巻き戻り令息の脱・悪役計画

日村透

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そして始まりへ

134. 憶えていたのか

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 いつも読みに来てくださる方、初めて来られる方もありがとうございます。
 予告なく更新数変わって申し訳ありませんm(_ _m)
 本日は1話更新です。

※追記:違和感があったので副タイトル変更+本文冒頭一部カットしました。(7/25・8:00)
 本日いつもの時間帯にまた投稿と感想の返信をさせていただきます!

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 巻き戻り前の俺が置かれていた環境って、運とか間とか、とにかくいろんな要因がタイミング悪く集まって絡み合っていたんだなあ。

 王立学園のトップは学園長ではない。国王陛下なのだ。在学中の問題行動や発言の数々はしっかり上へ伝わり、記録されている。

 俺やラウルが本来入るはずだった学年の上位者には、『上』がろくに機能していなかった時代に増長していたフェランドやその同類の子が何人もいる。彼らが威を振るっていたせいで下位身分への蔑視が蔓延はびこり、学年全体の雰囲気がよくない。
 それら上位者の多くは今回、親の爵位剥奪に伴い平民になる。運よく貴族のまま卒業できた者が国の要職を目指そうとしても、人品にはなはだしく難ありと確認されてアウトだ。
 その後の彼らがどうなるかなど、俺が気にすることではなかった。
 
「ジルベルト様からご伝言です。『フェランドの件は僕にお任せを。兄様は療養に集中してください』とのことです。ルドヴィク様からも、『来年の春頃までは領地でゆっくりして欲しい』とのことでした。王都あちらが完全に落ち着く見通しが、あと半年ほどなので」

 半年もすれば、もう冬だ。だから来年の春ということか。
 もう遅いのでジャッロ殿には一泊してもらい、翌日の朝には再び王都へ発つということになった。



   ■  ■  ■ 



 ―――それにしても、本当に薬物が原因なんだろうか。俺達にとって都合が良すぎないか?
 部屋に戻って椅子にストンと腰をおろし、改めて首をひねっていると、アレッシオが人払いをした。

「アレッシオ?」
「……あなたに、お伝えしていなかったことがあります。あの暗殺未遂の日、私が目にしていたものを」

 俺の前に膝を突いて、許しを乞うように見上げてくる。

「私はあの日、恐ろしい幻覚を見ました。あなたが……助からぬ深手を負わされた幻です」
「……!?」
「それと、奇妙な白昼夢を。ごく短い夢から覚めてみれば、私が目にしたものごとは大きく変わっており、深手は軽傷に、流れ落ちて身体が浸かるほどの流血はほとんどが消滅しておりました。失う恐怖で頭がおかしくなりかけていたのだろうかと、幾度となく思いました。今これをあなたに話すのも、あなたに拒絶されはしないかと、恐ろしくてならない」
「拒絶なんて―――するわけがないだろう」

 アレッシオの頬に両手を添えた。目をしっかり合わせて、「絶対に」と念を押してやった。
 彼は微かに泣き笑いの表情を浮かべ、俺の膝に頭を乗せてきた。不謹慎で失礼かもしれないが、寂しがりの黒い大型犬に懐かれている切なさと愛おしさを覚え、深みのあるダークブラウンの髪をさらさらと撫でた。

「あの時、私が目にしたのは……」

 そうしてアレッシオは語り始めた。その話が進むにつれ、俺の心音は倍速で打ち始めた。
 俺は俺以外全員の記憶が修正されているものと思っていた。けれど、アレッシオは違ったのだ。彼は俺が、あの日間違いなく命を落とすはずだったのを憶えていた。
 そして、奇妙な『白昼夢』。
 姿は現わさず、声だけだったみたいだけど―――『悪魔』って―――子猫おまえ、何やってんの?
 アレッシオの口調と言葉選びで説明されると、ものすごく大物っぽく聞こえて別悪魔べつじんかと思いそうになるが、『うきうきした子供っぽい声と口調の悪魔』で、こいつが自分を捧げようとする寸前で止めてくれたなんて、子猫おまえしかいないだろう?

「私はその問いかけに、こう答えたのです。『代償は、支払うべき者が支払うべきだ』と」
「……!」

 それは……それはまさか……。

「その直後に強い風が渦巻き、また笑い声が……よく聞き取れなかったのですが、今思えば、了承を意味する言葉を返していたのではないかと、思います」

 ……代償が、変更されたのか?
 俺ではなく、フェランド達に……数々の元凶でありながら、今まで自らは何も支払わず、人に押し付けて逃れてきた者達に。
 そんなことが起こり得るのだろうか?

