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番外・後日談
13. 王宮にて -side公爵
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陛下は非常に多忙な御方だが、息継ぎもできぬ日があまりに続くとお倒れになってしまう。
秘書官がみっしり詰まった陛下のスケジュールをなんとか調整し、ぎりぎり確保された希少な休日の、ごく私的な茶会に招待されたのは八月に入った直後。
参加者は私と宰相、アルジェント財務大臣だ。陛下が立太子された頃からの戦友のような関係で、せっかくの休日なのだから休めと進言するのは無粋な上に見当違いだ。
肩の力を抜いて本音で話せる我々の茶会は、陛下にとってこの上ない気分転換の場なのだと、そのように仰られていたのは二十年ばかり前だったか。
……若い頃の思い出に浸るようになったとは、私達も随分年を取ってしまったのだなぁ。
「余の書状はあちらに届いた頃だろうか」
「ええ、今頃息子はあちらに到着している頃合いでしょう。我が領とロッソの間に通った街道は想像以上に快適なようで、片道二日ほど短縮できたと言っておりましたからね」
「そんなにもか。たいしたものだな」
最初にそれを提案したのは、当時まだ伯爵ではなかったオルフェオくんだ。彼の祖父や伯父―――公表できなかったが実は実父だったというアンドレア――により、ロッソ領内の測量は完了しており、あちら側ではすぐにでも工事に取りかかることが可能になっていたのだ。
ロッソ本邸とヴィオレット本邸までどのように道を通すか、我が子達の計画書を見せてもらって目が丸くなった。
……オルフェオくん。いや、我が息子もそうなのだが。おまえ達本当に、歳はいくつなのかな?
そして苦笑しつつ、両家の合同事業として進める許可を出した。
「閣下のご子息といいロッソ伯爵といい、あの学年は実に豊作ですね」
アルジェント殿がカップを傾け、ハーブティーを口に含んだ。夏場にはすっきりと飲みやすく、温度も抑えてあるお茶だ。
「アランツォーネの令息も非凡だと思っておりましたが、やはりロッソ伯爵があの中では頭ひとつふたつ抜けておるようですな」
アルジェント殿の言葉に宰相が頷き、溜め息をついた。
確かに、オルフェオくんは初対面の頃から非凡だったな。
実のところ私は、彼に会う前まで、アランツォーネの令息からいいように使われているのではと思っていた。あの頃商会が貴族階級でどのような立場にあったのかは誰もが知るところだったし、自分を裏切ることのできない『都合のいい』寄り親候補を捕まえた、それがオルフェオ君なのではと考えていた。
けれど実際に彼らと顔を合わせ、言葉を交わしてみて、裏切ることができないのはアランツォーネの令息のほうだとすぐにわかった。
『オルフェは、将来的には王国内の主要都市が大きな道で繋がれることになるだろうと予測していました。私もそうなるだろうと感じています』
取引のある友好的な領地だけではなく、国全体が道で繋がれるだろう。ロッソ伯爵はそう断言したという。
自分の息子より二歳も下の、二十歳にもならない若造の言葉とバカにはできなかった。その未来はきっと来るだろう。
この話を伝えた陛下も重臣も、「まさか」と否定できる者はいなかった。むしろ何故、そうなる未来を我々は描かなかったのだろう?
