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番外・後日談
18. 独断はしない主義
首を傾げながらロッソ領に戻った九月中旬。
俺は子猫を肩に乗っけて「ただいま」を言いつつ、改めて首を傾げた。
「何故あのようなものを見たのだろう? 我ながら訳がわからん」
「そーだな……ぷひゅ……」
笑うなよー。見たくて見たわけじゃないんだからなー。
ぷすぷす笑う子猫の額をちょんちょんとつついた。
しかし変な内容だった。なんでいきなりルドヴィクとラウルとジルベルトが俺を口説くんだ? 有り得ない展開の連続に、目覚めた直後はしばらくポカーンとしてしまった。
あまりに有り得なかったので、翌朝アレッシオやラウルの顔を見ても気まずくならなかったのはよかったけれど……俺の頭どうしたんだろうと、本気で心配になりかけた。
ちなみにアレッシオに掻っ攫われたい願望がないかと問われれば、攫われてみたいです。その場面だけはしつこく脳内再生しております。
いきなり有象無象の男どもが湧いて、一斉に求婚されるあたりは「自意識過剰過ぎるんじゃないの俺!?」と自分の頭をぶっ叩きたくなったけどさ。
独占欲全開のアレッシオに見つめられたシーンは、きゅんきゅんゾクゾクいたしました……。あれだけだったら普通に「いい夢見た」で終わったんだけどな。
ああいうヤバい男って、現実には好きじゃなかったはずなんだけど、アレッシオならドンと来い! な気持ちになる不思議。
仮にもし、彼が本気で俺を監禁したいと言い出したら、受け入れたっていい。
ただし、アレッシオが罪を咎められない方法でだ。だから足枷と鎖はやめたほうがいいと思うんだよ。どんなに気を付けても万が一は起こるし、人に見られた時なんかに「俺が勝手に彼の部屋にひきこもってました」っていう言い訳が使えなくなっちゃうじゃないか。
行動範囲がベッド周辺だけっていうのもダメだ。今の体型をキープするためには、最低でもウォーキングでシェイプアップできるだけの面積が要る。これは譲れない。
これらの環境が満たされるなら監禁軟禁オッケーだ。アレッシオには世間様から非難されない方法で、上手に正しく俺を飼ってもらいたい。
しかしそうなるとやはり、場所は中心部ではなく郊外がいいか。
適度に人目につかず、暮らしに困らないところがいい。
生活費に俺の個人資産を密かに移しておいて……
「うおぉ~い? 正気に戻れ~?」
「……はっ」
肉球に鼻の頭をピタピタされて我に返った。
いかんいかん、つい熱が入りかけてしまった。こういうことは俺一人で勝手に決めてはいけない。二人のことなのだから、アレッシオにもきちんと相談せねば。
……ん? 猫よ? 何故そんな白い目で俺を見るのかね?
翌日、アレッシオを伴い、子猫を肩に乗せたまま執務室に向かった。
あまり子猫に馴染みのない部下が何人かぎょっとしている。動物嫌いや猫アレルギーらしき者はいなかったはずだし、愛玩動物を飼う者はそう多くないので、人に慣れた小動物自体が珍しいのだろう。
冷静な表情を保とうとしているけれど、彼らの視線は俺の肩の上でもにょもにょ顔を洗う生き物に釘付けだった。
俺は気にせず不在時の報告を聞き、今月の重要イベントについての進捗を確認する。
「参加者がまた増えました。この様子ですと、ギリギリまで増えるかもしれません」
その報告につい眉根が寄り、執務机に頬杖をついた。
「……締め切りを本番の三日前に設定したのは遅かったろうか?」
「いいえ。前日や一週間前が締め切りの大会もありますし、参加者の滞在費を考慮すればちょうど良いと思われます」
第二回ロッソ杯の、出場申し込みの締め切りについてである。
飛行機や新幹線で日帰り旅行なんてできない世界だ。行き先が隣の領でも、到着予定時刻一~二時間の誤差どころか、一~二日の遅れなんて当たり前にある。
旅慣れた者は道中のトラブルを見越し、締め切りに間に合うよう早めに出発するので、何事もなければ数日早めに着いたりもする。本番までの数日間、宿代も食事代もすべて自腹、それが当たり前。
前回はそれでよかったけれど、領外からの参加者が前年以上にグンと増える今年からはどうなのか。そう思った俺は、参加者の滞在費を一部こちら持ちにするのはどうかと提案したんだけれど、それは滞在日数の違いによる不公平感が大きくなるからやめたほうがいいと意見が出てボツにした。
それよりも、出場者に渡す記念品に力を入れたほうがいい。
一般的な馬術大会は優勝者にのみ賞金が出て、三位まで表彰されるのは国王主催の大会ぐらいだそうだ。だから出場する側も、二位以下は何もないことに慣れている。
そこへきてロッソ杯は、三位まで賞金と豪華景品がもらえる。この規模の大会としては、「なんか出たい」と思わせる魅力があるそうな。
だから今年は口コミで領外からの出場者が「多少は」増えるかもと予想はしていたけれど、俺の想像を遥かに超えて増えた……。
貴族や商家に雇われた護衛、引退した元騎士、そのほか下位貴族の次男三男などもいる。純粋に腕を披露したいだけの者もいれば、上位に食い込んで俺の目にとまって雇われたい、就活目的で来ている者も見受けられた。
乗馬の技術を磨ける者にどんな人種が多いのかを考えれば、予測できてしかるべきだったんだよな、この展開は。
「会場の設営は滞りなく完了しております」
「食料も不足してはおりません。仮設の宿泊施設も利用者が増え、評判は良いようです」
「自警団も機能しておりますので、治安も良いですね」
収穫期はまだ先だし、ロッソ領の作物だけじゃ間違いなく足りなくなるからと、ラウルが商会の伝手を使ってガンガン確保しまくった。俺としては「こんなにいるか?」って思ってたんだけど、このへんはラウルの読みのほうが正確だった。
一ヶ所だけじゃなく、周辺の領からまんべんなく輸入しているので、一部地域が食料不足に陥る心配もない。
自警団については、報酬をちゃんと設定したのがうまくいった。給金はアルバイト並みではあるものの、自警団専用の食堂を構え、深夜手当も出しているから満足度は高いようだ。
まっとうな仕事をして美味いメシが食えて、少しばかり懐も温まり、民に感謝される。やりがい搾取と言うなかれ、これのおかげで浮浪者が激減したんだぞ。
「ところで、初代一位の体調はどうなのだろう? 問題がなければ観客席にご招待したいが」
俺の近くに席を設けるから、席はゆったり、護衛もガッチリ。安心安全で座っていられるように配慮するけれど。
アレッシオに尋ねれば、少し思案する顔になった。
「産後の肥立ちは悪くないと聞いておりますし、一ヶ月ほどになるので支障はないかと思われますが。ニコラ殿にもう一度確認しておきましょう」
「頼む」
ダメージが残っているかもしれないし、こっちで強引に決めたらいけないからね。
二コラのだらしないニヤケ顔が浮かび、つられニヤケをしそうになるのを我慢しながら、俺は昨年のロッソ杯を思い返した。
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