巻き戻り令息の脱・悪役計画

日村透

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番外・後日談

17. 支離滅裂が渋滞している件

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 ジルベルトはヴィオレット本邸に一日だけ滞在し、名残惜しそうにしつつも王都へ向けて発った。何日も滞在したら新学期に間に合わないからね。
 日頃から人望のある優等生だし、数日遅れたところで、さほど目くじらを立てられることにはならないだろう。だからといって、たいした事情もないのにわざと休ませるっていうのは、うちの教育方針に反する。
 ルドヴィカに関しては、彼女がロッソ本邸にいた時に、ジルベルトと二人きりで話せる時間をもうけていた。それに俺がロッソ領へ戻るのに合わせ、彼女も王都に向かうという話なので、そんなに間を置かず再会できるだろう。

 男どもはおバカな戦いに一日を費やした代わりに、翌日はみんなイキイキつやつや充実した顔になっていた。
 冷静にあれを思い返せば、「俺らは何をやっているんだ」って気恥ずかしくなるんだけどね。
 でもそれ以上に楽しいよね、ああいうバカやるのって。あれで日頃のストレスがバーンと吹っ飛んだ奴もいるんじゃなかろうか。
 しかしいくら有意義だったとはいえ、遊ぶだけで日程を潰してはいけない。改めて真面目な話の続きをすることになり、今回、女性陣とは別の部屋が用意された。
 ていうかごめんね女子達。俺ら、めちゃくちゃうるさかったろ。

「いいえ、楽しゅうございました」
「ですが確かに、誘惑がとっても多く……いえ、コホン。わたくし達も、あまりお話合いに集中できたとは申し上げにくいので、否やはありませんわ」

 誘惑? 近くで楽しそうにされていると、気が散って遊びたくなるっていうあれかな? ご、ごめんよ。

 寛容な女子達に感謝し、気を取り直して、出しそびれていた議題に移ろう。
 友人達との話でメインになったのは、俺のせいでロッソ領の知名度が上がり、うちで何かの催しを始めると、人の流れが一気に集中しかねないという懸念だった。
 春と秋の祭りに関しては、全国的にどの地域でも行われているので、誰も文句を言い立てたりはしない。けれどそれ以外で特別な祭りを増やすとなれば、近隣の領主にも配慮が必要になるそうだ。
 特定の領地にばかり人が集中する弊害として考えられるのは、それまでメインルートとして使われていた領地が閑散としてそこの領主の収入が落ち込んでしまうことや、開催地周辺の食料を買い込まれて一時的な食糧不足に陥ってしまうこと。それから、道の整備が間に合わず、目的地までのルート上の治安が悪い可能性だ。

「私は単純に、領民の気分を盛り上げてやりたかっただけなのだがな……」

 身内のお祭り騒ぎで済ませるつもりだったから、よそから人を呼び込もうなんてこれっぽっちも思ってなかったんだよな、最初は。

「オルフェの気持ちもわかる。ちゃんと祭りを行える余力が戻っているかどうか、様子見をする意味もあったのだろう」

 ルドヴィクの視線は理解に満ちている。が、だからといって適当に済ませていい話ではなくなってきたから、この場が設定されたわけだ。

「ロッソ領の周辺は変わった祭りごと自体がないから、前回はそれでよかったと思うよ。でも今後は気を付けなきゃいけなくなると思う」
「こちらは道を整備する計画もどんどん進んでいると聞きます。人は便利なほうに流れますから、そうでない場所は当然廃れてしまうでしょう。放置しておくと、それが原因の逆恨みが増えるでしょうね」
「今回ロッソ様に対抗しようとして、同じ日に馬術大会をすると決めた男ですが、あまりいい話を聞きません。王都に接しているのをいいことに、西側地域の物流を牛耳ろうとしているようで、関税もギリギリまで高く設定しているんです」

 なんだそりゃ? 悪徳貴族はあらかた滅びたと思ったのに、まだそんなのが残ってんの?
 怪訝に思って訊いてみれば、そいつは以前はそんなに目立たない、可もなく不可もなしの領主だったそうだ。
 ところが、どうも最近は調子に乗ってあれこれ手を出し、ことごとく失敗しているらしい。
 失敗してんのか。

「だって関税をむやみに吊り上げたら、普通は別の家と取引しようってなるだろう?」
「通行税も結構高く取り立てようとしているから、今までその侯爵領を通っていた商人が迂回し始めているんだ」
「……何をやりたいんですか、その男? 自分で自分の領を追い込んでいませんか?」

 本気で不思議そうな声が出てしまった。だって、ちょっと考えりゃわかることなのに―――って、もしや考える頭がないタイプか?
 友人達の表情を見ると、どうやらそういうタイプのようだった。
 例外もあるけれど、領地持ちの貴族は、大貴族ほど王都近くに領がある。お祖母様の実家の侯爵家がどうなったか調べてみたけれど、その家は昔からろくなことをやっておらず、とうに没落して解体されていた。
 俺に対抗心を燃やしている侯爵って、もしかして敵に回すと怖い奴がみんないなくなったから、調子に乗り始めたってことはないだろうか?