何らかのうまみがなければ直接の行き来がない、それがずっと当たり前であり、国の主導で変えようと思ったことすらほとんどなかった。
作物の育ちにくい地に、厳しい環境でも育つ種や苗を与えて育てさせ、災いに見舞われた地に配給や何らかの支援を行うことはしている。しかし、肝心要の『道』にはろくに手をつけていない。
ちゃんとしているのは王都と、王都に接した領地の一部だけで、あとは各領主の裁量次第だ。
「やはり陞爵は覆らぬ。何も与えずそのままにはできぬよ」
陛下が苦笑してそんなことを仰った。宰相もアルジェント殿も、おそらく私も似たような苦笑いを浮かべていることだろう。
きっとオルフェオくんは要りませんと全力で拒否するだろうな。
私も陛下にきみの性格をそのようにお伝えしたんだよ? でもね、ここできみの爵位を上げなかったら、きみ以降の人間が困るんだよ。―――ロッソ伯爵ほどの功績を立てていないのに、って言われてしまうはめになるんだから。
一般的な貴族であれば、誰もがこれ以上のない名誉と感激したはずだった。でも私達は例外もいることを知っている。
それは先々代のアランツォーネ男爵だ。国への多大なる貢献が認められ叙爵された後も、かの家は莫大な利益を生み出し続けてきた。ゆえに先王陛下の頃、子爵に上げてやるべきではないかという話が一時出ていたらしい。
あの家を認めたからではなく、扱いに不満を抱かれて他国に行かれでもしたら困るという、利己的な理由でしかなかった。
しかし先代アランツォーネ男爵はそれを辞退した。自分は国のために当然のことをしているに過ぎない、陞爵など恐れ多いと言って。
亡き父いわく、「あれは単に面倒だったのだろう」とのことだった。生粋の商売人の家にとって、高過ぎる身分など重石でしかないと。
先王陛下はそれを聞き、「さようか。殊勝な心掛けである」とのたまい、あっさり撤回したそうだ。
もともとあの御方、アランツォーネの陞爵に前向きではなく、『成り上がり平民の貴族ごっこ』という陰口のほうに共感なさっていたようだからな。元平民ごときにそのような栄誉は与えてやりたくないと、内心渋っていたのがあからさまだったらしい。
「そなたの話からすると、ロッソ伯爵も嫌がりそうとのことだが……彼にとってはとんだ不運だとしても、あきらめてもらわねばなるまい」
「はははっ、そうですな。私の見立てでは、オルフェオくんの感覚はアランツォーネに共鳴するところが多いのです。非常に嫌がりつつ、渋々受け入れる顔が目に浮かぶようです」
アルジェント殿が深々と頷いた。あちらもご長男がオルフェオくんの専属メイドとまとまったから、私の次ぐらいにオルフェオくんについては詳しいのだよな。
直接本人に会って話したことがあるのは私だけなんだが。
「ずるいぞ、公爵。余もロッソ伯に会ってみたい」
「……陛下」
国王陛下が唇をとがらせて拗ねないでください。あなたおいくつですか。
「私もお会いしてみたいですな」
「私も。息子の嫁はなかなかに賢い娘ですし、あの娘が忠義を尽くす主人には一度ご挨拶せねばと思っておりますゆえ」
三方から非難の視線が突き刺さってきた。
まったく。陞爵の儀の折には、どうあっても王宮に来てもらうのだから、その時に会えるとわかっているだろうに。
「……あれからもうすぐ、二年になるのか」
陛下がふと呟かれた。
―――もうそんなに経つのか。
オルフェオくんの作成した図面を見下ろし、私達の間に重苦しい沈黙が降りた日のことを、昨日のように思い出せる。
あの図面は、何か恐ろしいものを私達に突き付けていた。これまで手も足も出なかったものの巨大さを、あの時、私達は初めて目にしたのだ。
鳥肌が止まらなかった。こんな恐ろしいものは処分すべきではないかと言い出す者さえいた。処分してどうなるのだと陛下が静かな声で諭し、その者はすぐに冷静になって恥じ入っていたが。
そしてオルフェオくんは、明らかにそれが確実に『来る』前提で動いていた。だから私達の中にも、少しずつ危機感が芽生えていった。
二年前の九月初旬、本当にそれが訪れた。来るとわかっていたのに、本当に来ると思わなかった。己の中に矛盾した感情が押し寄せ、一旦はすべて脇に置いて駆けずり回ったあの日。
気付けば私以外の三人も、カップを見つめる目がどこか遠かった。きっと彼らもあの時のことを思い返している。
―――不意に陛下が顔を上げ、いたずらっぽい顔になった。
「ところで、例の教科書はいつ頃できそうなのだ?」
「ほぼ形は出来上がり、あと一~二ヶ月後には完成するかと」
宰相が言い、陛下はニヤリと笑んだ。
「必ずや、陞爵の儀までには間に合わせよ」
「……陛下。ロッソ伯をお揶揄いになるのは、ほどほどにしてやってください」
「その時によるな」
……すまないオルフェオくん。
困った陛下だが、付き合ってやってくれたまえ。
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