 以前、子猫について考察したことが頭をよぎる。もしあの子猫がゲームキャラとして存在したら、どうなっていたか。
 たまたま代価となるアイテムを持っていない時に願いごとをすれば、自分の命が代償になってしまう。でもきっちりアイテムを用意して話しかければ、別の選択肢が出てくる……。

 もしもあの子猫と契約を交わす時、あの場に俺以外の誰かがいれば、どうなっていた?
 願いはひとつ、叶えて欲しいと訴える者は一人、けれどその場にいる人間は二人。

 ―――生贄、という言葉が浮かんだ。

 もしや、可能だったのか。己の欲望を叶えてもらうために、別の人間を生贄に差し出すことが。
 ああそういえば、何かの話で、子猫が言っていた。俺はそれを思い付かないだろうし、思い付いてもやらないだろうと。
 子猫の『言葉』を聞けて『契約』ができる者には一定の条件があり、生贄にされた者におそらく拒否権はない。俺は最初から自分自身が代償であることに異議はなく、たとえあの時に訊かれていたとしても、他人を犠牲にする選択肢は望まなかっただろう。
 だから俺の契約における代償の部分を、アレッシオの要求で俺ではなく別の者に書き変えた。今起こっているのは、そういうことなのか?

 アレッシオの話から察するに、彼は子猫のことには気付いていない。
 でも彼は、本来の記憶をまったく失っておらず……ずっとこんなにも不安そうなのは、もしかして、だからなのか。本来なら俺があの時点で終わっていたのを憶えていたから、ずっと。

「アレッシオ……!」

 彼の背中を掴み、頭を胸に抱き込んだ。
 ごめん、本当に怖かったろう。不安だったろう。気付いてあげられなくてごめん。あんなものを見せてしまってごめん。
 だけど―――どうしよう。これを彼に話してしまって大丈夫なのか?
 わからない。こんなことは予想だにしていなかったのだから。
 彼に打ち明ければどんな影響を及ぼすのか、それとも及ぼさないのか。俺一人だけで済むならいいが、アレッシオによくないことが起きてしまうのは嫌だ。

 アレッシオと子猫のやりとりからして、あいつの悪意は含まれていない気がするけれど、こんなイレギュラーが発生した時、契約がどういう性質のものになるのかさっぱりわからない。
 それがおまえの幻覚でも何でもなくて、現実に起こったことなのだと説明するには、そもそも俺が巻き戻ったことや満了日についても話さなければならなくなる。
 どうすればいいんだ。

「すまない、アレッシオ……」
「何故、あなたが謝るのです? 私のほうこそ、このような荒唐無稽な話をして……あなたが目覚めて、こうしてお傍にいられることが嬉しいのに、今度は頭のおかしい男と遠ざけられるのが恐ろしいのですから。情けない……」
「だからどうした。弱って情けなくなったおまえなど、これもまた可愛くていいと思うだけじゃないか。この先私がおまえを許さんことがあるとすれば、こういう時に私以外の膝に縋ることだ」

 ピクリと肩が揺れ、抱き込んでいた顔の角度が変わった。
 きょとんとした瞳が俺を見返してくる。……うむ、そんな表情かおも全力で可愛いぞ。俺はフンと偉そうな悪役づらを作ってやった。

「何度訊き返そうが変わらん。おまえは自分の頭がおかしいかもしれないと言うが、私の頭のおかしさに勝てる気でいるのか。私はおまえのことに関しては大概許せる自信がある。おまえが私に嫌気が差して、別の誰かに乗り換えたいと言い出さん限りは……」
「有り得ない。あなた以外など、それだけは永遠にありません。……あなた、こんな男にそんな甘いことばかり言うから、執着されるんですよ」
「望むところだ! 是非とも好きなだけ執着するがいい!」
「あなたは……」

 肩が震え始めた。一瞬泣いているかと思ってどきりとしたが、おかしくて笑っているみたいだ。よかった……。

「あのな、アレッシオ」
「はい」
「私も……実に荒唐無稽な、頭がおかしいと言われそうな秘密がある。でもきっと時が来れば、おまえには、話せたらと思う……」

 明言はできないけれど、少なくともおまえの記憶それは正しく、夢ではないんだと暗に伝えた。
 アレッシオの瞳に理解の色が浮かぶ。まだ話せない事情があるのだと、俺の言いたいことをわかってくれたようだ。

 彼の『白昼夢』の相手は『悪魔』と名乗った。
 うっすらと、気付いたのかもしれない。……その悪魔の『契約者』が、ほかでもない俺であると。
 ならばその『契約』を軽々に漏らしてはならないのだと、内容を知らずとも察せられる。

「こんな言い方しかできなくて、すまない」
「いいえ」

 アレッシオは俺の手をすくい取り、口づけた。

「いいえ」

 何度でも。


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