「有り得るな。時期も一致する。労せず己の敵が消え、気が大きくなっているのやもしれん」

 ルドヴィクが頷き、友人達も「同感ですね」「仰る通りではないかと思います」と口々に言った。
 その手の奴って、完全には消えないものなんだなあ。まあ、以前蔓延はびこっていた奴らに比べれば、小物臭が強いけど。

「ロッソ領の祭りに何か仕掛けようとする勇気はないと思うけれど、一応は僕らのほうでも見張っておくよ」
「助かります」

 俺なら敵に回していいと思うあたり、見通し甘い人だよね。何かをしでかそうとしても勝手に失敗してくれそうだけど、せっかくの申し出だからよろしくお願いしておこう。

 それ以降も情報交換はさくさくと進んだ。
 公爵邸周辺の視察にも少し付き合わせてもらい、有意義な数日間の滞在を終え、友人達としばしの別れを惜しみながら公爵邸をあとにした。
 しかし……馬車の長旅というものは、何度やっても慣れない。
 道はかなり整えられ、以前より確実にマシになっている。問題は道じゃなく、馬車という乗り物自体がひどく揺れるんだ。
 俺、サスペンションの構造、詳しく知らないんだよなぁ……。
 現在の技術でそれっぽい緩衝装置を作れないか、研究チームを作って投資中だ。

 そんなわけで、揺れがあまり軽減されない乗り物に長時間揺られていると、身体が固まってバキバキになる。
 乗っているだけなのに疲れるから、道中の宿であんなおかしなものを見てしまったのだろうか。



『どうか私におまえの微笑みを見せてくれ、オルフェ……』

 何故かルドヴィクが俺の顔に触れながら、甘ったる~い言葉をかけてきた(有り得ない)。

『どいてくださいルドヴィク様。―――閣下、僕はずっとあなたのお役に立っているでしょう? この見た目もまあまあだと思いますし、いかがですか?』

 いかがって、何が。
 ラウルがルドヴィクをぞんざいに退かし、懇願するように俺を見つめながら腰を抱いてきた(有り得ない)。

『ラウル兄様、僕の兄様を放してくださいよ。―――兄様? 誰よりもずっと兄様のお傍にいていいのはこの僕なんですからね? これからも可愛がってくれないと拗ねますよ?』

 ジルベルトがラウルを突き飛ばし、俺の腰を抱きながら甘く甘く色気たっぷりに強請ゆすってきた(有り得ない)。

『―――いいかげんになさい。あなた、そんな隙ばかり見せて、ご自分が誰のものなのかよくわかっていないようですね』

 ダークモードのアレッシオが参戦、何故かそこらじゅうから湧いて寄ってくる顔も人数も不明な男達の中から、俺を掻っさらってくれた(有り)。

『あなたの瞳に映していいのは私だけ。言葉を交わすのも、触れ合うのも、私以外の相手は決して許しません。よろしいですね?』

 そのままベッド以外に何もない部屋へ監禁。もちろん片足には枷が嵌められ、伸びた鎖はベッドの脚に繋がっている。

『大丈夫。私がずっと、あなたのお世話をして差し上げますから。あなたは何も考えず、私に愛されていればいいのですよ』

 凍った無表情の中、瞳だけがギラギラと燃えている。
 そんな恐ろしい彼に見おろされ、俺は思ってしまった。

 ……有りかも。

 だって、朝から晩までアレッシオのことだけを考えて、アレッシオに可愛がられながら世話をしてもらうだけでいい毎日だぞ?
 天国かな?
 しかしそこで、ニコラの声がどこからともなく聞こえて来た。

『ダメですよ閣下。ちょっといいかも、なんて思ったらいけませんからね?』
『……やはりダメか……。すまんアレッシオ、ニコラがああ言っている』
『何も問題はないでしょう? 私以外の言葉は無視してしまいなさい』

 アレッシオは気にせず俺を押し倒し、ゆっくり服を脱がし始めた。

『確かに問題はないけど、無視は……』

 可哀想だろう、と言いかけた俺の頭を、その『問題』は稲妻のように貫いた。
 問題大ありじゃん。だってこの部屋から一歩も出ず、アレッシオに世話されて食っちゃ寝の生活をひたすら続けたら―――

『太る……!!』

 運動不足で崩れた体型なんか、おまえの目に晒せるか!!
 ということでアレッシオと交渉を重ね、俺の熱弁に圧倒された彼は渋々譲歩。監禁場所の範囲を緩和し、一室ではなくこの建物内なら自由に歩いていいよということになった。
 どこの建物かは知らないけれど《秘密基地》ぐらいの広さがある。よっしゃ、これならオッケー!
 と、拳を天に掲げたあたりで瞼がパカッと開いた。



「………………」

 宿の天井が見える。
 ここは宿の寝台。
 俺の隣には、寝息を立てる彼。
 ちょっとずつ思い出し、俺は遠い目になった。

 なんつー、わけわかんないものを見てんの、俺……。


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