を見ようとする二枚舌ばかりだった。
全員首を切り、前々から目星をつけていた者に替えた。
能力で選びはしたが、中にはプライドの高い者もいた。直接会うのは初めてだから、聞いた話や書類だけではわからなかった部分も出てくる。
「私がおまえのあるじに相応しいかどうかなど、自分が試せる立場にいる何様だと勘違いをしているのだ。くだらん自惚れに無駄な時間を使わせるような阿呆は要らん」
そーゆー構ってちゃんがいてムカついたから、鼻っ柱をポッキリへし折ってやったよ。なんで俺がおまえらに認められるためだけに、時間や頭のスペースを特別に割いてあげると思ったのかね。こっちゃ忙しいし、真面目に働いてくれる部下もいっぱいいるんだよ。仕事する気がねえんならどっか行きやがれ。
腹を立てて辞めるかと思いきや、俺を見返してやるとか鼻息荒く宣言して辞めなかった。めんどくせぇ奴だな。
そいつはニコラの傍に配置した。世の中、自分より優秀な奴がいるんだなと悟るがいい。
ブルーノ父に鍵を開けさせ、主人でなければ触れられなかった極秘資料を仕舞い込んだ部屋も、すべてが俺に開放された。
そして些細な違和感にも発揮されるニコラの記憶力が爆発し、あやしい資料だけじゃなく、奥にあった隠し部屋まで見つけてしまった。
資料棚の裏の壁に出入口が隠されていて、部屋というよりウォークインクローゼットに似たそこは、おそらく後継者に伝えるためであろう超・極秘資料でギッシリだった。
「すごい、こんなに詳細な記録を残していたんですね」
「ここまで細かく記しているところなど、他領にはないでしょうね」
ロッソ伯爵領内のどこで、いつ、何が起こり、例えば水の溢れた地域があれば具体的な範囲や、引いた日付など、外には全く出ていない記録の山だった。これらをもとに、曾お祖父様やお祖父様が綿密な計画を立て、とんでもない予算と年月をかけて進めてきたというのに……。
でもこれのおかげで、俺達も格段にやりやすくなった。安全地帯の割り出しができるから、今まで商会が建ててきた避難所(仮)の場所とも照らし合わせ、適切かも確認できる。
その日は全員で執務室へこもりきりになり、うっかり昼食を抜いてしまった。
夕食を各自の部屋に運んでもらい、風呂に入って、汚れだけじゃなく出来るだけ疲労も取る。明日もまだこれが続くのだから。
「アレッシオ……」
「だから、寝てくださいって」
おやすみのキスはもらった。いつものやつをな。でもな、俺は昨夜のあれが欲しいんだよ。
フェランドの腰巾着どもをまとめて柱に縛りつけ、そいつらの足元で計算の合わない書類の焚火をしてやりたいのも我慢したんだ。
脳髄が痺れるぐらいのあれをもらって、頭ぶっ飛ばさないと眠れる気がしないんだよ。
「わかりました、わかりましたから。少し待ってください」
アレッシオは掛け布団で俺の身体をぐるぐる巻いた。なぜだ。
「こうしておかないと、途中で脱がします」
了解です。危険なんですね!
不格好なダンゴというかチョココロネ状ではあったけれど、アレッシオはぎゅっと抱きしめてくれた。それから、深い深いキスをくれた。
軽いもので様子見をすることもなく、最初から深い口付けだった。鼻にかかった声を出してしまって、恥ずかしいと思う間もなく体重をかけられ、押し倒された。
「ぁ、ぁ……」
枕に後頭部が押し付けられるほど強い口付けのさなか、布団の上から大きな手がまさぐってくる。感触はわかりにくいけれど、この巻き巻き布団がなければ、確実に脱がされていた。
舌に舌を絡められ、吸い上げられ……濃厚な口付けが終わる頃にはすっかり息が上がり、意識も半分どこかへ飛んでいた。
ふわりと睡魔に攫われる直前、アレッシオの声を聞いた気がした。
「もしや、これからこれが毎晩か……?」
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読んでくださってありがとうございますm(_ _m)
次話の投稿は明日になります。
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